魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

24 目が覚めたら

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 魔力が暴走するのは、魔力の制御がうまくできないから。
 体の中で自分で制御できる上限を超えて魔力が溜まってしまって、制御不能になる。
 意図的に魔力を高めて、自分の意志で暴走を引き起こすこともできる。…あの時の俺のように。
 子供は細かいことはできない。…だから、魔水晶が必要。魔水晶は魔力を吸い取って体を正常に保つために必要な道具。
 ミナちゃんもクレトも、親がそれを保管してくれていたから、なんとかなったけど。でも、もし、捨ててしまっていたら?それがどうして必要なのか、理解している人は恐らくいないから。見つかる可能性があるなら、生まれたときに破棄していてもおかしくない。
 今回はなんとかなった。
 けど、次は?
 魔水晶だってあるとは限らない。
 少しだけ、溢れる魔力を吸い出すことができた。
 あれをもっと使えるようにしないと。でも、誰でも使えるものにしたら駄目だ。
 魔力がなくなってしまえば命に危険があるんだから。それを悪用する人がいないとも限らない。

「お前がやりたいようにやればいいさ」

 夢の中でそんな声を聴く。
 誰が言ったかなんて、考えるまでもない。
 それに、それは前にも言われたことがあるから。

「ただ、覚えておけ。私の力が及ばぬ物も、この世界にはある」

 女神様の力が及ばないもの。
 魔物……だけじゃないんだろうか。

「私がこの世界に干渉することもほとんどないが」

 干渉しない…っていうのはわかる。女神様は見守りポジションってことだよね。人は人の手で歴史を作っていくから。失敗しても成功しても、それが人の選択。
 人は、自分が持っていないものを持ち合わせている他人を羨んだり憎んだり、奪おうとすることが多々ある。
 俺が色々な魔法を使うことで、そういうところを刺激してしまうだろう……ってことも理解してるつもり。
 けど、やっぱり、助けたいと思うから、立ち止まっちゃ駄目だ。
 十分気を付けるから。
 ありがとう、女神様。
 女神様なりに心配してくれた言葉なんだよね。
 女神様は満足そうに笑っていたから、それで間違っていない。
 だから、大丈夫。俺は、できる。頑張れる。





「…ん」
「あきっ」
「……マシロ?」
「あきぃ」

 目を真っ赤にした――――いや、そもそも真っ赤だけど――――マシロが、ぐすぐす鼻をすすりながら俺に抱き着いてきた。

「なに、ほんとにどうしたの……って、ん?」

 口の中に花びらが入ってる。
 ほんのり甘いこれは、マシロのおやつになってる花びらだ。

「ぅえ、あき、ぁき」
「どうしたの」

 離そうとしても離れない。
 ぎゅっと抱き着いてきて、逆にしがみついてくる。
 これはどういう状況…って思っていたら、部屋にクリスが戻ってきた。

「クリス」
「アキ」

 俺と目が合った瞬間、クリスが纏っていた雰囲気がふわっと緩んだ。

「だるくないか?」

 俺の傍に来て、額にキスを落とす。

「ん、大丈夫、なんだけど」
「倒れる前のことは覚えてる?」
「…倒れた………」

 はて。
 そうだったっけ。

「あね、あきね、まりょくね、ない、でね」
「魔力?」

 …って聞いて、思い至った。
 クレトの魔力を吸い出すのに魔力を使いすぎて、クリスもギルマスも来てくれて、クレトがもう大丈夫って聞いて、ほっとしたんだ。それからの記憶がないから、例の如く魔力不足で寝てたんだろうな。

「ごめん…また気を失ってたんだ」
「口付けだけで指先も温まっていたし、俺はそれほど心配していなかったんだがな」

 手を取られて、指先にキスをされた。
 …それ、なんか、ものすごく恥ずかしくなるからやめてほしいんだけど。

「マシロがな」
「マシロ?」
「アキの魔力が無くなったと泣き喚いて、少し大変だったくらいだ」
「あー…」

 それでこのぐすぐすマシロってわけか。
 





◆side:クリストフ

「ましろ、まりょく、あげう!」

 …アキを抱きかかえて、騒ぐマシロも小脇に抱えて(あまりにも騒ぐからこの形になった)部屋に戻ると、メリダが珍しく困惑した顔をしていた。
 マシロが大泣きしてると情報が入っていたんだろう。城の中でもこの状態だ。…後で陛下にも呼び出されそうだ。
 メリダにアキが魔力切れで寝ていること、マシロがそのことで大袈裟に泣き叫んでることを説明すると、やっと表情を和らげていた。
 それからはいつも通り。
 寝間着に着替えさせアキをベッドに寝かせる。
 魔力補充のために抱いてしまえばいいが、まだ昼間。マシロも離れると思えない。仕方ないなと嘆息しつつ、口付けて唾液を飲ませるだけにする。それだけの魔力でも体の熱が戻ってきているから、やはりそれほど酷い状態ではない。
 けれど、マシロにとってはこれは一大事らしく、ベッドに上がりアキに抱き着いて、魔力を上げると騒ぐ。
 もともとアキの魔力だからそれも可能だろうが、マシロからアキに流れた分、今度はアキからマシロに流れるんじゃないだろうか。マシロの魔力が減るのだから、そういう流れになりそうだ。

「意味がない、やめておけ」
「やぁ!」
「嫌、じゃない。マシロがアキに魔力を渡しても、マシロの魔力が無くなればアキからまた流れるだろ」
「……う」
「それなら結局足りなくなるだけだ。…アキは心配いらない。眠って、魔力が少し戻ればすぐに目覚める」
「……や」

 喚かないだけ幾分か静かになったマシロは、何かに気づいたように身に着けている鞄の中に手を入れた。

「ぁき、たべぅ」

 そして俺が止める間もなく、小さな手に一杯一杯握りこんだ花弁を、アキの口の中に入れ始めた。

「マシロっ」
「たべぅっ」

 いや、それは駄目だ。確実にアキの喉が詰まる。

「マシロ、やめろ」
「やぁ!!」

 アキの口に花弁を押し込むマシロと、そのマシロを止める俺。
 ばたばた暴れる幼児は案外力が強い。
 結局、メリダが戻ってくるまでその攻防は続いた。







「――――まあ、そんな感じだ」
「あ、なる。だから花びらが口の中に入ってたんだ」

 話を聞いたアキは、やはり可愛らしくくすくす笑う。

「マシロ、寝てる人の口に何かいれちゃ駄目だよ。息が出来なくなって死んじゃうかもしれないからね?」
「…あぃ。ごめなさぃ」
「ん、良い子だね。ありがとうね。俺の魔力が少なくなってたから心配してくれたんだよね」
「う」
「嬉しいよ、マシロ」
「う!」

 泣き顔が、ようやく笑顔になったか。









*****
クリスとマシロの攻防戦。
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