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俺が魔法師である意味

閑話 かなしいなみだ うれしいなみだ

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「マシロごめんね。今日も練習できない」
「マシロ、お昼一緒できなくなった…」
「マシロ、本当にごめん!!」



 あきが、ましろにかまってくれなくなった。
 くりすが、あきは今いちばんたのしいときだから、少しがまんしろっていう。

 朝ごはん食べたら、ばいばいする。
 お昼ごはんはばぁばといっしょ。あきもくりすも帰ってこない。
 くりすのおしごとのおへやにも、つれて行ってくれない。
 あきに、あたらしいなかまができたから。だから、ましろは、あとまわし。




「できた」
「よく書けたわね。マシロちゃん」

 ばぁばが字をおしえてくれる。
 かみいっぱいにかいたのは、ましろと、あきと、くりすのお名前。

「できた?」
「ええ。とてもきれいに書けたわね」

 ほめられた。
 ばぁばの手がましろのあたまを『いい子』ってなでてくれる。
 あきも、なでてくれる?
 くりすも、ほめてくれる?

「こえね、ごはんのときに、みてもらぅ!」
「そうね」

 うれしい。

 早くみて。
 早く帰ってきて。
 早くほめて。
 早くぎゅってして。

 わくわくしながら、ばぁばといっしょに帰りをまつ。
 えほんをよんでもらった。
 あきとくりすが大好きっておはなしした。
 ましろと、あきと、くりすのお名前をかいたかみを、だいじに、だいじに、もってた。




「……え。あら……、お夕食だけでも戻ってこれないんですか…?……マシロちゃんが寂しがってますから……。……ええ、ええ。わかりました。マシロちゃんには私からお伝えしますね」

 そろそろかな。
 あきとくりす、帰ってくるかな。
 だいじなお名前をかいたかみをなんどもよみかえして、えへへってわらう。
 ましろね、がんばったの。
 はやくほめて。

「マシロちゃん」
「ばぁば?」
「あのね、マシロちゃん」

 だれかとおはなししてたばぁばが、こまったおかおでもどってきた。

「坊っちゃんとアキラさん、今晩はどうしてもやらなきゃならないことがあるから、お夕飯も戻ってこれないんですって」
「……ふぇ?」
「さみしけど、私と一緒にお夕飯にしましょう?」
「……」

 あきとくりす、おかえり、しないの?
 ましろずっといい子でまってたのに、おかえり、しないの?

「……ぅぇ」
「マシロちゃん」
「ふぇぇ……」

 目からあついのがおちた。
 ぽたぽたって、手にもってた かみにおちて、ましろと、あきと、くりすのだいじなお名前がにじんでく。

「マシロちゃん」
「にゃんで? あきとういす、ましろだいじじゃにゃぃ…?」
「お仕事が忙しいだけなのよ。マシロちゃんはとても大事にされてるでしょう?」
「でもいにゃぃっ」
「マシロちゃん…」

 ばぁばがぎゅってしてくれた。
 ましろはなきながら手をにぎったから、だいじなお名前をかいたかみが、くしゃってなった。
 とっても、とっても、かなしかった。
 なみだがぼろぼろおちて、とまらなかった。

 ばぁばはましろがなきやむまで、ずっとずっとだっこしてくれた。
 手をつないで、おりょうりするところにいっしょにいった。
 ましろのすきなとろとろのあまいぱんのおかゆに、あきのお花をまぜてくれた。
 ばぁばはましろのきらいなおやさいをたのまなかった。すーぷも、さらだも、ましろのすきなものばかり。
 ばぁばのごはんももらって、手でおしてうごくのにのせて、ばぁばのおへやにもどる。
 …にぎってた、だいじなお名前をかいたかみが、なかった。どこかにおとしちゃった。
 でもいらない。
 あきとくりすがみてくれないなら、いらない。

 ましろはすぷーんを手にもったけど、ちゃんとたべれない。すーぷも、おかゆも、ぽたぽたおちてく。

「大丈夫。泣かないで」

 やさしく言ったばぁばがたべさせてくれた。
 あきのおひざの上でたべたかった。
 くりすにあーんってしてほしかった。
 ましろ、ひとりでたべれるけど、あきとくりすにたべさせてもらいたかった。

 あきのお花のはいったおかゆだけはぜんぶたべた。ほかのはぜんぜんたべれなかった。
 ばぁばはおこらない。少しだけこまったようにわらって、ましろのあたまをなでてくれた。

 ごはんのかたづけをした。
 手でおすものにおさらをのせて、またおりょうりしてくれるところにおしていく。
 ばぁばのおへやにもどってすぐ、ましろはもとのましろになった。

「みぃ」
「あら」

 どれすのなかから出て、ばぁばのかたにとびのった。
 おやすみなさい。
 言えなかったから、ばぁばのおかおをいっかいなめる。

「ふふ。おやすみなさい、マシロちゃん」
「みぃ」

 もとのすぎたのましろでも、ばぁばはかわらずやさしくあたまをなでてくれる。
 ばぁばはましろをだきあげて、いつものべっどにおろしてくれた。
 ましろは丸く小さくなって、めをとじた。




