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俺が魔法師である意味
65 二度と自分のこと役立たずとか言わないから!
しおりを挟む「トビア君、ごめんね!!」
「え!?」
「俺、二度と自分のこと役立たずとか言わないから!トビア君はすごく頑張ってるし上達だってしてるから!だから辞めないで!ここにいて!」
「ええっと!?」
ギルマスに窘められて、勢いで外に出て、魔法の練習をしていたトビア君に駆け寄って抱きついてた。…ついてきてたクリスにすぐにベリッと剥がされたけど。
「や、辞めたりしませんよ…!?え、なんですか…!?」
「よかったぁ……っ、ほんっと、ごめん!!俺、ほんとにさ、まだまだできることも少ないし、トビア君みたいに剣は持てないし、あ、ほんとに物理的に持てないんだよ!?重くて持ち上げるのも無理でさっ」
「はぃ…?」
「そんな俺がトビア君になにか指導したりっていうのも烏滸がましい…ギルマスに任せたほうが確実とも思ってて」
「え」
「でもそれはトビア君の努力を認めてないからとかじゃなくて、純粋に俺じゃ力不足だと思ってて、トビア君の実力が足りないとかそんな話でもなくて!!」
「あのっ」
「トビア君は自信を持っていいから!魔力制御だってうまくなってるし、魔力量だって少し増えたよね!?だから、お願いだから辞めるとか駄目だとか思わないで…!」
「おもってませんから!?」
すごく慌てた様子のトビア君だけど、嫌そうな顔もしてないし、問題なさそうでほっとした。
トビア君はギルマスの方を見て困った顔をしていたけれど、もしかして、まだ俺に言えないことがあるんだろうか。確かに、ギルマスはなんでも聞いてくれるできた教官だと思うけど、少し寂しい。
「なんかあったらいつでも俺に言っていいからね!いや、何もなくても!ほら、仲間だし、関係性の基本は会話から、だよね!?」
引きこもり気味のゲームヲタクでも、基本的なコミュニケーションはとれるんだ。そうじゃなきゃセッションなんてできないし。そもそも、こっちに来てからそういう面はかなり鍛えられたと思うし。
「わ、わかりました」
こくこく頷いてくれたトビア君に、ようやく俺が納得できた。
ん、これで一つ問題はクリアだな。
◆side:トビア
アキラ様の下で魔法を学びたい、腕を上げたい、だから魔法師団に所属する……って決めてから、数日が経った。
俺に声をかけてきたあの男の人とは何もかもが違った。嫌な視線は何も感じないし、毎日毎日ちゃんと家にも帰れる。……というか、送り迎えがある。不思議でならない。
アキラ様はとても忙しいらしい。
魔法師団は新しくなったばかりで、決めなければならないことがたくさんあるから、毎日ずっとアキラ様から魔法の指導を受けることはできない。
最初のころはそれを寂しいと思っていた。俺は簡単にリリを治してしまうようなアキラ様だから、魔法をもっと学びたいと思ったから。なのに、直接指導を受けることは少なくて、少し不満も覚えていた。
けど、すぐにその考えは取っ払った。
エアハルトさんも送り迎えをしてくれるアルフィオさんも、教え方は丁寧でわかりやすい。アルフィオさんは魔法師とは違うと聞いたけれど、俺にはちょっと理解できない。違ってもなんでも、魔法制御のやり方とか、丁寧に教えてくれるから俺にとってはこの人もすごい魔法師だ。
それに、アキラ様が紹介してくれた冒険者宿の店主という人が、これまたすごい人だった。
用意してくれた杖を使うと、今まで難しかった制御が楽にできるようになったし、剣の扱いについても助言をくれる。
殿下やアキラ様と気安く話すその人は、殿下の兵士さん方ともたまに剣の手合わせもしているから、魔法ばかりでなく剣の腕も確かなのだとよくわかる。
そして、豪快。話し方も、態度も、何もかも。
だからと言って、傲慢なわけでもなく、とにかく面倒見がいい。
そんな人たちに囲まれて、俺は特に不平不満なく日々の訓練に没頭することができた。
俺の目標はあくまでもアキラ様。エアハルトさんに言ったら、「それは素晴らしい目標ですね」と目を輝かせるし、宿の店主さんは「もうちょっと手近な目標にした方がいいぞ…?」と苦笑する。
