魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

33 研究だけが仕事じゃない

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「とりあえずだ。クリストフ、お前は坊主から手を離せ。話が前に進まん」
「このままでいいだろ」
「坊主が心ここにあらずになってるだろうが。俺も暇じゃねぇんだよ」

 それでようやくクリスが俺をソファの上におろしてくれた。でも、ぎゅって手を握ってくる。

「はぁ…。……坊主の魔力感知は優れている。この間の魔物襲撃のときにそれは証明できただろう」
「ええ。……正直、私としては信じられない思いですが」
「だろうな。あのときにも言ったが、あれに関しては絶対に他国に知られるな。魔法師団ができて、研究が進んだ状態であれば、他国への公表に踏み切ってもいいだろうが、現状では坊主一人の力だ。余計な争いの火種になる」
「はい」

 俺がクリスと手をつないでいても、みんなからかったりしてこない。これが普通、みたいな。
 テオドルトさんは話すよりもなにかを書き留めている時間のほうが長い。書記的な立場って感じ。
 あとは収納魔法のことも詳しく話した。
 クリスポーチの中からありえないほどの荷物を出して見せれば、そりゃ納得だってしてくれるよね。

「世界の均衡が崩れるのでは……」

 っていうテオドルトさんの呟きは聞かなかったことにしよう。そうしよう。
 そうして俺が使える魔法について粗方説明を終えたとき、ギルマスは居住まいを正してお兄さんたちを見据えた。

「今までの魔法師団の悪評が立ちすぎてる。レイランドが処刑されたからと言って、国の魔法師に対する見方が改善されたわけじゃない」
「…ええ」

 クレトの魔力暴走のときもそれは感じた。
 この国に住まう人たちの中では、何一つ好転していない。

「まずは国全体に魔法師団が以前とは違うものだということを周知するへきだ。現状では団員はいないんだろう?」
「エアハルトさんとアルフィオさんにとりあえず来てもらおうかな、って」
「坊主がそう決めてんならいいが、あいつらは結局他国の者であり別種族の者だ。この国の貴族たちがいずれ口出ししてくる」

 ギルマスもそういう見解なら、期間限定…って考えてもいいのかもしれない。とにかく今は立て直しとか、方向性を作らなきゃならないから、使えるものは使わないと。

「軍属ってのも改めた方がいい。その言葉だけで怯えるやつがいる。意識するなら国防のための機関だな。それは戦うことばかりじゃない。国民たちの生活が豊かになるよう研究を進めることも、大切な役割だ。平民出身であれば、平民が何を必要としているかよくわかるだろう。自分の家族の暮らしを良くするためと思えば、研究にも打ち込めるだろうしな。
 当然、戦いに必要とされる場合もあるだろう。魔物の中には物理的な攻撃が効きにくいやつもいるだろうし、対人だって起こり得る。それはどの国の魔法師機関だって同じだ。戦いになれば命の保証はない。だがそれは魔法師も騎士も兵士も皆同じだ。生き残るために訓練をするし、協力し合う。そういうもんだろ?」

 そう、だよね。
 軍属って言葉を避けても、何かあれば戦わなければならない。
 タリカ村にスライムが出現したときに動けるまともな魔法師がいたら、迷わず派遣されてたはず。

「ま、あくまでも俺個人の意見だがな」

 肩をすくめたギルマスだけど、正しいと俺は思う。

「魔法師団に入ってもらう人にはやっぱり有事のときには戦場に出ることもあるって説明が必要だと思うし、覚悟もしてもらわないと駄目だと思う。万が一なんて、どこにでも転がってるはずだから」

 万が一が起こらないなんてことはない。予想もしてなかったことが起きるものだって、俺は何度も経験して知ってる。
 誰も死にたくないと思う。家族だって、死ぬ場所に身内が行くのを良しとしないはず。
 でもそれは騎士の人も兵士の人も同じ。
 彼らが剣の腕を磨くのと同じように、俺たちは魔法師として魔法の研究を進めればいい。効率的な攻撃魔法も、自分も仲間も家族も守れるような魔法も。

「……頑張る」

 とにかくできる限りのことをやりつくそう。
 クリスと繋いでない手を固く握りしめて言葉にしたら、またギルマスから頭をグリグリ撫でられた。

 それから少し話をして、一回目の会議?は終わった。
 ギルマスに、顧問ってことで!って笑っていったら、苦笑しながらも「仕方ねぇな。付き合ってやるよ」って了承してくれた。
 なんだかんだと面倒見のいいギルマスだ。
 魔法師団を象徴する『印』をどうするかって話で、今までの花と杖のモチーフを変えることになった。
 印が変わることで、目に見える『変化』の一つになるから、って。俺も同じものを使うことには抵抗があったからいいと思う。
 新しい印には、杖と白猫のモチーフを使ってもらうことにした。もうこれしか思い浮かばなかったから。みんな笑って了承してくれた。

 陛下からの承認はまだもらっていないけれど、もう決まったようなものだからと、解散してからクリス隊のところに出向いた。
 エアハルトさんとアルフィオさんに、掛け持ちって形で新生魔法師団に所属してもらいたいとはなしたら、案の定だけどエアハルトさんが喜びの叫び声をあげた。
 急いだのには理由もある。

「そんなわけで、初仕事お願いしたいんだけど」
「アキラ様の為ならば、私どんなことでも承ります…!!」
「じゃ、明日、オットーさんの村跡に行ってきて」
「……はぃ?」
「アルフィオさん、場所はもうわかるよね?」
「ええ、問題なく」
「二人なら楽に跳べる?」
「そりゃもう簡単に」
「日帰りじゃなくていいから、マシロがおやつにしてるあの花、大量に摘んできてもらいたいんだよね。専用の収納袋渡すから」
「ええ、わかりました。……エアハルト殿、私達二人の初任務ですよ。頑張りましょうね!」
「あ、あ、あきら、さまっ、アルフィオ殿だけで手が足りるのでは……!?」
「アルフィオさんだけでも強いけど、『万が一』に備えないと。それにこれは魔法師団としての仕事だから、クリス隊の人たちを動かすのはおかしいでしょ?だから、よろしく、エアハルトさん」

 ニコリと笑って言ったら、その場でエアハルトさんが頽れた。
 俺の直ぐ側でクリスも「それはいいな」とうなずいてるし、オットーさんもニコニコ顔だ。
 番さんだって言うし。
 もっと親睦を深めてもらわないとね!









*****
アキラ魔法師団初任務はお花摘み(笑)
イチャイチャが足りない……(; ・`д・´)
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