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俺が魔法師である意味

54 欲求不満……って!!

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 五月春の三の月も半ば。
 夏月に近づいたから少し暑さを感じる。
 そんな中で火属性の魔法を中心に特訓してるから、まあ暑さに輪をかけてる気はするけど、これは仕方ない。

「エアハルトさん、いきます!」
「ええ、どんどん来てください」

 長さ三十センチくらいの樫の木でできた杖を、トビア君が喜々と振る。その動きで杖の先にはこれまた直径三十センチくらいの火球が出来上がり、魔法訓練の相手をしてるエアハルトさんめがけて飛んでいった。

「――――弾けろ!」

 その言葉で、トビア君が出した火球は小さく分裂する。
 エアハルトさんはそれを土の盾みたいなものを作り出して止めながら、時々同じ規模の火球をだして相殺していく。
 あちこち火の粉が舞ってるから、暑いのは当たり前。

 杖を持ってからトビア君の魔法制御はかなり良くなったと思う。ギルマスも褒めてたし。
 分裂させるときの掛け声は、詠唱のようなそうでもないようなものだ。言葉にしたほうが自分がやりたいことを強くイメージできるから、慣れるまではその方がいいって俺が言った。
 ……最初から全部全部無詠唱にしなくたっていい。使い慣れて、それこそ練度みたいなものがあがれば、頑張り屋のトビア君なら問題なく使いこなせるはず。

「アキ」
「あ、うん」

 クリス隊の訓練中だったクリスが、俺のそばに来た。

「じゃ、そこで終わりー。次行くよ」
「はい!」

 丁度、エアハルトさんの土盾が火球を防いだところで、タイミングがよかった。
 トビア君が元気にエアハルトさんに挨拶をして、杖を右腰のホルダーにしまう。それから、左腰から短剣を抜いてエアハルトさんと一緒にクリス隊のみんなと合流した。
 ここからは魔法じゃなくて剣での訓練だ。魔法が使えない状況とか接敵されたときに、魔法しか身を守る術がないと詰むから。
 短剣なのはトビア君の筋力的問題。いずれは長剣でもいい。持ち方や振り方を教えてくれてるのはオットーさん。…どんな武器でも使いこなすオットーさんは、ほんとすごい。

「……クリス、やっぱり俺も、剣……」
「アキには必要ないと言っただろ」
「むぅ」

 トビア君に短剣の訓練を…って決めたとき、それなら俺も使いたい!って宣言したけれど、クリスに笑顔で却下された。
 それでも引き下がらずに訴えたら、オットーさんはトビア君に持たせる予定の一番軽い短剣を持ってきてくれた。これを片手で持てたら剣の訓練してもいい、って話になったんだけど、結果は、まあ、うん。
 一番軽い短剣すら、俺は持つことができなかったんだよね。おかしいな。かなり筋肉戻ったと思ってたんだけど。
 結局、「俺がアキを守るんだから、お前が自ら剣を使うような事態にはならない。だから必要ないな?」と、クリスに丸め込まれた。

「でもさ、俺、仮にも団長なんだよ?団員がしてるのに、俺だけ何もしないとか、それはちょっと問題じゃない?」
「……アキ」

 ぐいっと腰を抱かれた。

「少し無理をしただけで熱を出して寝込むアキに、隊員と同じ訓練ができると思うか?…俺がそれを許すと思うか?」
「……でも、年下のトビア君が頑張ってるのに」
「年下でもアキより体は頑丈だ。アキは相変わらず華奢なままだからな」
「……結構食べてると思うんだけど」
「ああ。帰って来たときよりは体重は増えたな」
「うん。少しくらい筋肉もついてきたよ」
「そうだな」

