魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

10 帰ってこない二人を心配していたら

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 さて。
 リアさんに手紙を届けに行ったアルフィオさんとエアハルトさんなんだけど。

 一向に帰ってこない。
 何かあったのかな?



 帰城予定の五日後。
 やっぱりなんの音沙汰もない。

「もしかして何か事故とかあった?」
「問題ないだろ」
「だって、アルフィオさんがいるのにこんなに時間かかるのおかしくない?」
「問題ない」
「…迎えに行ってみた方がいい?」
「問題ない」
「近くまで来たら魔力感知できると思うから」
「問題ないと言ってるだろ?」

 ふうって溜息をついたクリスは、膝の上に座ってる俺の腰を抱き寄せて、それから額にキスをする。
 クリスの執務室で。
 俺の書類仕事は一段落したので、にこやかなオットーさん指示のもと、俺は座り位置をクリスの膝の上に移された。
 いつもなら仕事の邪魔をしないようにおとなしく軽くすり寄って体を預けるだけにするんだけど、いつまでも帰城しない二人が気になって仕方なく、そればっかり口にしてしまう。

「間違っても感知して勝手に飛ぶようなことはするな。…むしろ、アキは俺以外の魔力など感知しなくていい」
「でも、暴走しそうな人がいたら」
「……それは、それ」

 くっ、と、眉間に皺が寄った。
 あ、本心ではそれもしてほしくないって顔だ。でも俺が気にするから言わない顔。

「エアハルト殿とアルフィオ殿の肩を持つわけじゃないですが」

 と、ザイルさんが新しい紅茶を執務机に置きながら言葉にした。

「あの二人なら大概なことに対処できます。…そうですね。仮に、何十人規模の盗賊に襲われたとしても問題ないでしょう。キマイラ一体くらいならなんとかなるでしょうし、スライムならなんの問題もありません。ワイバーンの群れに襲われでもしない限り、問題が生じることはないでしょうね。それくらい、あの二人には魔法の腕がありますし、物理攻撃の腕に関しても申し分ないですから」
「おお……」

 ザイルさんが褒めた。
 ちらっとオットーさんを見たら、難しい顔をして頷いていないけど否定もしない。ってことは、オットーさんも同意見ってことだ。
 護衛コンビはあの二人に対していい感情は持ってない。それはクリスに対するというより、俺に関してあの二人の印象が酷いものになってるからなんだけど。それでもちゃんと認めるところは認めてるんだ。

「帰城が遅れてる理由は大体予想がついている。だから心配するな」
「あ、そうなの?」

 クリスが意外なことを言った。
 わかってるなら言ってほしかった。

「殿下の思惑通りには進まないってことですね」

 オットーさんが不機嫌そうな表情から一転、ものすごく楽しそうにクリスに言った。
 クリスの思惑とはなんぞ。
 多分、俺だけがわかってない。
 クリスと護衛コンビは、時々こうやって俺のわからない話をする。
 お互いにわかりあってまーすって態度がちょっと気に障る。俺も仲間に入れてほしい。

「アキはそのままでいいよ」

 って、何故かはぐらかされる。
 ほんとに、何故っ。

 二人の帰城が遅れてる理由。
 それがわかったのは更に二日後のこと。
 午後、エアハルトさんとアルフィオさんが、無事に戻ってきた。

「両名、任務より戻りました」

 って、執務室に来た二人。

「よかった…。怪我とかしてない?予定より遅かったから心配してた」
「アキラ様に心配されるなんて……っ。全く問題ありませんでした。傷一つありません。アキラ様のその笑顔だけで疲れも全て消え去ります…!マシロ殿の花はこちらに…!!」
「そうか。なら、エアハルトはすぐに暁亭のレヴィの下に行け。今後の指示をそこで受けろ」
「え」

 クリスからの指示に、エアハルトさんは固まった。
 休む間もなく。
 ははは。
 なんかごめん。

「殿下、エーデル伯爵令嬢は乳母殿に引き合わせましたが、その後の指示はございますか」

 え。

「いや。明日にはトビアを迎えに行ってくれ。…今日はエアハルトについていていい。おそらくお前にも関係のある話をされるはずだ」
「わかりました。…エアハルト殿、行きましょうか」

 アルフィオさんはとてもとても嬉しそうにエアハルトさんの腰に手をあてて部屋を出ていった。
 あれ、エスコートだよね。エアハルトさん、何も言わないくらい呆然としてたな。
 …いや、二人のことは今はいい。無事に帰ってきた、それだけでいい。

「伯爵令嬢って、リアさん?」
「ああ」
「乳母って、メリダさん?」
「…ああ」
「引き合わせたってどういうこと」
「言葉の通りだな」

 はぁ…って大きな溜息。
 なんでだ。
 一緒に行ってーっていう手紙を出して、返事の手紙をもらって、行ってくれるなら改めて迎えに行って……の、はずだったんだけど…?
 リアさん、一緒に来たってこと?や、確認するまでもなくそういうことだよね?
 書類片手にやや呆然としてた。
 来てくれたことは嬉しいけど、なんというか、こんなに早く?
 でも、クリスも護衛コンビも苦笑はするけど驚いていない。
 あ、もしかして、帰城が遅れてる理由が予想できる……って言ってたの、これのことか!?

「…なんで言ってくれなかったのさ」
「確証はなかった」

 そりゃそうだろうけどさ。
 こうだと思うよーって、一言いってくれればいいのにさ。
 そんなことを思っていたら、ノックの音がした。
 ザイルさんが開けてくれて、マシロを連れたリアさんとメリダさんを見たから腰を浮かせたら、元気な、とても元気な、マシロの声で、

「ぱぱ!」

 って呼ばれ、抱き着かれた。







*****
章の1話に追いつきました…(笑)
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