132 / 216
俺が魔法師である意味
30 動き始める
しおりを挟むやることは山積み。
元々の魔法師団所属魔法師たちはすでになく、魔法師団員が身を寄せるべきの宿舎も今はない。
……なんでないか、って。
そんなの、俺が滅茶苦茶に破壊しまくったせいなんだけど。
「なにか希望とかあるかな?」
「えっと…」
会議室ぽい部屋に、俺とクリス、お兄さんとお兄さんの側近さんがいる。
いきなり突然の謁見式の翌日。
新しくなる魔法師団についての打ち合わせをこの顔ぶれで始めた。
「俺、騎士団の詰め所的なところもわからないんですけど…」
俺がお城の施設で知ってるのは、クリスの執務室とかそこからつながる訓練場。あとは御前試合の会場になった騎士団演習場と、謁見が行われる広間とか、パーティーが開かれる広間とかくらいしか知らない。
「今までの魔法師団は――――」
って、側近さんのテオドルトさんが説明をしてくれた。
軍属になった魔法師たちは、貴族、平民に関わらず、宿舎に入ることになってたらしい。
俺が破壊した魔法師棟は、その宿舎と研究施設が併設されたもので、当然だけど食堂もあるし身の回りの雑事を担当してくれる専属の侍女さん、侍従さんが数人いた。
研究施設には多数の書物もあったけれど、先代ってことになるあの男が大半を処分したらしい。自分に都合のいいものだけを残したんだ。
俺が破壊した魔法師棟の建物から、回収できるものに関しては回収したらしいけど、それにしたって今までの知識が失われてるのは痛い。
「場所としては、元々の敷地が空いてます。神官殿によって浄化も済んでいます」
お城の中から行くことができる、ほぼお城内の敷地。
でも、あの場所は――――
少し息苦しさを感じたとき、クリスが俺の手を握った。
「………」
「大丈夫」
たった一言。
でもそれで、俺の呼吸は落ち着いてくるし、頭の中がまた動き出す。
「え、と、宿舎とか研究施設はいずれ必要だと思うんですけど、現状ではいりません。……あの場所は使いたくないです。もう少し、考えさせてください」
「ん、いいよ。そうだね。私もあの場所にアキラの仕事場を作りたくはないかな」
場所的には便利なんだけどね、と、お兄さんは少し笑ってくれた。あまり重い雰囲気にならないように、俺に気遣ってくれてるのがすごくよくわかる。
「まあ、団員ができてから考えることだね」
「はい」
団員。
そうなんだよね。
俺、魔法師長に就任したはいいけど、一人も魔法師のメンバーがいないんだよ。
「アキラ一人にあれこれ任せるのは重荷になりすぎるんだけど、国の魔法師団が改めて設立されたとなると、地方の貴族たちから派遣の要請も届くようになるだろう」
「派遣…ですか?」
「うん。土地を開拓したいんだけど、人力だとどうしようもない岩があるからそれを除去してもらいたい、とかね」
「あー……なるほど」
「うん。……これはあくまでも例えだから、私を睨んでも駄目だよ、クリストフ」
「……別に、睨んでなどいない」
「そういうときに何もアキラ一人を行かせるわけじゃない。どんなに言ってもクリストフはついていくんでしょ?」
「当たり前だ」
言い切っちゃった。
そのほうが俺も嬉しいけど。
「その時はまた考えようか。クリストフにはクリストフの役割があるんだから」
「……ちっ」
お兄さんの前で舌打ちとかしないの!
さすがのお兄さんも怒るかなと思ったけれど、楽しそうに笑ってるからいいということにしよう。
「とりあえずの団員に心当たりとかないかい?」
「あー……」
さくっと話を戻したお兄さんが、真剣な目で俺を見てきた。
考えてることはあるんだけど、これを言ったらクリスが即座に却下って言いそうな気がするんだよね。
でも、仕方ないか…。
「クリス隊の、エアハルトさんとアルフィオさん」
「………」
お。
クリスから即却下と言われなかった。
ちらりと見たら、苦虫を噛み潰したようななんとも言えない顔をしていたけれど。
「……それは」
クリスのかわりに苦言を呈したのはテオドルトさんの方だった。
「国に属する機関に国と関係ない者を所属させるというのは――――」
「クリス隊にいますけど……」
他国の人を国の機関に引き込むことが問題なら、クリス隊にだっていられないはずだ。
そりゃ、国を守るための機関になるだろうからこの国出身の人のほうがいいとは思うけど、そんなこと、言ってる場合じゃないし、排除すべきことじゃない。
「テオ、そんなことを言っていたらこの国は魔法師を抱え込むなんて到底できなくなるよ。気持ちはわかるけれど、クリストフの下で信頼が得られているなら、配属には問題ないと私は思うけど」
「……っ、すまない」
テオドルトさんはすぐに納得してくれたみたいだ。
「エアハルト殿の魔法に関しては私も聞き及んでいるし、アルフィオ殿の精霊魔法というものも、研究するに値する魔法なのだろう?」
「はい。あ、あと、最初のうち、顧問的な感じで、ギルマス……っと、冒険者宿の店主さんに来てもらおうかと思ってて」
「ああ。統括だね」
「はい。それも、魔法師の人が来てくれてから、なんですけど」
「うん。特に問題ないと思うよ」
「…むしろ、この段階からあいつの知識を使ってもいいんじゃないか。リーデンベルグじゃ最高位魔法師だったようだし。他国のやり方を倣うことは悪いことじゃない」
……と。
クリスがニヤリと笑った。
あ、ごめん、ギルマス。
こき使う予定が早まったと思う。
*****
始動です(`・ω・´)ゞ
95
お気に入りに追加
2,283
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!
ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。
僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。
僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。
えへへ。
はやくニールと結婚したいなぁ。
17歳同士のお互いに好きすぎるお話。
事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。
ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。
_______________
*ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。
*短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。
*不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。
*甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる