魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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自由の国『リーデンベルグ』

4 俺はクリスに囲われてる、らしい

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 自由の国『リーデンベルグ』。
 ギルマスやエアハルトさんの出身国で、エルスターの東側の国境と接している友好国。
 現在の王様はテレーゼ・イリア・リーデンベルグ女王陛下で、穏やかな人柄をしているらしい。その女王陛下の下、魔法に関する研究が特に進められており、魔法師の育成にも力を入れている。
 この世界に数少ない魔法学院を擁する国。
 おそらく、この世界の中で魔法技術が飛びぬけている国。
 いつもお世話になってる洗浄魔導具とか遮音魔導具を作り出した魔法研究所がある国だ。
 …ちょっと行ってみたいな…とは、思ってたけど。




「…行かせるわけがないだろ」

 黙って話を聞いていたクリスが、苛ついた様子で紅茶に口をつけた。
 学院の構想を聞いてた時はこんな雰囲気じゃなかったんだけどな。

「何も坊主だけで行けって言ってるわけじゃないだろ?」

 ギルマスは呆れた様に、でもわかっていたように答える。

「どのみち学院と研究所を視察って形で訪れるためにはテレーゼ陛下の許可がいる。…施設の視察を理由に第二王子が友好国を訪問することになんの障害がある?その訪問に伴侶が同行することもよくあることだ」
「……」

 クリスはまだ渋い顔をしていた。眉間の皺が深い。

「…アキは」

 不機嫌そうな顔をしながら、クリスは俺の頬をなでた。

「行きたいか?」
「行きたい、けど」

 二択なら、行きたい、って言う。
 こういうことは先にやってるところを参考にした方が失敗が少ないと思うし。
 それに、学院だけじゃなくて研究所にも興味があるし。
 でも、クリスにも俺を行かせたくない理由があるんだと思う。だから、ギルマスが「一緒に」って言ってるのに、こんなに渋い顔をしてるんだろうから。

「クリスは、行きたくない?」
「………」
「殿下はアキラさんを閉じ込めておきたいんですよ」
「へ?」

 オットーさんの呆れ声が、クリスより先に答えた。

「魔法学院設立計画も国内だから静観してるんです。それを現実にするために他国に行かなければならないなんて考えてもいなかったんでしょう。
 魔法が進んでる国に行けばアキラさんも興味を持つかもしれないし、相手もアキラさんに興味を持つかもしれない。
 殿下にとってそれは許容し難いことで、できるだけ他人に見せないよう自分だけで囲っているのに、見せなければならない上に興味まで持たれたら、自分がどうなるかわからないから反対するんです」

 淡々と。
 淡々と語るオットーさん。
 淡々と語られすぎて、俺にはすぐ理解できなかった……ん、だけど。

「え」

 眉間に皺を寄せたままのクリスが、さらに苦虫を噛み潰したような顔でオットーさんを睨んで、俺の視線に気づくと、さっと視線をそらした。
 ……図星ってこと?

「クリストフ、お前なぁ…」
「俺、クリスに囲われてたの?」

 ギルマスと声が被ったけど、まぁいい。
 あと、大丈夫。『囲われる』表現はちゃんとわかってる。多分。

「アキラさん」
「はい」

 苦笑したのはザイルさん。
 姿勢正して返事しちゃったよ。

「十分囲われてます。……まあ、それはいいとして、今、一番大事なのは、アキラさんが囲われてるとかそういうことではなくて」
「はい…?」
「殿下の独占欲が酷すぎるって話ですからね?」
「独占欲……」
「他人の目に触れさせたくないなんて、愛が重すぎると思いませんか?」

 なるほど。
 そういうことか。
 ザイルさんからクリスに視線を移したら、俺を見る目と視線があった。

「クリス、俺のこと、独り占めしたいの?」
「……当然だ」
「俺も、クリスのこと独り占めできる?」
「してるだろ?」
「クリスは嫌?」
「嫌なわけあるか」
「そうだよね?……うん。俺も、嫌じゃない」

 中途半端にクリスのことを好きなわけじゃない。マシロにだって嫉妬する瞬間があったくらいなんだから。
 重すぎるとも思わない。同じくらい俺も想ってるから。

「へへ」

 クリスの腕にしがみついたら、逆側の手で頭を撫でられた。そのうち膝の上に座らされて、額にキスをされた。

「……アキラさんもだってこと忘れてた」

 呟いたのはザイルさんの声だったと思う。うん。同じ。一緒です。
 クリスにねだられたら拒絶できない俺だけど、同じだからこそ、それはクリスも一緒なわけで。

「クリス、俺、リーデンベルグに行きたい」

 首元に顔をすりつけながら言うと、深い溜息が返ってきて、少し強い力で腰を抱かれた。

「……わかった」
「ありがと、クリス」

 お礼の意味も込めて頬にキスをした。

「お前らいい加減にしろよ……」

 ずっと呆れっぱなしのギルマスだけど、本気で呆れてるわけじゃないこと、俺は知ってるからね、ギルマス!





 その後は他国訪問に関する内容を詰めた。
 下手に目的を隠すと印象が悪くなるので、女王陛下あてに目的とかを正直に書いた書簡を送る。
 それに対して許可の書簡が届いたら、今度は期間とか同行者の名簿や護衛の人数などを検討して、あちらにまた書簡を送る。
 期間、人数にも問題なければ、実際に移動。
 これら全てに陛下を始めとしたお偉いさんたちからも承認をもらったりしないとならない。
 あと、クリスが担当している仕事に関してとか。
 …全部の手配が完了して実際に行けるのは、早くても来月だろうって言われた。書簡のやり取りだけで軽く一ヶ月使うらしい。
 そりゃそうだよね。基本陸路をお馬で移動だから。
 ……電話がほしいね。
 ……メールもほしいね。
 外交とか、もう少し楽になるのにね。

 ……外交。

 ああ、そっか。
 これ、外国交流っていう立派な公務……だ。




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