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俺が魔法師である意味
27 みんながいる
しおりを挟む今まで逃げてきた魔法師長という役職。自分からそれになる…と断言した俺は、クリスに抱かれたままお城に戻った。クリスが離してくれなかったから。
「少し休むか?」
「ん…、や、大丈夫」
クリスが心配してくれてるのはわかるけど、多分やることとか考えなきゃならないことがたくさんあるはず。
今は稼働してない魔法師団。その現状を俺は何一つ知らない。
だからといって、どう運営していけばいいかとか、何をしなきゃならないのかとか、実際俺はなんにもわからないんだ。
俺は魔法って力はすごい力だと思ってる。だけど、それのせいで差別が生まれるのは望まないし、悲しむ人がいちゃならない。
俺の理想を押し付けるために、ちゃんと考えなきゃだめだ。
クリスにしがみつきながらそんな決意をしていたら、クリスから溜息が聞こえてきた。
「無理しなくていいんだ」
「……してない、し」
まだ何もしてないのに。
なんでそんな変なこと言うの…って首を傾げたとき、自室についていた。
「あき!ういす!」
マシロはメリダさんと居間の方にいて、絵本を読んでいたらしい。
「お帰りなさいませ」
メリダさんは落ち着いた仕草で頭を下げたけれど、クリスに抱かれてる俺を見て顔をしかめた。
「アキラさん…どうかされたんですか?」
「え、や」
襲われた…なんて言ったら余計な心配かけそう。
答えようがなくて「なんでもないです」って笑って見せたら、メリダさんはどこか困ったように頷いた。
お昼の時間まではまだ少しある。
クリスにおろしてもらったら、マシロが張り付いてくる。
「マシロ?」
「ぁき、め」
「ええ?」
「ぁき、ぉやすぃ、すりゅ」
ズボンから手を離して俺の手を握り直したマシロは、泣きそうな目で俺を見上げて寝室に方に引っ張っていく。
「まってマシロ、俺やることが」
「め!なの!」
うんうんってうなずいたメリダさんは、あっさりと寝室のドアを開けた。
ぐいぐい引っ張るマシロ。何も言わずについてくるクリス。メリダさんは部屋から出ていった。
「や、だから、待って、マシロ」
「めぇ、なの!あき、ぉやすぃしゅるの!」
マシロのまだ弱い手の力ならすぐに振りほどけるけど、そんなことしたくない。
なんとか足で逆らっていたのに、突然クリスが俺を抱き上げた。
「え、ちょっ」
「マシロのほうがよくわかってるようだ」
「なにが…っ」
俺がクリスに抱き上げられて強制的にベッドに運ばれてる間に、マシロはベッドに駆け寄り、よじ登って靴を脱いでいた。よいしょ、よいしょ、と、毛布をどけて眠る場所を準備してる。
「クリスっ」
ベッドに降ろされるとすぐに上着を取られた。ブーツも脱がされて、ベルトも抜かれる。シャツはボタンをいくつか外された。
「眠れ」
「や、だから」
抵抗虚しくベッドに沈められた。
枕に頭がついた瞬間、マシロが俺の腕を抱き込んで添い寝のように横に寝転んだ。
「ましろ、っしょ。あき、ぉやすぃ」
いつの間にかマシロのふわふわ尻尾が、俺の体に巻き付いてる。ふわふわでもふもふなのは嬉しいし気持ちいいけど。
「っ、なんで」
マシロがどけた毛布を俺にかけて、クリスが額にキスをした。
「今のアキには休息が必要だ」
「疲れてないっ」
「いや、疲弊してる。…だから、マシロがこんなに泣きそうな顔をしてるんだろ?」
確かにマシロは今にも泣きそうな顔をしてるけど。
「でも」
やると決めた。
だから、やることはたくさんで。
考えなきゃならないことが、たくさんで。
休んでる場合じゃない。少しでも早く、どうにかしないと。
「あき、ぃたいの」
「え?」
「ここ、ぃたいの」
マシロが自分の胸を押さえて涙をこぼす。
「マシロ…」
「マシロはお前と繋がってるから。……あんなことが起きたんだ。お前の心は疲弊してる。それをマシロが感じ取っているんだ」
必死に腕にしがみついて、尻尾まで使って俺を留めようとしてるマシロ。
心配そうに俺を見るきれいな碧色の瞳。
「焦らなくていい。慌てなくていい。不安に思うこともない。お前が一人でやらなきゃならないことじゃないんだ」
「あ…」
「お前の言葉を信じて信頼を寄せる者は大勢いる。お前を助けたい者も大勢いる。なによりこの俺が、お前の望むものを形にしてやれる。俺がお前の道を切り開いてやる」
「ましろも!ましろも、あき、だいしゅき!」
「…クリス、マシロ」
体から力が抜ける。
自分で決めたから、自分がどうにかしなきゃと思ってた。
俺は魔法師だから、魔法師として自分が全部背負わないとだめだ、って。
そんなこと無理なことはわかっていたのに、そう、思ってた。
「ごめ……なさぃ…っ」
頼っていい。クリスはしっかり受け止めてくれる。
甘えていい。マシロは小さな手で俺を抱きとめてくれる。
「……あり、がと…っ」
流れた涙はクリスの唇に拭われた。
熱くて心地のいい唇は、そのまま俺のそれに重なって、薄く開いた唇の隙間から舌を差し入れられる。
舌を重ねれば甘くて心地のいいクリスの魔力がじんわりと体にしみていく。流し込まれた唾液を飲み込めば、お腹の奥から熱くなっていく。
そうやってキスをして唇が離れたとき、俺の目尻から溜まってた涙がまた流れ落ちた。
「あき、なぃちゃ」
小さな温かい手が、涙のところをぺたぺた触る。
「うう…っ、うぃす、め!わりゅいこ!」
「なぜ」
「あき、なかしちゃ!」
「泣かせてない」
「ましろも、ちぅする!」
「えっ」
マシロが俺の頬にちゅって口を寄せてきた。それはとても優しいキスで、マシロの気持ちが伝わってくる。
「あき、らいじょぶ?」
「うん。大丈夫。マシロのお陰で元気になったよ」
「きゃあっ」
ぎゅうって抱きしめたら、いつも通りの声があがった。
クリスは息をついて俺の頭を何度も撫でる。
「ねんね、ね」
「ん」
腕の中のマシロの体温と頭を撫でるクリスの優しい手に、落ちてくる瞼に逆らわず、俺は眠りに落ちた。
*****
アキは忘れがち。
だから、クリスが思い出させるのです。
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