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俺が魔法師である意味
56 怒ってる人を見ると冷静に………ならないな?
しおりを挟む「この僕が全面的に補佐に入りますので、妃殿下はどうぞ心安くお過ごしください!」
「えーと」
まるで俺を気遣うような言葉だけど、それはつまり、俺はお飾りでいいよ、自分が全部やるからね!という宣言だろうか。
俺が感じたものは正しかったのか、傍らのクリスからなんとも言えない、あえて言うなら怒気のような気配が立ち昇った。
「あのひと、きらい」
俺の腕の中のマシロまでも、ゆらゆらと魔力を纏わせてる。……いま子猫姿だったら、間違いなく全身の毛を逆立ててると思う。見るからに威嚇モード、みたいな。ちょっと見たい。尻尾膨らませてるマシロとか、かわいいよね…。
周りがみんな怒ってくれているから、俺は特に怒りのような感情はなくて、マシロを抱っこしながらついつい和んでしまった。
「えーと、マイナー次男さん」
「メルキオレ・マイナルディでございます妃殿下」
ん。
名前間違ったら即座に訂正された。だって覚えにくいんだよ。マイナーでいいよ。
「えと……、名前興味ないからいいかな…。華麗なる魔法っていうのにも興味ないんだけど」
本音を言ったら笑顔のこめかみにぴきりと血管が浮かんだ……ように見えた。
「妃殿下……っ」
「アキ、どうだ?」
「ん」
マイナーさんの喚きは無視。
マシロを抱き直して背中をぽんぽんと叩きながら、クリスと視線を合わせる。
クリスは少し体をかがめると、俺の耳元に顔を近づけてきた。
「魔水晶は本物。マイナーさんのもので間違いないと思う。魔力の流れも出来てるし。……でもなぁ」
俺とクリスだけが聞こえるくらいで、感じたことを話す。
「どうした?」
「魔力量はトビア君の半分以下、って感じ」
「ああ……なるほど」
苦笑するクリスは、俺のこめかみに軽くキスを落としてまたマイナーさんと向き合った。
「マイナルディ」
「はい、殿下!」
「魔水晶を持つ貴族の身でありながら、軍属にもならず、ましてや届け出さえしていなかったというのはどういうことだ」
「そ、それは……!」
ああ、うん。それな。
俺も見たことないから、前の魔法師団にはいなかった人。
クリスの指摘にあたふたするマイナーさん。
「ぼ、僕は体が弱く、それを心配した家族が僕のために秘匿したのです…!僕に健康な体があれば、すぐにでも軍属となり、我が国のために力をふるいましたのに……!!」
「ほう。そう言う割には健康そうに見えるが」
「最近使い始めた薬がとてもよく効きまして…!ようやくこの力を陛下に捧げることが叶ったのです…!!」
「へー……」
あまりにも興味のない「へー」に、護衛コンビが俺をちらりと見て苦笑した。
「魔水晶もこの通り、見事な輝きを放っております!」
あ、マイナーさんの主張は続いてた。
…この世界の貴族さんって、こんな人ばっかり?
……いやいやまとう。俺がよく知ってる貴族さんはみんなこんな変な人じゃない。一癖も二癖もあったとしても、だ。クリス隊の貴族さんも、もちろん、リアさんも。
「恐れながら」
ついつい胡乱げな目で見てしまったと思ったけど、マイナーさんは気にもせず話し続ける。
多分、格好いい部類には入るんだろうな。顔は整ってるし、所作もきれい。演技がかってるけど。
まあ、でも、クリスの格好よさに適う人なんていないし、クリス隊のみんなのほうがいい男だと思う。
マイナーさんは整った眉を潜め、労しげな視線を俺に向けてきた。なんかムカつく。
『恐れながら』何を言うのかと身構えていたら、そんな表情のまま手を胸に当てクリスを見てから俺に視線を戻した。
「妃殿下の魔水晶は誰も見たことがないと聞き及んでおります。珍しい髪色の平民を召し上げるために、殿下並びに冒険者宿の店主であり統括でもある方の成し得た功績を、妃殿下のものとし、陛下に認められたと」
「へ?」
「誰もが知る事実です。その功績のために魔法師団を統べる任を与えられたが、実質は殿下が取り仕切っている、と」
「へぇ………」
「ですから!僕を隠れ蓑にしてくだされば、すべての問題は――――」
「黙れ」
演説は、途中で終わった。
あ然と聞いていた俺だったけど、傍らにいたはずのクリスはマイナーさんと距離を詰めていて、音もなく抜かれた剣の切っ先は、マイナーさんの喉元に僅かに突き刺さっている。少しでも動いたら首が飛ばされそうな。
…てか、うん、もう刺さってる、刺さってるからね!?血が滲んでいるからね!?
「ひ…っ」
マイナーさんは一瞬で顔色は蒼白になって、体がぶるぶる震えてた。
クリスの本気の怒り。オットーさんから発せられる気配は既に殺気だよね。いつも笑顔のザイルさんからは、笑顔どころか表情が消えた。
クリスを止めなきゃって思いつつ、行動には出ない。体を動かそうと思えない。
マシロから立ち昇る魔力が静電気のように小さく弾ける。痛くはない。それより、瞳孔が縦に開いてた。…完全に、怒る猫の瞳だ。
「黙って聞いていれば随分な物言いだな。皆が知っているだと?実戦にも出てこない貴族が何を知っていると言うんだ?」
「そ、それは………っ」
「アキを貶めるということは、彼を認めた陛下をも貶めるということだ。貴族たちは随分と我々王族を甘く見ているようだな?」
「ぼ、僕は、ただ………っ、ひ…………っっ」
俺がどうこう言われるのはいい。面白くはないけど、ある意味慣れた。けど、マイナーさんが言ったことって、俺だけの問題じゃないんだよね。
クリスやギルマスが、そういう不正をしているって思われてる。俺のことを認めてくれたお兄さんや陛下も侮られてる。
俺の大切な人たちが侮辱されて、怒らない方がおかしい。
……ああ、俺、結構怒ってるのか。自分じゃ気づかなかった。
だってねぇ?
大切な人たちが侮辱されて、平然としていられるわけがないよね?
*****
意外と引っ張るマイナーさん…
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