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俺が魔法師である意味
20 魔力制御の練習をしています
しおりを挟むエーデル領から戻ってきて数日。
俺はいつも通りの日常を過ごしていた。
その日はクリス隊の訓練日で、昼前から訓練場にいた。もちろんマシロも。訓練日は魔法の練習日でもあるから。
「じゃ、マシロ、この中にお水を出そうか」
「あい!」
カキン、ガキンって金属音が響く中、俺はマシロと芝生の上に座り込んでる。
俺たちの前には大き目の器が置かれていて、マシロはその器に両手をかざして顔を真っ赤にさせていた。
「おみじゅ~おみじゅ~」
考えなく転移とかしちゃうマシロだけど、考えると難しいのか、魔法を思うように扱えない。
気を抜くと笑ってしまいそうな可愛い呪文を唱えながら、器に集中してるマシロ。
「うにゅぅ」
ポンっと耳と尻尾が出て、ようやくマシロの片手で掬えるくらいの量の水が器の底に湧いた。
「はう。おみじゅ!でた!」
「うん、成功したね」
「うきゃ」
「でも尻尾と耳はしまおうか」
「はわ」
マシロは慌てて頭に手を伸ばした。
「……め、しゅる?」
「しないよ」
苦笑しながら言ったら、マシロはぱっと顔を綻ばせて、俺の足の上に座ってきた。もう耳も尻尾も出てない。
多分、魔力制御ができてないからだと思うんだよね。集中の向け方、なんだろう。
「じゃ、次ね。お水を浮かせてみようか」
「おみじゅ、うく?」
「ん、こんな感じ?」
指先に魔力を溜める。
そこから小さく水の塊を出して、指先より少し上に浮かぶように魔力を調整する。
「はわぁ」
「上手にできたらね、こんなこともできるよ」
指をクイッと動かして、水の塊を動かす。
小さな水の塊は、ふよふよと動いて行って、クリス隊のみんなに指示を出してるクリスに近づいた。
「はわ、ういす」
「しー」
「はむ」
口を両手で抑えたマシロは、ワクワクした目でその水の塊を見ていた。
いたずらが成功するのかしないのか、むしろ成功するほうが楽しそうだという目。
もう少しでクリスの背にあたる…ってところで、不敵な笑みを浮かべたクリスが振り向いて、その水の塊を手で受け止めた。
「あー」
「気づかれちゃったね」
「うんむぅ」
いたずら失敗だぁってマシロと二人、それでもくすくす笑ってたら、いつの間にかクリスは俺たちの方に歩いて来てた。
「アキ、マシロ」
クリスは怒ってはいない。しょうがないな、って顔で俺とマシロの頭を撫でた。
「魔法でいたずらでも教えるつもりか?」
「いたずらじゃないよ?ほら、これも魔力制御でしょ?」
「どう見てもいたずらだろ」
笑ったクリスが俺の口にキスをした。ぺろりと舐められた唇が、じんわりと熱を持つ。
「マシロも。いたずらは覚えるなよ?」
「あぃ!」
いいお返事をしたマシロの頬にクリスがキスをした……のだけど。
「きゃあ!」
ってマシロが大喜びした途端、少し離れたところで戦斧を構えていたアルフィオさんの頭上に、ざばーっと大量の水が降り注いだ。
「うわぁ!?」
「ええ!?」
「うきゃっ」
アルフィオさんの叫び声と、他の隊員さんからの驚きの声、そこにマシロの楽しそうな声が重なった。
「あーぅ、びちょびちょ」
「えー……マシロ殿、これはないですよ……」
「うふ」
わざとやったわけじゃないことはわかってるけど、今練習してた水の魔法がマシロが大喜びしたことで発動しちゃったっていうこともわかってるけど、それがアルフィオさんに降り注ぐとか。
……マシロ、ものすごく無邪気に喜んでるけど、もしかして、根っこではアルフィオさんのこと許してないのかなぁ?
クリスは特に何も言うことなく、アルフィオさんとエアハルトさんを呼んで、改めて俺の額にキスをして入れ替わるように戻って行った。
訓練場の一部が水浸しだけど、まあ、訓練に支障はないということらしい。
「酷いです……マシロ殿。慰めてください……エアハルト殿……」
「なんで私が……」
「そりゃもちろん、俺の番ですから!」
「………」
ずぶ濡れのままじゃ流石に申し訳ないなと思い、全身にドライヤーをかけるイメージで風と火の魔法を使ってみた。
「おお」
「これは」
「はわ、はわ」
………ちょっとアルフィオさんの毛先が焦げた気もするけど、許して。気づいてないようだけど。
「なんとか…乾いた?」
「ええ。ほぼ乾きました。やはり魔力制御に長けていらっしゃる」
「アキラ様、このような高度な魔法、いつ習得されたのですか……!!やはり、やはり、アキラ様は素晴らしいお方です……!!」
「や、エアハルトさん、うるさいっ。別に。ドライヤーの応用だし」
「「どらいやー?」」
二人の疑問には特に答えず、キラキラした目で俺を見てくるマシロの頭を撫でた。
「あき、しゅんごぃ!」
「そう?」
「う!う!」
「そっかぁ、マシロに褒められると嬉しいな」
コクコクと頭を上下に何度も振るマシロを、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
アルフィオさんとエアハルトさんに褒められても嬉しさはそんなになかったのに、マシロに褒められると滅茶苦茶嬉しい。これが娘効果かな。
ひとしきりマシロをぎゅうぎゅう抱きしめてから、息を整えて姿勢も正した。
「さてと。じゃあ、制御の練習を再開しよっか」
「あい!」
「エアハルトさんがいるし、土いじりがいいかな。…エアハルトさん、土で何か動物の形とか作れます?」
「アキラ様のお申し付けとあらば!」
「じゃ、小さいのでいいので――――」
と言いかけたとき。
膨れ上がった魔力を感じた。
「っ」
「あき?」
「アキラ殿?」
「アキラ様?」
マシロを膝からおろして立ち上がり、王都を覆うように魔力を広げる。
その俺の魔力に干渉してくる別の魔力に気づいたけど、咎めてる場合じゃないし、気にしてる場合でもない。
小さな魔力や少しだけ大きな魔力を感じながら、目的のそれを捉えた。
「……っ」
今にも弾けそうな魔力。
「アキっ」
クリスの声が聞こえたけど、腕が伸ばされたけど、それよりはやく俺は跳んでいた。
*****
マシロハイタズラヲオボエタ。
水の塊はマシロの握りこぶし一個分くらいの大きさです。
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