126 / 216
俺が魔法師である意味
24 目が覚めたら
しおりを挟む魔力が暴走するのは、魔力の制御がうまくできないから。
体の中で自分で制御できる上限を超えて魔力が溜まってしまって、制御不能になる。
意図的に魔力を高めて、自分の意志で暴走を引き起こすこともできる。…あの時の俺のように。
子供は細かいことはできない。…だから、魔水晶が必要。魔水晶は魔力を吸い取って体を正常に保つために必要な道具。
ミナちゃんもクレトも、親がそれを保管してくれていたから、なんとかなったけど。でも、もし、捨ててしまっていたら?それがどうして必要なのか、理解している人は恐らくいないから。見つかる可能性があるなら、生まれたときに破棄していてもおかしくない。
今回はなんとかなった。
けど、次は?
魔水晶だってあるとは限らない。
少しだけ、溢れる魔力を吸い出すことができた。
あれをもっと使えるようにしないと。でも、誰でも使えるものにしたら駄目だ。
魔力がなくなってしまえば命に危険があるんだから。それを悪用する人がいないとも限らない。
「お前がやりたいようにやればいいさ」
夢の中でそんな声を聴く。
誰が言ったかなんて、考えるまでもない。
それに、それは前にも言われたことがあるから。
「ただ、覚えておけ。私の力が及ばぬ物も、この世界にはある」
女神様の力が及ばないもの。
魔物……だけじゃないんだろうか。
「私がこの世界に干渉することもほとんどないが」
干渉しない…っていうのはわかる。女神様は見守りポジションってことだよね。人は人の手で歴史を作っていくから。失敗しても成功しても、それが人の選択。
人は、自分が持っていないものを持ち合わせている他人を羨んだり憎んだり、奪おうとすることが多々ある。
俺が色々な魔法を使うことで、そういうところを刺激してしまうだろう……ってことも理解してるつもり。
けど、やっぱり、助けたいと思うから、立ち止まっちゃ駄目だ。
十分気を付けるから。
ありがとう、女神様。
女神様なりに心配してくれた言葉なんだよね。
女神様は満足そうに笑っていたから、それで間違っていない。
だから、大丈夫。俺は、できる。頑張れる。
「…ん」
「あきっ」
「……マシロ?」
「あきぃ」
目を真っ赤にした――――いや、そもそも真っ赤だけど――――マシロが、ぐすぐす鼻をすすりながら俺に抱き着いてきた。
「なに、ほんとにどうしたの……って、ん?」
口の中に花びらが入ってる。
ほんのり甘いこれは、マシロのおやつになってる花びらだ。
「ぅえ、あき、ぁき」
「どうしたの」
離そうとしても離れない。
ぎゅっと抱き着いてきて、逆にしがみついてくる。
これはどういう状況…って思っていたら、部屋にクリスが戻ってきた。
「クリス」
「アキ」
俺と目が合った瞬間、クリスが纏っていた雰囲気がふわっと緩んだ。
「だるくないか?」
俺の傍に来て、額にキスを落とす。
「ん、大丈夫、なんだけど」
「倒れる前のことは覚えてる?」
「…倒れた………」
はて。
そうだったっけ。
「あね、あきね、まりょくね、ない、でね」
「魔力?」
…って聞いて、思い至った。
クレトの魔力を吸い出すのに魔力を使いすぎて、クリスもギルマスも来てくれて、クレトがもう大丈夫って聞いて、ほっとしたんだ。それからの記憶がないから、例の如く魔力不足で寝てたんだろうな。
「ごめん…また気を失ってたんだ」
「口付けだけで指先も温まっていたし、俺はそれほど心配していなかったんだがな」
手を取られて、指先にキスをされた。
…それ、なんか、ものすごく恥ずかしくなるからやめてほしいんだけど。
「マシロがな」
「マシロ?」
「アキの魔力が無くなったと泣き喚いて、少し大変だったくらいだ」
「あー…」
それでこのぐすぐすマシロってわけか。
◆side:クリストフ
「ましろ、まりょく、あげう!」
…アキを抱きかかえて、騒ぐマシロも小脇に抱えて(あまりにも騒ぐからこの形になった)部屋に戻ると、メリダが珍しく困惑した顔をしていた。
マシロが大泣きしてると情報が入っていたんだろう。城の中でもこの状態だ。…後で陛下にも呼び出されそうだ。
メリダにアキが魔力切れで寝ていること、マシロがそのことで大袈裟に泣き叫んでることを説明すると、やっと表情を和らげていた。
それからはいつも通り。
寝間着に着替えさせアキをベッドに寝かせる。
魔力補充のために抱いてしまえばいいが、まだ昼間。マシロも離れると思えない。仕方ないなと嘆息しつつ、口付けて唾液を飲ませるだけにする。それだけの魔力でも体の熱が戻ってきているから、やはりそれほど酷い状態ではない。
けれど、マシロにとってはこれは一大事らしく、ベッドに上がりアキに抱き着いて、魔力を上げると騒ぐ。
もともとアキの魔力だからそれも可能だろうが、マシロからアキに流れた分、今度はアキからマシロに流れるんじゃないだろうか。マシロの魔力が減るのだから、そういう流れになりそうだ。
「意味がない、やめておけ」
「やぁ!」
「嫌、じゃない。マシロがアキに魔力を渡しても、マシロの魔力が無くなればアキからまた流れるだろ」
「……う」
「それなら結局足りなくなるだけだ。…アキは心配いらない。眠って、魔力が少し戻ればすぐに目覚める」
「……や」
喚かないだけ幾分か静かになったマシロは、何かに気づいたように身に着けている鞄の中に手を入れた。
「ぁき、たべぅ」
そして俺が止める間もなく、小さな手に一杯一杯握りこんだ花弁を、アキの口の中に入れ始めた。
「マシロっ」
「たべぅっ」
いや、それは駄目だ。確実にアキの喉が詰まる。
「マシロ、やめろ」
「やぁ!!」
アキの口に花弁を押し込むマシロと、そのマシロを止める俺。
ばたばた暴れる幼児は案外力が強い。
結局、メリダが戻ってくるまでその攻防は続いた。
「――――まあ、そんな感じだ」
「あ、なる。だから花びらが口の中に入ってたんだ」
話を聞いたアキは、やはり可愛らしくくすくす笑う。
「マシロ、寝てる人の口に何かいれちゃ駄目だよ。息が出来なくなって死んじゃうかもしれないからね?」
「…あぃ。ごめなさぃ」
「ん、良い子だね。ありがとうね。俺の魔力が少なくなってたから心配してくれたんだよね」
「う」
「嬉しいよ、マシロ」
「う!」
泣き顔が、ようやく笑顔になったか。
*****
クリスとマシロの攻防戦。
129
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる