148 / 216
俺が魔法師である意味
46 ワルセ村に到着
しおりを挟む花びらを練り込んだクッキー。
クッキーを入れる保存用のガラスの瓶。
魔力暴走を起こしてるかもしれない妹ちゃんへの対処はとりあえずこれだけ。
マシロバッグには多分たくさんの花びら。
濃紺の制服にマントを羽織って、移動はおそらく必要ないからとお馬の準備はしない。
マシロをクリスが抱き上げる。
…あっという間に準備は整った。
まだオロオロしてるトビア君は、エアハルトさんに手を繋いでもらった。
「お気をつけて」
執務室から移動するから、ザイルさんはその場で見送ってくれる。
「はい。行ってきます!」
俺がそういうのと同時に、アルフィオさんの精霊魔法が発動する。
眩い光は一瞬のこと。
眼前の景色が執務室から外の景色に変わった。
「え、え…!?」
驚いているのはトビア君だけ。
移動魔法を何回も経験してるわけじゃないけど、クリスも、オットーさんもエアハルトさんもなんの動揺も見せない。
少し開けた場所で、木の柵で囲われた村が見える。ざっと感知を走らせてみたけれど、とりあえずの魔物の気配はない。
「あそこがトビア君の村であってる?」
「え、そ、そうだけど、でも、なんで」
「移動魔法だよ。……正確に言うなら精霊魔法だけど」
「移動……精霊……?」
そりゃ、困惑するのは仕方ない。
それより、とにかく村に行こう。
呆然気味のトビア君を連れて村に向かう。
村の入口には多分村の人が二人見張りに立っていて、トビア君を見ると驚いた顔をした。
「トビア、どうした!?王都に向かったんじゃないのか」
「あ、あの」
「途中で戻ってきたのか?あ、そうか。この人たちに保護されたのか?だから言っただろ。王都までひとりで行くなんて無謀だと…っ」
「え、と」
「こいつを保護してくださってありがとうございま、」
トビア君のことを心配してたらしい見張りの人が、改めて俺たちを見たんだけど、マシロを抱っこしたままのクリスを見ると不自然に言葉が途切れた。
「……!!で………殿下………!?」
「ひ!?」
声にならない悲鳴というか。
突然王族が訪ねてきたら、そんな反応になるのも仕方ないよね。クリス、あちこちに顔は知られてるはずだし。
あたふたと膝をつく見張りのお二人。ちらりとクリスを見上げたら、特に怒ったり不快な顔はしていない。普通顔。
「村に入りますね」
「は、はい…!!」
オットーさんがお二人に声をかけた。恐縮しきった見張りのお二人は、頭を下げたまま上ずった声で返事をする。
「……俺は怖いか?」
「へ?」
村の中に入ってからクリスが神妙な顔で聞いてきた。
なんのことと言いかけて、見張りさんの態度のことを思い出す。
ああ。確かに怖がってるようにも見えるよね。
「怖くはないと思うよ?無表情でマシロを抱っこしてる姿はちょっと不思議な感じがするけど」
クリスのこの表情は警戒してる仕事用だってよくわかってる。少し気を抜くといつもの笑顔になることも知ってる。
「ういす、おかお、こあい」
……と、マシロがクリスの顔をペチペチと叩いた。
吹き出したのはオットーさん。
「わかったから叩くな」
「うむぅ」
ふ…っと、クリスの表情が和んだ。緊張というか警戒を解いたような。
村の中を進んていくとあちこちから視線を感じた。
戸惑いは「殿下がどうして村に来たんだ?」ってものだろう。俺たちに付き添われてるトビア君にも興味津々な視線が注がれてる。
「あー……、もしかして、顔を隠してきたほうが良かった?」
「いや。この方が話が早い」
「そう?」
「私は先に村長宅へ向かいます」
「ああ」
オットーさんが離れた。
適当に村人さんに声をかけて案内してもらうようだ。
「……ねぇ」
「なに?」
相変わらずエアハルトさんと手を繋いでいるトビア君が、相変わらず困惑気味な声で尋ねてきた。
「……なんで、俺の家、知ってんの?……」
「ん?」
俺とクリスは先頭を歩いてる。
トビア君たちは俺たちの後ろ。
「知らないよ?」
「…は?」
「トビア君の家がどこにあるかは知らない。俺、この村に来るの初めてだし」
「じゃあ、なんで」
「だって、こっちでしょ?」
村の奥を指差すと、トビア君の表情がもっと困惑の色を濃くした。
「そう、だけど、でも、どうして」
「魔力が視えるからね」
不安定で大きな魔力のゆらぎが視えてる。……や、感じる、のかな。
トビア君はそれきり何も言わなかった。
本当ならすぐに跳んで行きたいくらいだ。けど、それだと目立ちすぎる。どういうふうに話の方向をつけるのかわからないけれど、子供が二人とも魔水晶持ちだということを隠しておきたいということなら、下手なことはできない。
現状だけなら、病に伏してる妹のためにトビア君が王都に行って、偶々クリスに会えた…ってことにはできるはずだ。かなり苦しいけど。
でも、ここで俺が派手に魔法を使ったら、それだけで何かを勘ぐられるかもしれないから。
……きっと、そこんとこはクリスが何か考えてくれてるはず。俺はその流れに乗るだけでいい。クリスが出した答えなんだから。俺にとってもそれが最善になる。
結局、一番面倒なところはクリスに丸投げ状態な思考の俺だけど、村の端にある家に着くと、そんな思考もどこかに行った。
「父さん、母さん――――」
トビア君が前に出て玄関の扉を開けたとき、家の中から突風のようなものが吹き付けた。
101
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる