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俺が魔法師である意味

35 再び北町へ

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 昼食を食べた後も少し仕事をした。
 試食してオッケーを出したクッキーは、お茶の時間を前に執務室に届いた。
 昼食後から俺の膝の上でゴロゴロとくつろいでいたマシロが、届いたお菓子を見て目をキラキラさせる。

「おやつ!」
「マシロのじゃないよ」
「………………はゎ」

 夏が近いから外は温かい。外套はいらない。

「クリス」
「ああ」

 クリスも書類をまとめて立ち上がる。
 メリダさんは茶器を片付けながら、マシロに手を伸ばした。

「マシロちゃん、ばぁばともどりましょう」
「……ぁき、ぅいすと、いく?」
「うん。ちょっと北町に行ってくるから」
「ましろも」
「マシロ?」
「ましろも……いく、…め?」

 立ち上がった俺の足にしがみついてくるマシロ。
 目がうるうるしてる。
 やっぱり寂しいんだ。

「一緒に行く?」

 腰をかがめて頭を撫でたら、マシロは満面笑顔になって何度も頭を振った。

「ん。メリダさん、マシロ連れて行くね」
「ええ。行ってらっしゃいませ」
「うふ。ぃきましゅ!」
「…『行ってきます』」
「いきましゅ!」
「……はぁ」

 はは。
 クリスが黙った。

 お菓子の入った籠を手に持って、俺たちは執務室をあとにした。
 護衛はいつもの護衛コンビ。
 目的地は北町の広場。

 怒涛のごとく話が進んでいった数日間だけど、あのあとのクレトの様子も気になってた。
 王都での魔力のゆらぎは感じないから大丈夫なことはわかるけど、魔力を感じるだけじゃわからない不都合もあるかもしれない。
 それから、あの近くに住んでる人たちの中にいる魔水晶持ちの人たちのことも。
 感知は王都全体にかけることができるけれど、俺の体は一つしかないから一つ一つクリアしていくしかない。
 それだって、お菓子を配ったり話をするくらいしか、今の俺にはできないんだけど。

 マシロはクリスが縦抱きにした。
 俺が疲れない程度の速さで北町の住宅地に向かう。
 北町に入ってから魔力感知を使う。跳びたいわけじゃないから、精密に探る必要はなくて、ちゃんと目を開けていられる。
 目的地である住宅地の中にある広場あたりに、少し大きな魔力が何個か感じられる。多分、子供たち。

「…ん、と。五人…くらい」
「魔力を使いながら歩くな。倒れるぞ」
「大丈夫。範囲狭いし」

 クリスの視線を感じた。
 溜息と同時に、繋いでいる手に力が入る。
 広場が見えるところまで来ると、親子連れが何組か見えた。
 それから、俺たちに気づいて軽く手をあげるギルマスと、クレトの姿もあった。

 午前中のうちにギルマスには連絡しておいた。
 クレトと家族と、他の魔水晶持ちの子たちを、お茶の時間くらいに広場とかに集めてほしい、って。
 ちょっとやってみたいことがあったから。

「クレト、体どう?」
「にちゃ」

 にぱ…って笑ったクレトからは、魔力のゆらぎを少し感じるくらい。暴走するほどではなくてほっとしつつ、広場の中の草地に腰を下ろした。
 クレトは傍にいた母親の女性を見上げてから、俺の方に歩いてくる。
 クリスはマシロを俺の近くにおろしてから、ギルマスと一緒に俺の後ろの少し離れた所に立った。
 マシロは周りを見回してる。自分と同じくらいの子供が数人いる様子が珍しいのか怖いのか。

「クレト、これ食べて」

 とりあえず目的を果たそうか。
 籠の中からクッキーを一枚取り出して手渡した。
 クレトは不思議そうな顔をしたけれど、すぐに口に入れて食べ始める。

「おいし!」

 目をキラキラさせて食べる様子はマシロと一緒だった。

「……ましろも」
「ふふ。うん、マシロも食べていいよ」
「あぃ!」

 一枚取り出してマシロにも手渡した。
 俺の直ぐ側に座って、ニコニコしながらはむっと食べ始める。

「おいち」
「おいし、ね」
「ね」

 二人で笑い合う姿が可愛い。

「じゃあ、マシロ。お願いしたいことあるんだけど」
「あい」
「他の子にもあげたいから、配ってきて。みんなにあげていいよ」
「おちごと!」
「うん」

 ハンカチの上に数枚のクッキーを載せて、それをマシロに持たせた。
 マシロは落とさないようにゆっくり歩いていくと、遠巻きに見ていた子たちに「どじょ」って言いながら配っていた。
 それを繰り返すうちにみんなの距離が縮まってくる。
 クッキーが無限にあるわけではないけれど、まだ用意してくれた物の半分くらいは残ってた。

「こっちにおいで」

 少し遠いところから様子を見てる子に声をかけると、マシロが迎えに行く。
 そうやって草地の上に俺と子どもたちの輪が出来上がった。
 順番に視てみたけど、どの子からも気になるゆらぎは感じなかった。

「おかし、どうだった?」
「おいしかった」
「あのね、ぽかぽかしたの」
「ふわって」

 男の子も女の子も、お互いに「ね!」って言い合って笑い合う。
 よかった。
 ちゃんと効果がでてる。

「みんなの魔水晶見せてくれる?」

 マシロを膝の上に座らせて言ってみたら、それぞれに親の顔を見た。見せてもいいのか確認したんだろうな。

「ぼくの」

 最初に見せてくれたのはクレトだった。
 この間見たときより、鈍い光が強くなってる。

「綺麗だね。ちゃんと持ち歩いててえらいね」
「うん。にちゃと、やくそくした」
「そうだね」

 俺がクレトの頭を撫でていたら、おずおずと他の子も魔水晶を取り出し始めた。首からかけている子もいれば、革袋に入れてポケットにしまってる子もいる。
 それで気づいたのは、革袋とかに入れてる子の魔水晶の輝きが少し鈍いこと。
 その子の魔力は暴走を起こすほど膨れ上がってるわけじゃなくて落ち着いているけど、直接体に触れてる魔水晶の方が光が強くなってる。これは検証したほうがいいのかもしれない。
 でも、どちらにしても、子供たちと魔水晶の間に魔力の流れができていた。相互ではなく、子供から魔水晶にむけての一方通行ぽいけど。
 やっぱり魔水晶は余分な魔力を吸い取ってる。魔力制御を覚えるまで、子供たちにとってとても大切なものなんだ。









*****
真面目会…。
次回も多分真面目会…。
甘々なの書きたい……(´・ω・`)
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