156 / 216
俺が魔法師である意味
54 欲求不満……って!!
しおりを挟む五月も半ば。
夏月に近づいたから少し暑さを感じる。
そんな中で火属性の魔法を中心に特訓してるから、まあ暑さに輪をかけてる気はするけど、これは仕方ない。
「エアハルトさん、いきます!」
「ええ、どんどん来てください」
長さ三十センチくらいの樫の木でできた杖を、トビア君が喜々と振る。その動きで杖の先にはこれまた直径三十センチくらいの火球が出来上がり、魔法訓練の相手をしてるエアハルトさんめがけて飛んでいった。
「――――弾けろ!」
その言葉で、トビア君が出した火球は小さく分裂する。
エアハルトさんはそれを土の盾みたいなものを作り出して止めながら、時々同じ規模の火球をだして相殺していく。
あちこち火の粉が舞ってるから、暑いのは当たり前。
杖を持ってからトビア君の魔法制御はかなり良くなったと思う。ギルマスも褒めてたし。
分裂させるときの掛け声は、詠唱のようなそうでもないようなものだ。言葉にしたほうが自分がやりたいことを強くイメージできるから、慣れるまではその方がいいって俺が言った。
……最初から全部全部無詠唱にしなくたっていい。使い慣れて、それこそ練度みたいなものがあがれば、頑張り屋のトビア君なら問題なく使いこなせるはず。
「アキ」
「あ、うん」
クリス隊の訓練中だったクリスが、俺のそばに来た。
「じゃ、そこで終わりー。次行くよ」
「はい!」
丁度、エアハルトさんの土盾が火球を防いだところで、タイミングがよかった。
トビア君が元気にエアハルトさんに挨拶をして、杖を右腰のホルダーにしまう。それから、左腰から短剣を抜いてエアハルトさんと一緒にクリス隊のみんなと合流した。
ここからは魔法じゃなくて剣での訓練だ。魔法が使えない状況とか接敵されたときに、魔法しか身を守る術がないと詰むから。
短剣なのはトビア君の筋力的問題。いずれは長剣でもいい。持ち方や振り方を教えてくれてるのはオットーさん。…どんな武器でも使いこなすオットーさんは、ほんとすごい。
「……クリス、やっぱり俺も、剣……」
「アキには必要ないと言っただろ」
「むぅ」
トビア君に短剣の訓練を…って決めたとき、それなら俺も使いたい!って宣言したけれど、クリスに笑顔で却下された。
それでも引き下がらずに訴えたら、オットーさんはトビア君に持たせる予定の一番軽い短剣を持ってきてくれた。これを片手で持てたら剣の訓練してもいい、って話になったんだけど、結果は、まあ、うん。
一番軽い短剣すら、俺は持つことができなかったんだよね。おかしいな。かなり筋肉戻ったと思ってたんだけど。
結局、「俺がアキを守るんだから、お前が自ら剣を使うような事態にはならない。だから必要ないな?」と、クリスに丸め込まれた。
「でもさ、俺、仮にも団長なんだよ?団員がしてるのに、俺だけ何もしないとか、それはちょっと問題じゃない?」
「……アキ」
ぐいっと腰を抱かれた。
「少し無理をしただけで熱を出して寝込むアキに、隊員と同じ訓練ができると思うか?…俺がそれを許すと思うか?」
「……でも、年下のトビア君が頑張ってるのに」
「年下でもアキより体は頑丈だ。アキは相変わらず華奢なままだからな」
「……結構食べてると思うんだけど」
「ああ。帰って来たときよりは体重は増えたな」
「うん。少しくらい筋肉もついてきたよ」
「そうだな」
くす…って笑ったクリスが、俺のこめかみにキスを落とした。
それから、頬や、鼻の頭にも。
心地いいなぁ……って、うっかり目を閉じたときだった。
「集中できないんで、ベタベタしたいんなら部屋にお戻りください」
って、オットーさんからお叱りを受けた。
気づけばみんな苦笑してるし、トビア君は真っ赤になってるし。
