121 / 216
俺が魔法師である意味
19 お土産は
しおりを挟むエーデル伯爵領を三日目の朝食後に出た。
エーデル伯爵家の人たち(リアさんとミナちゃん以外)にはマシロが人じゃないことはバレていないので、お屋敷を出るときにはマシロはしっかりと幼児姿で、リアさんが着付けてくれた服の上から外套も着込んでいた。
それから、初めてできた友達であるミナちゃんと涙の別れ…かと思いきや、二人とも笑顔でキラキラしてた。幼児のお別れってこんなかんじなのか?
お土産というかプレゼントというか、リアさんがお揃いのぬいぐるみを用意してくれていた。耳が垂れ下がったもふもふうさぎ。なんて言うんだっけ?
それを抱っこしたまま、来たとき同様ザイルさんと馬に乗るマシロ。
手を振って、お別れは終わった。
そのぬいぐるみはマシロの『大事なもの』の一つになったらしく、手に持てないときはマシロバッグの中に収めている。
お城までの帰り道、野営はやっぱりオットーさんの村跡で、マシロが一生懸命花を摘んでた。
実は残りの殆どの花をリアさんに渡したらしい。だからあのとき微妙な顔をしたのか…ってあとからわかって笑ってしまった。
自分の大事なもの(おやつ)が減っても、友達の役に立ちたかったんだなぁってほっこりもした。
そうして特に問題もなくその翌日にはお城に帰り着いたわけだけど。
「ありえないでしょ」
って、お兄さんからの苦笑を頂いてしまった。
そりゃ予定の半分も使ってないからね…。今頃エーデル領に到着しててもおかしくないくらいだし。
「使えるものは使ったほうがいい」
クリスの主張に、お兄さんは笑ってるだけ。
使えるもの……、うん、そうだね。アルフィオさんは頑張った。途中、かなり疲弊したらしい。マシロがアルフィオさんの口の中に花びらを押し込めてたくらいだ。
部屋に戻るとメリダさんがきてくれた。
お茶を用意してくれて、子猫から幼児になったマシロに服を着せてくれる。
その間にクリスはお土産の準備をしてくれた。今回のお土産は特別だから。
「ばぁば、ましろね、これ、もらった」
「あらあら」
マシロはバッグからうさぎぬいぐるみを取り出して、メリダさんに見せる。
「あね、みぃと、っしょなの」
「みい?」
「リアさんの妹さんのミナちゃん。メリダさん、覚えてる?」
「ええ、ええ。もちろん覚えてますとも。そうですか。マシロちゃん、ミナちゃんとお友達になったのね」
「う!」
「よかったわね」
孫に友達ができたことを喜ぶおばあちゃん。正にそんな感じ。
「あとね」
「ええ」
マシロが身振り手振り話してる間に、クリスが戻ってきた。準備が終わったらしい。
「ティーナさん、体調とかどうだろ」
「問題なさそうだ」
「そっか。メリダさんも一緒に行こう」
「あら」
「ばぁば、っしょ!」
マシロがメリダさんの手を握る。
そして俺たち四人は、クリスが準備した部屋に向かった。
「うさ、うさ」
楽しそうな声に、すれ違う人の視線がマシロに注がれる。嫌な感じはしない。むしろ好意的な笑い声が聞こえてくる。うん、マシロは嫌われてない。よかった。
俺は、ティーナさんとメリダさんにお土産を渡せればそれでいいと思ってたんだけど、案内された部屋に入ると、お兄さんと、何故か陛下と宰相さんがいて凍りついた。
「陛下」
メリダさんはすぐに礼を取る。
俺もあたふたと礼をしようとしたとき、「そのままでいい」って声がかかって頭を上げた。
「マシロ、こっちへおいで」
「じぃじ!」
ぬいぐるみを抱えて走るマシロを、陛下が抱き上げた。
「きゃあ!」
「随分可愛いものを持ってるな」
「あね、みぃと、っしょなの!」
「そうかそうか。よかったな」
あ、陛下の顔が溶けた。
すぐそばの宰相さんも、手がわきわきしてる。あれは抱っこしたい手だ。
「……父上、少しは落ち着いてください」
呆れ声のお兄さん。
「お父様も……お席についてくださいな」
笑い声のティーナさん。
ふふ。
なんか、いい雰囲気だ。
今回のお土産は、リアさん特製の昆布出汁スープ。
本当なら食べ物は問題があるけど、今回はあっさり許された。俺たちが運んできてるっていうことと、リアさんに対する信頼の現れだよね。
クリスがポーチの中から鍋を取り出すと、メリダさん以外みんなが驚いた顔をした。
「収納魔法…?……アキラか。そうか」
お兄さんは苦笑しながら頷いた。
人が増えて量が足りるかな…って思ったけど、鍋の中にはたっぷりとスープも小さいはんぺんも入っていて、しかも熱々。
必要なものはクリスが用意してくれていたから、盛り付けて、配膳。
広い部屋ではなくて、丸テーブルが二つ。
人払いをしてるらしくて、侍女さんもいなくて、メリダさんが手伝ってくれた。
「マシロはふうふうして食べてね」
「あぃ!」
配膳が終わってみんなが席について、どうぞ、って声をかけると、マシロから「いたきます!」って声があがった。
「おいち」
いち早く食べたマシロが、幸せそうな顔をする。
それを見ていた陛下が、はんぺんを口にした。
「……ほう」
この『ほう』は悪くないやつ。
「これは食べたことがないものだが美味いな」
「ぅんまぃな!」
ああ…また真似した。
マシロ楽しそうだし、みんなも笑ってるけどさ。
昆布出汁スープとはんぺんは好評だった。
味付けも濃くなくて、ティーナさんにも問題なさそう。
今度リアさんに手紙だそう。
料理長さんに、リアさんからの手紙と昆布を渡した。
陛下方から「美味しい」とお墨付きをもらった優しい味の昆布出汁スープは、他の人にも好評で、すぐに昆布は使い切ってしまったらしい。
リシャル産昆布がはやく届くといいなぁ。
*****
帰城したのでそろそろ前に進みます(笑)
応援ありがとうございます!
45
お気に入りに追加
2,206
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる