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俺が魔法師である意味
59 腕試し……トビア君、やっちゃって!
しおりを挟む「納得できません…!」
「……は?」
「妃殿下が魔法を行使されたのは理解しました。てすが、僕が劣っているとは思えません。炎と氷では氷が勝ることは当たり前のことで、これが僕が劣る理由にはなり得ません…!」
「えー……」
なんなの。
俺、こういう言い方好きじゃないけど、属性相性ばかりじゃなくて、誰が見たって明らかな差があったと思うんだけどなぁ…。この人のこの無駄な前向き姿勢って全く理解できない。
「じゃあ、同じ火で模擬戦したら納得できる?」
「それならば僕に敗北はありえません!」
……頭痛い。
でも落ち着け、俺。
なんかこのままじゃ、マイナーさんに大怪我させちゃいそうだ。いくらなんでもそれは駄目だ。
溜息は隠せない。
盛大に息をついて、座り込んだマイナーさんの周りに火球を出現させる。
マイナーさんはぎょっとした顔をしていたけれど、構うことなくその火球を思い切り氷の花(仮)の牢獄にぶつけた。
「……ひぃ…っ」
氷は一瞬で砕け散った。小さな爆発が自分の周りで起きて、これまでで一番怯えた表情を見せたマイナーさん。
「俺が火属性も使えることわかったよね?」
コクコクと何度も頷く。うん、わかってくれたなら、それで。
「妃殿下のお力はよくわかりました。妃殿下が火と氷の魔法に長けていることは、認めざるを得ません」
その言い回しな。
流石の俺だってカチンとくるんだけど。
それに俺、他の魔法も使えるけど。まあ、言う必要はない。
「ですが!その妃殿下の下に平民がいるのはなぜですか!平民の力など、僕たち貴族には遠く及ばないというのに……!!」
こめかみがビキリとした……気がする。うん。気持ち上だけだけど。
「トビア君!」
「え」
あいも変わらずなマイナーさんからまた離れて、マシロと手を繋いだトビア君を呼んだ。
おいでおいでって手を振ったら、おどおどしながらマシロと一緒に駆け寄ってくる。
「えと、アキラ様……」
「あのさ、申し訳ないけど、あの人の相手してくれるかな」
「え」
カチンと固まったトビア君。巻き込んでごめんね。
にこにこと俺の足に抱きついてきたマシロを抱き上げて、両手できゅって抱きしめると、荒んだ心が和らぐ。
「うひゃ」
「マシロ可愛い」
「うひゃ、うひゃっ」
はぁ。いい子。和む。
「トビア君、あの人と同じ火の属性だし、好きなようにやってみてくれないかな」
「……でも、あの人、貴族で……」
「心配しないでいいよ。魔法に平民も貴族も関係ないんだから。そもそも、俺だって平民だし。いつも通りでいいからさ」
軽い感じで託したら、トビア君は意を決したような表情で頷いてくれた。
「俺、やります!」
「ありがと」
ぽんって肩を叩いたら、トビア君はいい笑顔を見せてくれた。
それから俺はマイナーさんにまた向き合う。
マイナーさんは立ち上がり、杖をくるくると手の中で回している。
「マイナーさん」
「平民の少年の相手をしろということですか?」
「そ。トビア君は正式な魔法師団員第一号で、火属性の魔法が得意だから。俺たちで鍛えてる途中だけど、マイナーさんより確実に強いから」
「……聞き捨てなりません。平民にこの僕が劣るわけがないのです」
平民平民って馬鹿にし過ぎ。
そういえば、ミルドさんのことも馬鹿にしてたな。
「トビア君、いつも通りでね」
「はい!」
それだけ最後に伝えて、クリスのところに戻った。すぐに「おつかれ」って腰に腕が回ってきて、眉間のところを指で揉まれた。
トビア君が愛用の杖を取り出す。それを見たマイナーさんが笑ったのがわかった。見せつけるように自分の杖をくるくると回している。
そうして、クリスの「はじめ!」って声が響く。
「紅蓮の――――」
掛け声とともにまたマイナーさんの詠唱が始まった。けど――――
「うわ…っ」
トビア君の杖から放たれた拳大の火球が、マイナーさんの周りに放たれていく。
「く……っ、真紅の――――」
懲りることなくまた詠唱。
けど、詠唱が始まるとトビア君の放つ火球がマイナーさんを襲う。
いいね。詠唱阻害は基本中の基本だからね!
「く……っ、卑怯だぞ!!」
「…へ?」
「僕が魔法を放てば自分が負けることをわかっているからと言って、詠唱の邪魔をしてくるなど……!!」
「え……と」
トビア君が困惑気味に俺を見た。
全く問題ない。トビア君がやってることは正しい。
「大丈夫」
その一言で安心したらしいトビア君は、きりっとした顔でマイナーさんに向き合った。
それからまた同じようなことを繰り返したけど、詠唱する魔法師が無詠唱の魔法師に勝てるわけがない。マイナーさんの場合は、速さも、威力も。
「…っ、いい加減……!!」
魔法を邪魔される苛々と怒りのせいか、マイナーさんの魔力が膨れ上がった。
トビア君も気づいたようで、数歩後ろに下がる。
「トビア」
暴走するようならマイナーさんの魔力を抑え込まなきゃ…って身構えていたら、クリスがとてもとても冷静な声でトビア君を呼んだ。
「魔法が放たれてから相殺しろ。それで終わる」
「!はい!」
結構魔法を使ってるはずだけど、トビア君に疲れた様子はない。クリスの指示に意気揚々と答えてるあたり、まだ余裕がありそう。
「えと?」
「そろそろ帰宅時間だろ」
「うぇ」
なんと。
驚いて腕時計を見たら、確かにもうそんな時間だった。
「アキにも休息が必要だ」
「え」
「う。あき、おやすみしゅる」
「や、そんな疲れてなんか…」
ないよ、って言えなかった。
クリスの手が頬を撫でて、マシロがぎゅうぎゅう抱きついてくるから。
「終わり次第部屋に戻るからな」
「ん…」
額にキスされた。
気持ちいい。
*****
「あの貴族の人ある意味凄いですね」
「あのアキラさんが切れるとか……」
「……アキラさんが切れるとか、まじ怖いんですけど」
「あの氷の花は可愛かったが……」
「まあ、でも、アキラさん、やっぱり口に氷詰め込むの好きだよな」
「あ、それ俺も思った」
「でもあれ、下手すりゃ窒息だよな?死ぬよな?」
「……………」
「……やっぱ、アキラさんを怒らせるのはやめておこ……」
クリス隊のみんな、ごにょごにょと。
応援ありがとうございます!
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