 くす…って笑ったクリスが、俺のこめかみにキスを落とした。
 それから、頬や、鼻の頭にも。
 心地いいなぁ……って、うっかり目を閉じたときだった。

「集中できないんで、ベタベタしたいんなら部屋にお戻りください」

 って、オットーさんからお叱りを受けた。
 気づけばみんな苦笑してるし、トビア君は真っ赤になってるし。

「はぅ」

 俺も剣を使いたいって訴えは、クリスのキスで消されてた。

「そうだな」

 笑ったクリスはさくっと俺を片手で抱き上げて、「あとは頼んだ」ってオットーさんに言い残した。

「クリスっ」
「先に休憩に入ろう」

 こうなったら俺がクリスから逃れる手段はない。なんだかんだ、逃れる気もないんだけど。
 どうしたってクリスが好きで。
 近くなった体温も鼓動も嬉しくて。
 思わず首筋に顔を押し当てて、クリスの匂いを胸いっぱいに吸い込んで満足したりして。

「汗をかいただろ。魔導具できれいにしようか?」
「んー…」
「それとも風呂に入る?」
「…お風呂、が、いい」
「じゃあ部屋に戻るか。その後にマシロと昼食だな」
「ん」

 廊下でもクリスに抱かれたままだった。
 俺の甘えスイッチが入ったようで、見られることに恥ずかしさも感じない。
 部屋に戻ってすぐ、メリダさんと文字の練習をしていたマシロに出迎えられたけど、まずはお風呂だ。

「ん、んんっ、んぁっ」

 いつものようにクリスが全部洗ってくれて、湯船に浸かるクリスの足の上にいつものように向かい合って座って。
 昂ぶってた気持ちのままにキスを重ねてピタリと体を寄せ合う。
 お昼よりはまだ少し早い時間。
 腰の奥が熱くなってジンジンしてる。このあともまだ仕事があるのに。
 抱かれたい。クリスのこといっぱい感じたい。
 けど、だけど。

「ふぁ…っ」

 逡巡してる間に、腰を撫でてたクリスの手がお尻まで下がって、後孔につぷりと指が入り込んできた。
 思わずその指をぎゅって締め付けてしまうと、クリスが俺の耳元でくすりと笑う。

「少しだけな」
「んっ」

 声だけで体中が甘く痺れる。
 は…って息をついた口は、また深いキスで塞がれた。
 そのまま俺の右手を取って、二人の間に導かれる。
 手に触れたのは、硬く勃ち上がって触れ合ってるクリスと俺のもの。
 意図に気づいてそれをしごき始めたら、俺の手の上にクリスの大きな手も重なった。

「ぁ、ぁっ」

 湯が跳ねる。
 後ろの弱いところを何度も指でいじられて、クリスの熱い剛直を感じながらしごかれて、手の中で二人分のそれがビクビクしてるのを感じていたら、駆け上るのはあっという間だった。

「ぁー……ん、んん、んんっ」

 激しいキスに声も奪われる。
 キスの合間に後孔に埋め込まれていた指は抜け落ちて、クリスと俺のものを重ねていた手も解けた。

「落ち着いたか?」

 クリスの穏やかな声。
 落ち着いたかどうかなら、多分落ち着いた。まだ腰が重たいし、ずくん…って疼いてる気がするけど、さっきほどじゃない。
 くたりと体を預けた俺の背中を、クリスの手が優しく撫でていく。

「ん。…なんか、ごめんなさい」

 クリスの匂いを嗅いだり、先に欲情したのは俺だ。クリスはそんな俺を慰めてくれただけ。
 たくさんキスもした。
 これで落ち着いてよかった……って思ってたら、上機嫌なクリスの声で爆弾が落ちてきた。

「構わない。欲求不満だったんだろ?」

 ……って。

「そ、そんなこと、ないしっ」

 毎日いっぱい抱かれてるのに、欲求不満って!
 多分真っ赤になってる顔をクリスの肩口に押し付けて隠した。クリスは俺の背中を撫でながら笑ったまま。
 クリスに抱かれたままお風呂を上がり、全身しっかり拭かれて新しい制服を身に着けて、最後に二人の髪を乾かすのだけ俺がやって。
 脱衣所も出たところで待ち構えていたマシロを腕に抱きしめて、ふわふわの頭に顔を埋めた。
 ……違うし。絶対違うしっ。
 欲求不満なんかじゃ、ないっ。
 ふんっ。








*****
あえて言うなら『いつも通り』ですかね…(笑)
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