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俺が魔法師である意味
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しおりを挟む「信じらんない……っ、せめてなんか一言あってもいいと思うんだ…っ」
「正装した時点で薄々は気づいてただろ」
「………そりゃ………、なにかあるなぁ……とは思ったけどさ」
それがあんな略式とか簡易じゃないちゃんとした謁見式だなんて思わなかった。
正式にクリスの伴侶になってまだ一ヶ月も経ってない俺は、自分的にはなんちゃって王族な気持ちでいる。
クリスの伴侶…ってところは何一つ否定する要素はないんだけど、身分的なところで。
でも連れて行かれた謁見広間では、しっかりと『アキラ殿下』って呼ばれた。それ正しいの?ってだらだらと汗までかいた。
「……勲章とかいるの?」
「実績があるということを分からせるためだな」
俺、知らない内にいくつもの勲章を得ていた。
結婚式のときに胸元を飾っていたから存在は知っていたけれど、今回改めて正式なものとして発表がされた。
……それから、一の月の魔物襲撃に関しても。
知ってる人はごく少数で、大半の貴族さんたちは知らなかったから、広間がやたら騒がしくなった。
「なによりこれで動きやすくなるだろう」
「……クリスが執務から逃げ出すのがちょっとわかる気がする」
「まだ始まってもいないのに?」
そう言って笑うけどさ。
今まで訝しげに俺を見ていた貴族の目の色が変わったのは明らかだった。好意的な視線や憧憬に似た視線。それから、まとわりつくような嫌な視線。
受け入れてくれてる。
けど、その受け入れの方向性とでも言うんだろうか。
ネチネチしたまとわりつく視線を向けてくる人たちは、どう俺を利用しようか……そんなことを考えてるような気がする。
正式な謁見で話されたことを、安易に他国に漏らすようなことはしないだろうけど、貴族には野心家が多いから。気をつけるのは必要。だけど、成人したばかりの、所詮ゲーム好きの高校生である俺に彼らをいなすのは無理に等しい…。
「……俺、政治的なことわかんないよ」
「俺を頼ればいい。何もかも抱え込むな」
「だって、クリスに力が集まりすぎる……って、喚いてた貴族の人もいたし」
「あの貴族は王太子派の一人だな。俺に近い者が国の重要な機関の長を努めるこで、王太子よりも俺に権力と武力が備わるとでも思ってるんだろ」
「クリスがお兄さんのこと裏切るなんて絶対ないのにね」
「ああ。逆に『第二王子派』はここぞとばかりに攻勢を強めるだろうな。『第二王子のほうが王太子にふさわしい』とかなんとかまた言い出すだろう」
クリスは酷く面倒くさそうに言い捨てた。
どっちの派閥の人たち何もわかってないんだなぁ。クリスを見ていたら、王位を望んでないこと、お兄さんのことを大事にしてること、すぐわかるのに。
「面倒だね」
「ああ。面倒だ」
お互いに顔を見合わせてぷぷ…っと笑った。
「アキ」
「ん?」
「…お前が余計な緊張をしないように黙って連れて行ったが、堂々とした立ち居振る舞いだった。王族としての自覚ができたか?」
「………そんな自覚ないってば。俺にあるのはクリスの伴侶なんだっていう自覚だけ」
「そうか」
面倒な貴族さんたちの話をして不機嫌になってクリスは、あっという間に機嫌が治ったらしく、微笑みながら何度も俺の頬を撫でた。
それから肩を抱き込まれて、何度もキスが降りてくる。
…謁見から戻って正装から着替えて、ちょっと疲れたからと伝えて、マシロはメリダさんに見てもらってる。
俺がクリスに甘える時間が必要だからごめんね、マシロ。
俺がマシロと寝てる間に、クリスは陛下とお兄さんに色々働きかけて、急な謁見式の手配をしていたらしい。
根回しができていたし、元々魔法師長に関しては俺が適職だと認識されていたらしい。だからなんの問題もなく陛下とお兄さんからは了承が得られてた。
あとは口うるさい貴族の人たちも何人かいたけれど、概ね予定通り承認された。
「……魔法師長かぁ」
「負担か?」
肩を抱かれて、まだあちこちにキスをされてる俺は、クリスの腕に自分から抱きつく。
「負担……ってことはないよ。やりたいようにやるだけだし。でも、そうだなぁ。現状の魔法師団は無い、ってことだよね?」
「そうだな」
「……あの人に洗脳されてた人たちは今どうしてるんだろう」
「操られていたということで、処刑はされていない。ただ、あの男の支配が解かれたあと、操られていたとはいえ自分が行ってきたことに耐えきれず、自死に至った者が二名。廃人同然となった者が三名。医療師たちが治療にあたったが、改善の見込みはない」
全部で五名。
それが多いのか少ないのかわからない。
西の森で見たのは三人だった。
あの日、少年を囲んでいたのは――――
「……っ、っ、っ、ぁ」
「アキっ」
息が苦しくなった。
クリスはすぐに俺に口付けて、息を流す。
「は……っ」
「すまない。不用意だった」
「ん……、ん、だい、じょうぶ。……あは。駄目だなぁ。もう大丈夫って思ってたのに」
あのときのこと。
もう乗り越えることができたと思ってた。本物の体じゃなかったし、弔いもできたと聞いているし。
けど、あのときのことを思い出すだけで過呼吸になる。息苦しくなって胸をかきむしりたくなる。
涙を流しながら事切れていたあの子の目が、どうしても、忘れられなくて。
「………ぜんぜん、っ、大丈夫、…っ」
「アキ」
ぎゅ…ってきつく抱きしめられて、体が震えてたのがわかった。
「無理に笑うな。……笑わなくていい。思い出させるようなことを言った俺が悪かった。アキがあのときの恐怖を引きずっていたとしても、なにもおかしくはないんだ」
「クリス…っ」
「大丈夫。俺が傍にいる。……これから何度も思い出すかもしれない。それがアキを苦しめるかもしれない。だけどな、そういうときは笑ってごまかさなくていい。震える体は俺が抱きしめてやる。辛いときは辛いと言葉にしていいんだ」
「……ぅ、んっ」
魔法師長になる。
言葉にするのは簡単。
でも、これは、同じ役職名を持っていたあの男とも深く関わること。蓋をしちゃならないこと。
「クリスがいてくれたら、俺、できるから」
クリスがいてくれれば、どうしようもない記憶からすくい上げてくれる。
だから、前に進める。
*****
トラウマと闘いながら、です。
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