魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

44 いつまでも纏わりつくもの

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「あ、あの人が、ここに来たら、お金、くれる、って」
「あの人…?」
「そしたら、妹の安全は保証するから、って……」

 話が見えないけど、なんとなくは理解した。
 周りを見たらみんな理解してくれて、殺気とか威圧とか、そんな警戒空気が薄れた。

「……レイランドか」

 クリスは苦々しくその名前を口にする。舌打ちとかも聞こえてきた。
 …聞きたくない名前って、なんでこうもずっとまとわりついてくるんだろう。

「お前の言う魔法師長はアキの前任、既に処刑された罪人だ」
「……そんな」
「事実だ。…王都には触れを出したな?」
「ええ。その後、国内にも同じように報せていたはずです」

 クリスの言葉を受けて、オットーさんが答える。

「……俺、文字は読めないし、書けないから」

 小さな声。
 なんだろうな。
 俺のことを怪訝そうに見て不機嫌な声を出していた人物と同一人物と思えないくらいしおらしいというか、覇気がないというか。

「んー、とにかく話聞くからさ。そこ座って。フードも取って。顔がよく見えないし」

 彼はオロオロしながらフードを取った。
 薄茶色の瞳がよく見える。髪は少しくすんだ金髪だった。
 痩せ気味で、頬とか少し汚れてはいるけれど、整った容姿の子だった。

 マシロは俺の腕の中から彼をじっと見つめる。まだ警戒中なのかな。
 ザイルさんがお茶の用意をしてくれた。お茶と一緒にマシロ用の温めたミルクも用意してくれて、むっつりとしてたマシロが「はわ」っと顔をほころばせた。ん。警戒モードはどっかに行ったらしい。

「君も」

 温めたミルクはマシロだけかと思ったら、ザイルさんは彼の前にもミルクの入ったカップをおいた。
 彼は恐る恐る手を伸ばす。
 それをゆっくり口元に運んで、コクリと一口飲んだ。

「……甘いし、美味しい……です」
「あね、ましろもすき。あね、これね、いれるの」

 マシロがバッグの中をいじり始めたから、手の中のカップを取ってテーブルの上においた。
 バッグの中から花びらを出したマシロが、自分のカップと、俺のカップにそれを浮かべる。それからじっと彼の方を見て、徐ろに俺の膝の上から降りた。

「これね、あげる」

 有無を言わさないマシロの行動。
 彼に近づいたマシロは、彼のカップの中に花びらを二枚浮かべた。

「あ」
「げんき、なる」

 ドヤッとした顔で彼に頷いたマシロは、すぐに俺のところに戻ってきて、今度はクリスの膝の上によじ登った。

「ぅいす、あむ」

 口元に花びらを押し当てられたクリスは、怒るでもなく笑いながら口を開けてその花びらを咀嚼した。

「それ、食べても大丈夫だから。魔力が落ち着くから、ミルクと一緒に飲んじゃって」

 カップとクリスを交互に見ていた彼にそう伝えると、俺を見て頷き、またカップに口をつけた。
 青ざめてた顔色は少し良くなって、口元にはうっすらと笑みも浮かんでる。

「んー、それでさ。君の名前とか、色々教えて?」

 だいぶ和んだし、もういいよね?

「あの……、俺は、トビアといいます。ここから西にある村で――――」






 トビア君の話によると、去年、あの人が村を訪れたらしい。タイミング的には、もしかしたら西の森遠征の時だったかもしれない。
 トビア君の家族は魔水晶持ちのことを村の人達に隠していた。気づかれないようにこっそり魔力を使ったりしていたらしい。
 歳の離れた妹もいて、その妹も魔水晶持ち。けど、臆病な上に病気がちで、ベッドからもなかなか出れない状態なんだって。
 ありきたりな話だけど、薬は高価で簡単に手に入る物じゃない。それに、万が一魔水晶持ちのことを知られたら、家族全員村から追い出されてしまう。だから、村の人とはあまり親しくなれないし、お金もなんとか食べていく分を稼ぐのが精一杯。

「……なんで魔水晶持ちだと村を追い出されるの?」
「魔水晶を持って生まれた赤子は届け出の必要がある。それをしていないということで、村全体に咎が及ぶと考えたのだろう」
「あー……、厄介者、ってことなんだ」
「小さな村では知識を持つ者も少ないからな」

 とても平和で豊かに見える国なのに、そういう闇みたいな部分もあるんだ。

「……妹が、時々酷い発作みたいなものをおこして……、家が揺れたり、窓が割れたり、高熱が何日も続いたり……、でも、俺が手を握ったら少し落ち着いて。だから、俺もあんまり仕事ができなくて」

 それは多分魔力暴走だ。
 魔水晶持ちで病気がち。……もう、魔力のせいだとしか思えない。

「そんなときあの人が村に来て……、俺の魔水晶のことすぐ気付かれて、自分のところに来たらお金に困ることもないし、妹のことだって自分が面倒見るから、って。……支度金ってのおいて行ってくれて、十五歳になったら城に来い、って…」

 トビア君は肩から斜めにかけていたバッグの中から、丸めた紙を出した。
 ザイルさんがそれを受け取って、クリスに見せた。

「……用意周到な男だな」

 ――――ワルセ村のトビア、リリア両名は、魔法師団所属とし、魔法師長預かりとする。

 あの男の名前は書かれていなかったけれど、魔法師団で使われていた印が施されている確かな紹介状……召喚状だった。








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