当然、俺なんかがアキラ様に追いつけるとは思ってない。それくらいあの人は特別なんだってことを、理解できないほど馬鹿じゃない。……と、思う。
でも、期待には応えたいし、目標にするくらいいいと思うんだ。
そうやって俺が訓練を重ねているある日、貴族の人が乗り込んできた。
その貴族の人は平民の俺を蔑んだ目で見て、殿下には媚びるような目を向ける。……典型的な人だと感じた。
まあ、でも、元貴族だというエアハルトさんは物腰も柔らかいし、実力もある。だから、この人も実力はあるのか…って思っていたら、なんというか、驚いた。
その貴族の人の放った魔法は俺と同じ火属性の魔法だった。でも、込められている魔力の大きさの割に、早さも威力もない。造形はとても綺麗で、ここにリリがいたら手をたたいて喜んでいたかもしれない。
それでもこれは魔法の模擬戦。アキラ様の凝縮された氷魔法で一瞬のうちに散った炎の花は、攻撃としては完全に失敗している。
アキラ様の勝利……って思っていたら、何故か俺が勝負することになった。
アキラ様に期待されているなら負けるわけにいかない。
俺は気合を入れて対峙した。
アキラ様からも宿の店主さんからも指導されていたのは、詠唱を邪魔すること。魔物は詠唱することはないけれど、魔法師は詠唱をすることもあるから。そう指導されていたから実践したら、卑怯者と叫ばれた。意味わかんない。
呆れた調子で詠唱をさせてやれって言われたから、貴族の人の長い長い詠唱が終わって魔法が発動するのを待った。その間にどんな魔法を使うのか、頭の中に練り上げていく。
負ける気はしなかった。
絶対勝てる気がしてた。
そしてそれは、俺の驕りではなく現実になる。
傲慢な貴族の人に勝てたことに胸のすく思いをしていたのだけど、直後、俺は衝撃に襲われた。
「俺だってまだまだだから、クリスやみんなに守られっぱなしであんまり役に立ってないけど」
訓練場から少し離れてアルフィオさんに送ってもらおうとしていたときに、俺の耳に届いた信じられない言葉。
役に立ってないって、え、なに、アキラ様、自分のこと言ってる?あれだけ魔法の力があって知識がある人が、役に立ってないって何事?
「あー……、まあ、アキラ様の言いそうなことだね」
「いつも?」
「んー、俺はまだ日が浅いけど、過小評価はいつものことなのかもしれないですね」
アルフィオさんはいつもの糸目が少し開いてた。
過小評価。
そうだ。きっとそれだ。言うことは言うし、やることはやるアキラ様。自分のことを正しく評価してないなんて悲しすぎるんじゃないか。
「アルフィオさん、家に帰る前に宿の店主さんのところに行きたいです」
「ああ、いいですよ」
相談しよう。
宿の店主さんに、アキラ様がご自分に自信を持ってもらうにはどうしたらいいのか相談しよう。あの人なら、きっといい解決策を見つけてくれる。あんなに立派なアキラ様が、自分のことを『役立たず』なんて言わないように、思わないように、きっとその考えをただしてくれる。
突然訪れた俺を、店主さんは驚きもせず迎え入れてくれた。
それから俺の話も茶化すことなく真剣に聞いてくれた。
その中で、「またあいつは何言ってんだか…」って苦笑していたから、きっと前にもあったんだなってわかった。
翌日、アキラ様は体調を崩していてお休みしていた。
でもその翌日は、いつも通りの元気な姿を見せてくれていたけど。
「俺、二度と自分のこと役立たずとか言わないから!トビア君はすごく頑張ってるし上達だってしてるから!だから辞めないで!ここにいて!」
…宿の店主が何をどうアキラ様に話したのかは知らないけど、なんで俺が辞める話になっているんだろう…?
そして、あれだ。
俺に抱き着いたりしないでほしい。
後ろの殿下からものすごく不穏な気配を感じるから。
ちらりと見た店主さんは、いい笑顔を俺に見せて、ぐ!って親指を立ててた。
………まあ、アキラ様がわかってくれたのなら………いいのかな?
*****
トビア君はいい子…
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