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俺が魔法師である意味

30 動き始める

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 やることは山積み。
 元々の魔法師団所属魔法師たちはすでになく、魔法師団員が身を寄せるべきの宿舎も今はない。
 ……なんでないか、って。
 そんなの、俺が滅茶苦茶に破壊しまくったせいなんだけど。

「なにか希望とかあるかな?」
「えっと…」

 会議室ぽい部屋に、俺とクリス、お兄さんとお兄さんの側近さんがいる。
 いきなり突然の謁見式の翌日。
 新しくなる魔法師団についての打ち合わせをこの顔ぶれで始めた。

「俺、騎士団の詰め所的なところもわからないんですけど…」

 俺がお城の施設で知ってるのは、クリスの執務室とかそこからつながる訓練場。あとは御前試合の会場になった騎士団演習場と、謁見が行われる広間とか、パーティーが開かれる広間とかくらいしか知らない。

「今までの魔法師団は――――」

 って、側近さんのテオドルトさんが説明をしてくれた。

 軍属になった魔法師たちは、貴族、平民に関わらず、宿舎に入ることになってたらしい。
 俺が破壊した魔法師棟は、その宿舎と研究施設が併設されたもので、当然だけど食堂もあるし身の回りの雑事を担当してくれる専属の侍女さん、侍従さんが数人いた。
 研究施設には多数の書物もあったけれど、先代ってことになるあの男が大半を処分したらしい。自分に都合のいいものだけを残したんだ。
 俺が破壊した魔法師棟の建物から、回収できるものに関しては回収したらしいけど、それにしたって今までの知識が失われてるのは痛い。

「場所としては、元々の敷地が空いてます。神官殿によって浄化も済んでいます」

 お城の中から行くことができる、ほぼお城内の敷地。
 でも、あの場所は――――
 少し息苦しさを感じたとき、クリスが俺の手を握った。

「………」
「大丈夫」

 たった一言。
 でもそれで、俺の呼吸は落ち着いてくるし、頭の中がまた動き出す。

「え、と、宿舎とか研究施設はいずれ必要だと思うんですけど、現状ではいりません。……あの場所は使いたくないです。もう少し、考えさせてください」
「ん、いいよ。そうだね。私もあの場所にアキラの仕事場を作りたくはないかな」

 場所的には便利なんだけどね、と、お兄さんは少し笑ってくれた。あまり重い雰囲気にならないように、俺に気遣ってくれてるのがすごくよくわかる。

「まあ、団員ができてから考えることだね」
「はい」

 団員。
 そうなんだよね。
 俺、魔法師長に就任したはいいけど、一人も魔法師のメンバーがいないんだよ。

「アキラ一人にあれこれ任せるのは重荷になりすぎるんだけど、国の魔法師団が改めて設立されたとなると、地方の貴族たちから派遣の要請も届くようになるだろう」
「派遣…ですか?」
「うん。土地を開拓したいんだけど、人力だとどうしようもない岩があるからそれを除去してもらいたい、とかね」
「あー……なるほど」
「うん。……これはあくまでも例えだから、私を睨んでも駄目だよ、クリストフ」
「……別に、睨んでなどいない」
「そういうときに何もアキラ一人を行かせるわけじゃない。どんなに言ってもクリストフはついていくんでしょ?」
「当たり前だ」

 言い切っちゃった。
 そのほうが俺も嬉しいけど。

「その時はまた考えようか。クリストフにはクリストフの役割があるんだから」
「……ちっ」

 お兄さんの前で舌打ちとかしないの!
 さすがのお兄さんも怒るかなと思ったけれど、楽しそうに笑ってるからいいということにしよう。

「とりあえずの団員に心当たりとかないかい?」
「あー……」

 さくっと話を戻したお兄さんが、真剣な目で俺を見てきた。
 考えてることはあるんだけど、これを言ったらクリスが即座に却下って言いそうな気がするんだよね。
 でも、仕方ないか…。

「クリス隊の、エアハルトさんとアルフィオさん」
「………」

 お。
 クリスから即却下と言われなかった。
 ちらりと見たら、苦虫を噛み潰したようななんとも言えない顔をしていたけれど。

「……それは」

 クリスのかわりに苦言を呈したのはテオドルトさんの方だった。

「国に属する機関に国と関係ない者を所属させるというのは――――」
「クリス隊にいますけど……」

 他国の人を国の機関に引き込むことが問題なら、クリス隊にだっていられないはずだ。
 そりゃ、国を守るための機関になるだろうからこの国出身の人のほうがいいとは思うけど、そんなこと、言ってる場合じゃないし、排除すべきことじゃない。

「テオ、そんなことを言っていたらこの国は魔法師を抱え込むなんて到底できなくなるよ。気持ちはわかるけれど、クリストフの下で信頼が得られているなら、配属には問題ないと私は思うけど」
「……っ、すまない」

 テオドルトさんはすぐに納得してくれたみたいだ。

「エアハルト殿の魔法に関しては私も聞き及んでいるし、アルフィオ殿の精霊魔法というものも、研究するに値する魔法なのだろう?」
「はい。あ、あと、最初のうち、顧問的な感じで、ギルマス……っと、冒険者宿の店主さんに来てもらおうかと思ってて」
「ああ。統括だね」
「はい。それも、魔法師の人が来てくれてから、なんですけど」
「うん。特に問題ないと思うよ」
「…むしろ、この段階からあいつの知識を使ってもいいんじゃないか。リーデンベルグじゃ最高位魔法師だったようだし。他国のやり方を倣うことは悪いことじゃない」

 ……と。
 クリスがニヤリと笑った。
 あ、ごめん、ギルマス。
 こき使う予定が早まったと思う。









*****
始動です(`・ω・´)ゞ
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