150 / 216
俺が魔法師である意味
48 魔法はいいことに使おう
しおりを挟む「偉いね。魔法、ちゃんとしまえたね」
「…まほう、だめ、なの」
小さな声。
また泣きそうだ。
「どうして?」
「まほう、わるいの」
「そんなことないよ」
周りにバレちゃだめだから、使うなとか使わないようにとか言われてたんだろうな。
「魔法は悪いことじゃない。使い方をちゃんと覚えて、いいことに使おう」
「いいこと?」
「そう。お兄ちゃんだって、魔法で家の中を直したりしたでしょ?」
うん、うん、と何度か首を縦に振る。
「お兄ちゃんが使った魔法は悪いことだった?」
「ちがうの。いつも、りりのこと、ぎゅってしてくれて、りりがこわさないように、なおしてくれたの」
「いいお兄ちゃんだね」
「うん!だいすきなの!」
嬉しそうにリリアちゃんが笑う。
魔力は……、ん、落ち着いてきた。
「だったら、魔法を使うことは悪いことじゃないよね?」
「でも、りりの、こわすから」
「それは、魔法の使い方を知らないから。お兄ちゃんもきっと、たくさん失敗して、つらい思いをしながら、練習して練習して、たくさん使えるようになったんだよ」
ほんと?って言うように、リリアちゃんはトビア君を見た。トビア君はくしゃりと顔を歪ませて、今にも泣きそうだ。
「……だって、お父さんもお母さんも守りたかったし、知られたら村にいられなくなるし、リリのことだって大事だったから……っ」
使い方を教えてくれる人がいない状況でもトビア君はたくさん頑張ってきたんだと思う。隠れて、バレないように、人に知られないように。
「おにいちゃ」
俺の腕の中からリリアちゃんが抜け出して、トビア君に抱きついた。そのリリアちゃんをしっかり抱きとめたトビア君は、こらえきれずに泣き始める。
両親もまた二人を抱きしめて涙する。
入ったときにも四人で同じように抱きしめあってたけど、その時とは意味が違うのはよくわかる。
でもごめんね?
「えーっと、感動してるとこ申し訳ないんだけど……、とりあえずリリアちゃんとトビア君はクッキー食べて?」
「へ?」
ポカンとする両親。
うん。ほんと、空気読まなくてごめんなさい。
「はい」
保存用のガラス瓶の蓋を開けて、とりあえずクッキーを二枚取り出す。それをトビア君とリリアちゃんに差し出すと、トビア君は両親と同じようなポカンとした顔になって、リリアちゃんは目をキラキラさせて喜んだ。
「いいの?」
「いいよ。食べて」
「ありがと」
小さな子の順応力というか無邪気さというか、こんな場面ではありがたい。
「マシロも食べる?」
「たべう!」
変な顔してるトビア君にもクッキーを押し付けてから、後ろを振り向いてマシロに声をかけると、元気な返事をしてからクリスに下ろしてもらい、俺に向かってマシロなりの小走りで近づいてきた。
「はい。こぼさないようにね」
「あい!」
マシロバッグにも入れておいてあげないと。
「おいしい」
「…これ、あの花びらと同じ」
「うん。あの花びらを練り込んだクッキー。小さな子はこっちのほうが食べやすいと思うから」
「あまくて、ふわふわする」
「リリアちゃんの魔力が安定してきたんだね。苦しくなったりぐるぐるーってしたら、これを食べるんだよ?」
「ぐるぐる」
「うん。ぐるぐる」
リリアちゃんは何度がうなずくとお腹に手を当てた。そのあたりが『ぐるぐる』するのかもしれない。
「あ、あの、それは」
「魔力を落ち着かせるためのクッキーです」
「え、と」
「ガラス瓶に入れておけば湿気ることもないです」
「はぁ…」
「誰が食べても害はないですよ」
どうにも変な顔になってる両親にもクッキーを手渡した。不思議そうな顔をしつつもクッキーを口にした両親は、すぐに表情がほころんでいく。
美味しいんだろうな。うん。だって、料理長さんが作ってくれたクッキーだからね。美味しいのは当たり前。
目的だった妹ちゃんに会うことができて、クッキーも渡せた。
トビア君には、とりあえず入団に関してしっかりともう一度家族と話し合うことを伝えた。納得して送り出してほしいしね。
明日また様子を見に来ることを伝えて、俺たちはトビア君の家を出た。
マシロは俺たちと手を繋いでご機嫌だ。
アルフィオさんとエアハルトさんは家の外で待機しててくれた。
オットーさんと連れ立って来た少し顔色の悪い村長さん(推定年齢五十歳)に、クリスは国と魔法師の関係について改めて話をして納得はしてくれた。でも完全には理解してくれていないみたいだから、これも明日また話し合うということで俺たちは村を出た。
そして翌日のお昼すぎ。
昨日と同じ方法で俺たちが改めてワルセ村を訪れると、門番さんがすぐに村長さんや他の村人さんに声をかけてくれた。
みんなとの話し合いの前に、まずはトビア君の家に足を向ける。
不安定な魔力は感じないから大丈夫だとは思っていたけれど。
「俺…魔法師になる!あんたのところでたくさん魔法を学びたい!!」
昨日とは打って変わった満面笑顔のトビア君に出迎えられた。
しかも、俺に抱きつきそうな勢いだったから、無表情なクリスにしっかりと俺は抱き寄せられたりしたんだけど。
まあ、トビア君はもう魔法師だからね?魔法師になる!っていう宣言はどうかと思うけど、一体なにがあった??
応援ありがとうございます!
32
お気に入りに追加
2,206
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる