魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

閑話 不思議な方《後》

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「ほんっと、同じ貴族なのにマイナーさんとのこの違い。警戒してた俺がばかみたいなんだけど」
「あれは極端な例だろう」
「そう願う」

 ……『マイナー』さんとは、どちらの貴族の方かしら。そのようなお名前、聞いたことがないのですが。ちらりとお兄様を見ましたが、お兄様もやはりご存じない様子。

「今、正式な団員は十五歳の平民の男の子なんだ。毎日送り迎えしてるんだけど、ナディアさんどうする?貴族の人だし、王都にも家があるならそこから通うのは問題ないし、送迎に不安があるならクリスにお願いして護衛つけてもらうこともできるけど」
「え…と?」
「あ、それから、お休みとか、そのあたりの話も今した方がいい?ええっと、あとは、お給料のこととか」
「あ、の」
「あー…制服はズボンタイプだけなんだけど、ナディアさん用に女性用も作った方がいいのかな。これ、十分男女兼用できるとは思うんだけど。あ、あと、貴族の人の身分証明ってどうなるのかな。当主の人……お父さんとかに出してもらえばいい?あ、あと、保護者の人にも同意をもらった方がいいよね。お子さんを預かることになるし。今から領地に行ってお父さんに会うより、お兄さん来てるんだから、お兄さんに代わりに同意書に署名してもらってもいいのかな?あ、それから――――」
「アキ、少し落ち着け」

 苦笑された殿下が、妃殿下の腰を抱き寄せて、とても自然に頭に口付けを落とされた。
 それにしても、妃殿下の話されることを聞いていて思ったのですけど――――

「あの………、私、二十歳なので――――」

 未成年ではなく成人です。家族の庇護の下にいることは自覚しておりますが、何も決定できない子供ではないのです。

「え!?」

 驚かれたのは妃殿下だけでした。

「うそ…え、ごめんなさい。俺と同じか、ちょっと下とかに思って……、思ってですね」

 突然あたふたとされはじめた妃殿下。

「うわ……ごめんなさい。俺、だから、ずっとナディアさんに失礼な態度してました……っ。年上の人にため口とか…ほんとごめんなさい」

 ため口とはなんでしょう。
 ですが、今までの口調のことで慌てている様子に、私は思わず笑ってしまいます。
 楽しい。
 ここにはただお話を聞くためだけに来たのに。
 国の魔法師団に入るということはお仕事をするということで、責任ある立場になるということ。これまで自由気ままにお庭のお手入れをしていただけの私にとって、お勤めができるか不安ではあるけれど、なんだかこの方のもとでなら、なんとかなるような気がしてくる。

「ごめんなさいナディアさん。えっと、気を悪くしないでほしいんですけど…、女性って年齢がよくわからなくて。あ、女性に年齢を聞くとかも失礼にあたるって聞いたこともあって――――」

 話せば話すほどにわたわたと慌てる妃殿下。
 私が笑っていても咎めないこの雰囲気も、私の不安を消していく。

「あの……妃殿下」
「はい!」

 その返事にまた笑ってしまった。

「あの……、私、先ほど申しました通り、誰かを何かを傷つけるような魔法が使えるとは思えません。もし、それでもいいとおっしゃっていただけるなら、こちらにお世話になりたいです」

 直感は、きっと間違いじゃない。
 この方のもとでお仕事をするのは、楽しい。

「え」

 妃殿下は驚いた顔をして私を見た。
 …もしかして、入団は、できないのでしょうか?
 そう思いいたり少し悲しくなりましたが、その後の妃殿下の言葉に、私は笑うしかありませんでした。

「ナディアさん、入団してくれないんですか…?俺、てっきり入団してくれるものと思って、あれこれ話しちゃったんですけど…、あ、もしかして、ほかに何か悩んでることとか不安とかあるとか、ですか?あ、確かにお城の中には女性が少ない……いや、侍女さんは多いからそれなりにいる……?あー、でも、騎士の人にはいると言っても少ないし、肩身狭く感じるとか、身の危険があるとかなら、できる限りのことはするけど俺が全部どうこうすることもできないですから……、あ、いや、違うか。絶対大丈夫にしますから、俺と一緒に生活の中で使う魔法の研究をしてほしです!!」

 不思議な方。
 身を乗り出して目をキラキラさせて、貴族の娘でしかない私にお願いをしてくれる妃殿下。
 殿下はずっと苦笑したまま、妃殿下の腰を捉えてソファに引き戻していらっしゃる。
 仲睦まじい様子にため息がでてしまう。
 妃殿下は期待に満ちた目で私を見たまま。
 この瞳に嘘はないと確信が持てます。

「あ、あの、よろしくお願いいたします」
「はい、喜んで!!」

 とても元気よくお返事をいただきました。




 妃殿下はアキラ様といいます。
 王都に屋敷を持っていない私は、騎士団の女性寮に仮入居となりました。まだ魔法師団の施設はないための処置だそうです。
 先に入団していたトビア君は素直で勝気な少年で、末っ子の私にとって弟のような子です。
 私が入団して間もなく、平民のマウリオさんが入団されました。軽薄そうな見た目に反して、とても誠実でとてもまっすぐな方でした。
 第二王子殿下の直属の兵団の方たちとも交流がありまして、トビア君もマウリオさんも一緒に鍛えられていることが多いです。さすがに私にはその訓練についていくことはできませんから、参加できません。
 アキラ様とマウリオさんと共に、魔法についてお話合いをする時間は、私にとってとても有意義なものです。そこでの話し合いをもとに、魔法を組み立てていく作業も苦になりません。
 お庭の手入れしかすることのなかった私ですが、こんなに楽しい魔法の使い方に毎日が興奮の連続です。

「無駄ってことはないと思うよ。ナディアさんが優しい心の持ち主だから、魔法だって優しくなるんだ。ナディアさんの作る風は、俺のなんかよりすごく優しくて暖かくてほっとするから」

 笑顔で私に伝えてくださったアキラ様。
 私もまた笑顔でそれに答えます。

 私、アキラ様に出会えてよかった。
 私に、この道もあることを教えてくださったお父様やお兄様には感謝しかありません。
 魔法師団のナディアとして、これからもずっと、頑張り続けます。







*****
いずれナディアさんはリアさん化………( ̄▽ ̄;)
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