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俺が魔法師である意味

39 マシロ、看病頑張る

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 その日一日、俺はベッドの上の住人になった。
 どこかが痛いとかはない。あるわけがない。でもだるさは抜けないし、熱が下がらない。
 ……多分、調子に乗りすぎたから……だと思う。
 早朝の寝起きにクリスを襲って、完全に日が昇るまで二人で濃厚な時間を過ごした。
 快感で頭の中はネジが飛んでて、次から次に沸いてでてくる欲に抗えなかった。それを制止するのではなく、不敵な笑みを浮かべながら促してきたクリスに責任の一端があることは明白だと思うんだけどね。

「あきと、いっしょね」
「うん」

 いつもは日の出とともに部屋に帰ってくるマシロは、昨日の言いつけどおり朝食まで帰ってこなかった。
 …朝食と言っても、ブランチみたいな時間になってしまったけど。
 メリダさんは朝食に甘めのパン粥を俺に用意してくれた。それから、果物を絞ったジュース。何種類か入ってるようで、不思議ななんとも言えない色だったけど、甘くてほんのり酸味があって美味しかった。

「…たべる?」

 ベッドに足を伸ばして座ってる俺に乗りながら、マシロはバッグの中から花びらを取り出して俺の口に押し付けてきた。

「マシロの分がなくなっちゃうよ」
「……………………いい」

 バッグの中身と自分の手のひらと俺を何度も見て頷いたマシロから強い決意みたいなものを感じて、思わず笑ってしまった。

「じゃあ食べるよ?」
「…………………う」

 マシロが差し出してくる花びらを一枚、口の中に入れる。

「………あき、げんき、なる?」
「うんうん。なるよ。もう元気」
「きゃあ!」

 きゅって抱きしめたら嬉しそうにマシロが笑った。…でも、すぐに顔が歪んでくる。

「……あき、あちゅい」
「んー。元気だけど熱が下がらないね」
「……むぅ」

 このマシロのジト目は、「嘘ついた」と言わんばかり。
 マシロは俺の足の上から降りて、ベッドからも降りた。
 椅子の上によじ登り、テーブルの上に置かれてる洗面器の中のタオルを取り出して、小さな手でぎゅっと絞る。
 俺の看病をすると言ってきかなかったマシロのために、メリダさんは小さめのタオルを用意してくれた。マシロの手に丁度いい大きさのタオルは、マシロの力でもなんとか絞れる。

「あき、ぉやすぃ!」

 椅子から降りたマシロが、ふんすと鼻息が聞こえそうなくらいのはりきり顔で、俺をベッドに倒そうとしてくる。

「わかったから」
「う!」

 大人しくベッドに沈み込むと、俺の前髪をかき分けて、マシロが冷たいタオルを額においた。
 それはちょっと絞りが足りなくてべちゃっとしてるけど、水が垂れてくることはなさそう。

「う」

 満足気に頷いたかと思ったら、ベッドによじ登ってきて毛布を俺の口元まで引っ張り上げた。

「マシロも寝る?」
「あき、ねんねしゅる」
「マシロは?」
「あきにね、いいこ、ってしゅる」

 ぺたりと枕元に座り込んだマシロが、俺の胸元をとん、とん、と叩く。

「いいこね」

 ……笑いをこらえるのがつらい。
 多分、メリダさんがこんなふうに寝かしつけしてくれてるんだろうけど、マシロはとても真面目な顔でやるから、可愛らしくて仕方ない。
 いいこ、いいこと言いながら手でとんとんとリズムを取るマシロ。
 それを暫く続けていると、手が止まった。
 疲れたのかなと思ったけれど、そうではないらしい。
 俺の額に載せたタオルをゆっくりめくりあげて覗き込む。一体何を見てるんだろう。

「あちゅくない?」

 冷たいタオルが乗っていた額に手を当てて、少し表情が明るくなる。まあ、冷やしてた額だから、冷たく感じるだろうけど。

「さすがにまださがらないなぁ…」
「うむぅ」

 唸ったマシロがタオルを戻してまた俺の胸をとんとんと叩く。
 やること全部が可愛いなぁ。
 もうなんでこんなに可愛いかな……って笑いながら、マシロの刻むリズムに体を委ねてるうちに、眠気がぶり返してきた。

「ねんね」

 ん。寝よう。





 頬に温かくて柔らかいものを感じて目が覚めた。

「クリス」

 少し席を外してたクリスが戻ってきてた。

「熱は下がったようだな」
「あ、ほんと?」

 なんとなく顔とか首とか触ってた。
 うん。熱さはなくなった……かな?

「マシロが一生懸命だったから……、あ、マシロは」
「そこにいるだろ」

 クリスが指さしたのは、クリスとは反対側の俺の隣。
 ゆっくりそちらを見たら、すぴすぴと鼻を鳴らしながら体をぐてっと伸ばして白猫が寝てた。

「ありゃ」
「マシロなりに考えた結論らしい。人化してるだけでアキの魔力を食ってるなら、白猫でいたほうがアキは回復しやすいんじゃないかと自分で考えてた」
「あー…」
「アルフィオにも確認したが、それはそれで正しいらしいな」

 話しながら起き上がったら、クリスがすぐに背中を支えてくれた。少しクラリとしたのは全快ではないからかな。

「アルフィオさんとエアハルトさん、戻ってきたんだ」
「ああ。それほど疲れてもいないようだったから、報告書を書かせたあとは俺のところに合流させた」
「ん。ありがと、クリス」

 クリスの頬にキスをする。
 それのお返し…みたいに、クリスも俺の頬にまたキスをする。それなら…って、少し体を伸ばして額にもキスをしたら、同じように返された。
 何度か繰り返して唇への啄むようなキスに変わる。それも何度もしてるうちに、お互いに笑い出した。

「きりがない」
「だね」

 まだ寝てる子猫マシロをそっと手の中に抱き込む。
 眠そうに薄っすらと開いた瞳は、俺を見ると嬉しそうに閉じてまた寝始めた。

「よく寝る」
「寝る子は育つんだよ」

 二人でマシロのふわふわな白い体を撫でる。
 子猫のマシロももちろん可愛い。
 けど、腕の中に子供のマシロの重みがないのが、ほんの少し寂しく感じた。









*****
マシロ、看病疲れにて撃沈(*´ω`*)
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