魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
158 / 216
俺が魔法師である意味

56 怒ってる人を見ると冷静に………ならないな?

しおりを挟む



「この僕が全面的に補佐に入りますので、妃殿下はどうぞ心安くお過ごしください!」
「えーと」

 まるで俺を気遣うような言葉だけど、それはつまり、俺はお飾りでいいよ、自分が全部やるからね!という宣言だろうか。
 俺が感じたものは正しかったのか、傍らのクリスからなんとも言えない、あえて言うなら怒気のような気配が立ち昇った。

「あのひと、きらい」

 俺の腕の中のマシロまでも、ゆらゆらと魔力を纏わせてる。……いま子猫姿だったら、間違いなく全身の毛を逆立ててると思う。見るからに威嚇モード、みたいな。ちょっと見たい。尻尾膨らませてるマシロとか、かわいいよね…。
 周りがみんな怒ってくれているから、俺は特に怒りのような感情はなくて、マシロを抱っこしながらついつい和んでしまった。

「えーと、マイナー次男さん」
「メルキオレ・マイナルディでございます妃殿下」

 ん。
 名前間違ったら即座に訂正された。だって覚えにくいんだよ。マイナーでいいよ。

「えと……、名前興味ないからいいかな…。華麗なる魔法っていうのにも興味ないんだけど」

 本音を言ったら笑顔のこめかみにぴきりと血管が浮かんだ……ように見えた。

「妃殿下……っ」
「アキ、どうだ?」
「ん」

 マイナーさんの喚きは無視。
 マシロを抱き直して背中をぽんぽんと叩きながら、クリスと視線を合わせる。
 クリスは少し体をかがめると、俺の耳元に顔を近づけてきた。

「魔水晶は本物。マイナーさんのもので間違いないと思う。魔力の流れも出来てるし。……でもなぁ」

 俺とクリスだけが聞こえるくらいで、感じたことを話す。

「どうした?」
「魔力量はトビア君の半分以下、って感じ」
「ああ……なるほど」

 苦笑するクリスは、俺のこめかみに軽くキスを落としてまたマイナーさんと向き合った。

「マイナルディ」
「はい、殿下!」
「魔水晶を持つ貴族の身でありながら、軍属にもならず、ましてや届け出さえしていなかったというのはどういうことだ」
「そ、それは……!」

 ああ、うん。それな。
 俺も見たことないから、前の魔法師団にはいなかった人。
 クリスの指摘にあたふたするマイナーさん。

「ぼ、僕は体が弱く、それを心配した家族が僕のために秘匿したのです…!僕に健康な体があれば、すぐにでも軍属となり、我が国のために力をふるいましたのに……!!」
「ほう。そう言う割には健康そうに見えるが」
「最近使い始めた薬がとてもよく効きまして…!ようやくこの力を陛下に捧げることが叶ったのです…!!」
「へー……」

 あまりにも興味のない「へー」に、護衛コンビが俺をちらりと見て苦笑した。

「魔水晶もこの通り、見事な輝きを放っております!」

 あ、マイナーさんの主張は続いてた。
 …この世界の貴族さんって、こんな人ばっかり?
 ……いやいやまとう。俺がよく知ってる貴族さんはみんなこんな変な人じゃない。一癖も二癖もあったとしても、だ。クリス隊の貴族さんも、もちろん、リアさんも。

「恐れながら」

 ついつい胡乱げな目で見てしまったと思ったけど、マイナーさんは気にもせず話し続ける。
 多分、格好いい部類には入るんだろうな。顔は整ってるし、所作もきれい。演技がかってるけど。
 まあ、でも、クリスの格好よさに適う人なんていないし、クリス隊のみんなのほうがいい男だと思う。
 マイナーさんは整った眉を潜め、労しげな視線を俺に向けてきた。なんかムカつく。
 『恐れながら』何を言うのかと身構えていたら、そんな表情のまま手を胸に当てクリスを見てから俺に視線を戻した。

「妃殿下の魔水晶は誰も見たことがないと聞き及んでおります。珍しい髪色の平民を召し上げるために、殿下並びに冒険者宿の店主であり統括でもある方の成し得た功績を、妃殿下のものとし、陛下に認められたと」
「へ?」
「誰もが知る事実です。その功績のために魔法師団を統べる任を与えられたが、実質は殿下が取り仕切っている、と」
「へぇ………」
「ですから!僕を隠れ蓑にしてくだされば、すべての問題は――――」
「黙れ」

 演説は、途中で終わった。
 あ然と聞いていた俺だったけど、傍らにいたはずのクリスはマイナーさんと距離を詰めていて、音もなく抜かれた剣の切っ先は、マイナーさんの喉元に僅かに突き刺さっている。少しでも動いたら首が飛ばされそうな。
 …てか、うん、もう刺さってる、刺さってるからね!?血が滲んでいるからね!?

「ひ…っ」

 マイナーさんは一瞬で顔色は蒼白になって、体がぶるぶる震えてた。
 クリスの本気の怒り。オットーさんから発せられる気配は既に殺気だよね。いつも笑顔のザイルさんからは、笑顔どころか表情が消えた。
 クリスを止めなきゃって思いつつ、行動には出ない。体を動かそうと思えない。
 マシロから立ち昇る魔力が静電気のように小さく弾ける。痛くはない。それより、瞳孔が縦に開いてた。…完全に、怒る猫の瞳だ。

「黙って聞いていれば随分な物言いだな。皆が知っているだと?実戦にも出てこない貴族が何を知っていると言うんだ?」
「そ、それは………っ」
「アキを貶めるということは、彼を認めた陛下をも貶めるということだ。貴族たちは随分と我々王族を甘く見ているようだな?」
「ぼ、僕は、ただ………っ、ひ…………っっ」

 俺がどうこう言われるのはいい。面白くはないけど、ある意味慣れた。けど、マイナーさんが言ったことって、俺だけの問題じゃないんだよね。
 クリスやギルマスが、そういう不正をしているって思われてる。俺のことを認めてくれたお兄さんや陛下も侮られてる。
 俺の大切な人たちが侮辱されて、怒らない方がおかしい。
 ……ああ、俺、結構怒ってるのか。自分じゃ気づかなかった。
 だってねぇ?
 大切な人たちが侮辱されて、平然としていられるわけがないよね?












*****
意外と引っ張るマイナーさん…
しおりを挟む
感想 287

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

処理中です...