魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

63 僕は、間違えたんだ ◆マイナルディ

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「メルキオレ……、お前……っ、なんてことをしでかしたんだ……!!」




 半ば強制的に家に戻され、多分とても酷い状態の僕の姿に、使用人たちが慌てふためいていた。
 それはそのはずで、衣服どころかあれほど丁寧に手入れを行っていた自慢の髪すら、焼け落ち見るも無残な状態になっている。
 言葉を無くした使用人たちに何か言える状態でもなく、僕は放心状態で促されるままに湯あみをし、着替え、自室の椅子に座り込んでいた。
 甘い香りのする紅茶を前にしても、手は伸びない。

 僕は、何も間違ってはいないはずだ。
 貴族と平民は違う。立場も、役割も、何もかも。貴族は選ばれた人種だ。上に立つ存在だ。
 だから、平民と同じ場所に立つことは許されない。相応の立場がある。誰もが認める事実だったはずだ。
 伯爵家に生まれて、国から請われる魔法師で、この容姿で、僕は全てに優れていて恵まれていた。
 成人した際、軍に所属せよとの達しはあったが、僕はこれを断ってきた。僕を溺愛する家族も、病弱だからと口裏も合わせてくれた。
 その当時の魔法師団には所属したくなかったからだ。
 魔法師長は子爵家の男だ。どうしてこの僕が、子爵ごときの下につかなければならないのか。僕が魔法師団に所属するときは、それを統べる地位につくときだ。
 目立たないよう、訓練を重ねた。独学になってしまったが、それも問題はなかった。
 僕の魔法を、家族も、使用人たちも、喜んでくれたしとても褒めてくれた。魔法師長よりも繊細で美しい魔法だと父は絶賛してくれた。
 父は魔法師長の魔法を何度か目にしたことがあったそうだが、僕のように繊細で美しいものではなかったらしい。
 …そうだ。
 僕は魔法の才に溢れた存在なんだ。
 僕ほど優秀な者が、いるわけがない。

 だから、魔法師長が失脚し、処刑されたと聞いたとき、僕が待ち望んだ日が来たのだと期待が胸に溢れた。
 魔法師団は凍結されたが、それも一時的なものだろう。
 僕はいつでも招集に応じられるよう、益々訓練にいそしんだ。
 ……なのに、数か月後の魔法師団再編に際して、僕には一切声はかからなかった。
 何故だ。
 何故これほど優秀な僕に、なんの連絡もないのか。僕が魔法師長にならずして、誰が魔法師団を率いるのか。
 その答えはあっさりと知れた。
 クリストフ第二王子殿下が迎えた妃殿下が、その任についたらしい。春月にあった魔物の侵攻を食い止めた功績を捏造してまで。
 …なるほど、そうか。
 これは単なる噂らしかったが、恐らく真実なのだろう。
 前々から、第二王子殿下は、平民を見初めたと噂は流れていた。周りが見えなくなるほど溺愛し、その平民の言いなりなのだと。
 平民を娶るための功績の捏造。そして役職。長の座が空いている魔法師団が丁度良かったということか。

 僕は疑問も何も思わず、実しやかに囁かれるその噂を鵜呑みにした。
 王宮から通達された文書も、ほとんど読まなかった。
 お飾りの魔法師長なら、僕がを名乗り出れば受け入れられるはずだ。面倒な仕事などやりたがるはずがないのだから。

 ……そう信じて疑わなかった。
 お飾りだったはずの平民の妃殿下に何一つ魔法が通じず、団員だという平民の子供にも同じ火属性の魔法で打ち負けた。
 何が起きたのか。
 詠唱を阻害する卑怯な手を使われた。平民ゆえの卑怯さだった。けれど、その怒りが僕の魔力を最大まで高めた。
 僕が今まで放った中でも、最も美しく高火力の魔法だった。
 ……なのに、それを貧相な魔法で打ち消されたのだ。
 何故平民の子供にこんなことができるのか。
 それが妃殿下の指導の賜物だと考えた僕は、すぐに入団の意志を伝えた。僕ならば更に力をつけることができる。
 けれど、妃殿下から入団の許可は降りず、不要と言われた。
 どうして僕が?平民の子供が良くて、なぜ僕が拒まれなければならないのか。

 家に戻ってからも暫く呆然としていたが、帰宅した父上に酷く怒鳴られた。……初めて、怒鳴られた。

「陛下からお前の所業について苦言をいただいた……っ。だ…!!」
「父上」
「殿下のところに乗り込み執務を妨害し、妃殿下に対しても不敬な態度を取ったそうだな……!!」
「それは」
「あの穏健な陛下が酷くお怒りになっていたんだぞ…!!」

 顔を真っ赤にさせ怒鳴る父の姿。
 その声は僕の頭の中に響いていく。
 文官として王宮に務めていた兄の職務にも影響が出た。
 どうして、そんなことになった?

「僕は、僕の、魔法は」
「大道芸としては素晴らしい魔法だったと言われたんだぞ…!?他の貴族もいる場所で…!!伯爵家の者が、大道芸などと……!!」
「………」
「どれほどの屈辱か……っ、お前はほとぼりが冷めるまで屋敷から外に出るな!!いいな!!」

 ……父だって、僕の魔法は美しいと言ってくれたじゃないか。兄も、母も、使用人たちも全員、僕の魔法は誰よりも素晴らしいものだ、って。
 僕は芸のような魔法を使いたかったわけじゃない。
 誰よりも強くて美しい魔法が使いたかった。
 何が違ったのか。
 何を正せばいいのか。
 わからない。
 何もわからない。

 ただただ、頭の中が真っ白になっていた。
 そのうち、胸元で何かが割れるような音がした。
 不思議に思い、鎖を取り出した。

「………え」

 魔水晶が砕け散っていた。
 破片が残ることなく、サラサラと砕け散り、消えていく。

「あ……あぁ………っ」

 抜けていく魔力。
 全身から力が抜けるように。
 体を抱きしめても、戻ることはない。
 酷く鳴り続ける心臓。
 違う、違うと否定しながら、今までのように杖を取り出した。

「紅蓮の――――」

 詠唱を始めても何も起こらない。
 どんなに杖を振っても、どんなに詠唱を続けても、魔法は一切発動しなかった。
 杖が手から離れ、床に落ちた。

「はは……」

 乾いた笑いが口をついて出る。

「ははは………!!」

 笑うしかなかった。
 涙も出てこない。
 どうしてこうなった。
 魔法が使えない。
 魔水晶が砕け散った。
 僕はもう、魔法師じゃない――――



『魔法は戦うものばかりじゃない』
『人を楽しませる魔法があってもいい』



 妃殿下の言葉。
 僕の魔法を見て喜んでくれた家族。
 もっと喜ばせたくてがむしゃらに魔法を練習してきた。

「……ああ。僕は、間違えたんだ」

 今更だ。
 今更気づいても、もう遅い。
 ソファに深く腰掛け、天井を仰ぎ見る。
 冷たい雫が一筋流れ落ちた。











*****
マイナーさんの名前をど忘れし
レイランドの爵位をど忘れし
……爵位は断罪あたりで書いたつもりでいたのに見つけられず……。
うろ覚えなので、見つけて間違ってたら修正します……(^_^;)
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