 たのしいゆめをみた。
 あきとくりすがわらってるゆめ。
 ましろもいっしょにわらってるゆめ。
 さみしいから、そんなゆめをみるんだ。
 さみしい。
 あきと、くりすが、ましろといっしょにいないから、ましろは、さみしいの。




「どこがいいかな?マシロが行きたいって言ったら、王都でもいいと思うんだけど」
「遠乗りでもいいな。北の湖は?」
「それもいいね。お弁当作ってもらって、湖で水遊び……は、マシロは嫌がるかな」
「そうだな」

 ましろの耳がゆれた。
 あきと、くりすの、こえがする。
 まだ、たのしいゆめをみてるの?

「あ、耳が動いた。マシロ、起きる?」
「まだ寝てていい。俺はアキを構いたいからな」
「あのねぇ…クリス。今日はマシロを構い倒す日って決めたよね」
「久しぶりの休暇だからな。俺としてはアキをどろどろに甘やかしたいんだが」
「もぉ……なにいってんのさっ」

 はっきりきこえるこえに、ましろはおっきくめをあけた。

「マシロ」
「み」

 ましろのめのまえに、あきがいる。
 いつもと同じえがおのあきがいる。

「ぁき!!」
「っと」

 おきあがって、すぐにすがたをかえて、あきにだきついた。

「あき、あきぃっ」
「うん、ごめんねマシロ。ずっと一人にしちゃって」
「ふぇぇっ」
「あっ、泣かないで、ね?」

 あきがぎゅってしてくれた。
 うしろから、くりすがましろとあきをぎゅってしてくれた。

 おやすみしたのは、ばぁばのおへやだったのに、めがさめたら、ましろはあきとくりすのおへやのべっどにいた。
 あきとくりすにはさまれてねてた。

「あのね、最近ずっとマシロと一緒にいられなかったから、今日一日はずっと一緒にいよう」
「っしょ…?」
「今日はずっと一緒!一日しっかりお休みにしたから」
「……昨日に詰め込んだせいでまともに夕飯も食べられなかったがな……」
「あー……、執務攻めになってクリスが逃げ出す気持ちがちょっとわかったよ……」

 ましろは、あきとくりすをじゅんばんにみあげた。

「ほんと?あきも、ういすも?っしょ?」
「本当!」
「ああ」

 ふたりで、おんなじわらうおかお。
 ましろの大好きなおかお。

「ましろ、うれち!」

 それからまた、二人にぎゅうぎゅうってしてもらえた。

 べっどの上できゃあきゃあってあそんだ。
 にこにこおかおのばぁばが、あさごはんをもってきてくれて、ましろはあきのおひざのうえにすわる。
 すぐとなりにくりすがすわって、あきとましろのお口にあーんってしてくれる。
 もぐもぐしてたら、てーぶるのうえに、かみをみつけた。
 ましろがかいた、だいじなお名前をかいたかみ。なみだがぽたぽたおちて、字がにじんで、くしゃくしゃになったかみ。

「あ、これマシロが書いたんだよね?部屋に落ちてたやつ拾って伸ばしてみたんだけど…。すごいね。俺たちの名前書いてくれたんだ。とっても綺麗に書けてる」
「アキより字が綺麗だ」
「クリスは一言余計っ。マシロ、頑張ったね。俺たちの名前書いてくれてほんと嬉しい。ありがとう、マシロ」

 あたまをなでてくれた。
 うれしいおかおで、あきがましろのおかおにちゅってしてくれた。
 くりすがわらった。大きな手が、ましろのあたまをたくさんなでた。
 ましろはすごくうれしくなって、また、なみだがぽろぽろおちた。




 みんなでおでかけするまえに、あたらしいかみに、ましろと、あきと、くりすのお名前をまたかいた。
 こんどはなみだでぽたぽたしない。くしゃくしゃににぎったりしない。
 だいじに、だいじにかいて、だいじに、だいじに、あきにあげた。
 あきはわらってうけとってくれた。
 くりすはかみを、えをかざるような、はこみたいなところにいれて、かべにかけた。

「っしょ。ましろと、あきと、ういす、っしょ」

 きのうはたくさん、かなしいなみだがでたけど、きょうはもうしあわせ。
 ましろ、わがまましないから。あしたからもいっしょがいい。
 あきとくりすがいてくれたら、ましろはしあわせだから。







「……マシロさ、書くときは『クリス』なのに、なんで呼ぶときは頑なに『ういす』なんだろ……?」
「うふ。ういすは、ういすなの!」
「うんんん???」










*****
あんまりにも忙しくなったアキに構ってもらえなくて寂しくなったマシロのお話でした。
『絵を飾るような箱みたいなもの』は、額縁です。
それをすぐに用意して飾るクリスの親バカぶり……(笑)
最初に書いた紙は、クリスポーチに仕舞われました。
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