「はぅ」
俺も剣を使いたいって訴えは、クリスのキスで消されてた。
「そうだな」
笑ったクリスはさくっと俺を片手で抱き上げて、「あとは頼んだ」ってオットーさんに言い残した。
「クリスっ」
「先に休憩に入ろう」
こうなったら俺がクリスから逃れる手段はない。なんだかんだ、逃れる気もないんだけど。
どうしたってクリスが好きで。
近くなった体温も鼓動も嬉しくて。
思わず首筋に顔を押し当てて、クリスの匂いを胸いっぱいに吸い込んで満足したりして。
「汗をかいただろ。魔導具できれいにしようか?」
「んー…」
「それとも風呂に入る?」
「…お風呂、が、いい」
「じゃあ部屋に戻るか。その後にマシロと昼食だな」
「ん」
廊下でもクリスに抱かれたままだった。
俺の甘えスイッチが入ったようで、見られることに恥ずかしさも感じない。
部屋に戻ってすぐ、メリダさんと文字の練習をしていたマシロに出迎えられたけど、まずはお風呂だ。
「ん、んんっ、んぁっ」
いつものようにクリスが全部洗ってくれて、湯船に浸かるクリスの足の上にいつものように向かい合って座って。
昂ぶってた気持ちのままにキスを重ねてピタリと体を寄せ合う。
お昼よりはまだ少し早い時間。
腰の奥が熱くなってジンジンしてる。このあともまだ仕事があるのに。
抱かれたい。クリスのこといっぱい感じたい。
けど、だけど。
「ふぁ…っ」
逡巡してる間に、腰を撫でてたクリスの手がお尻まで下がって、後孔につぷりと指が入り込んできた。
思わずその指をぎゅって締め付けてしまうと、クリスが俺の耳元でくすりと笑う。
「少しだけな」
「んっ」
声だけで体中が甘く痺れる。
は…って息をついた口は、また深いキスで塞がれた。
そのまま俺の右手を取って、二人の間に導かれる。
手に触れたのは、硬く勃ち上がって触れ合ってるクリスと俺のもの。
意図に気づいてそれをしごき始めたら、俺の手の上にクリスの大きな手も重なった。
「ぁ、ぁっ」
湯が跳ねる。
後ろの弱いところを何度も指でいじられて、クリスの熱い剛直を感じながらしごかれて、手の中で二人分のそれがビクビクしてるのを感じていたら、駆け上るのはあっという間だった。
「ぁー……ん、んん、んんっ」
激しいキスに声も奪われる。
キスの合間に後孔に埋め込まれていた指は抜け落ちて、クリスと俺のものを重ねていた手も解けた。
「落ち着いたか?」
クリスの穏やかな声。
落ち着いたかどうかなら、多分落ち着いた。まだ腰が重たいし、ずくん…って疼いてる気がするけど、さっきほどじゃない。
くたりと体を預けた俺の背中を、クリスの手が優しく撫でていく。
「ん。…なんか、ごめんなさい」
クリスの匂いを嗅いだり、先に欲情したのは俺だ。クリスはそんな俺を慰めてくれただけ。
たくさんキスもした。
これで落ち着いてよかった……って思ってたら、上機嫌なクリスの声で爆弾が落ちてきた。
「構わない。欲求不満だったんだろ?」
……って。
「そ、そんなこと、ないしっ」
毎日いっぱい抱かれてるのに、欲求不満って!
多分真っ赤になってる顔をクリスの肩口に押し付けて隠した。クリスは俺の背中を撫でながら笑ったまま。
クリスに抱かれたままお風呂を上がり、全身しっかり拭かれて新しい制服を身に着けて、最後に二人の髪を乾かすのだけ俺がやって。
脱衣所も出たところで待ち構えていたマシロを腕に抱きしめて、ふわふわの頭に顔を埋めた。
……違うし。絶対違うしっ。
欲求不満なんかじゃ、ないっ。
ふんっ。
*****
あえて言うなら『いつも通り』ですかね…(笑)
97
お気に入りに追加
2,284
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる