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俺が魔法師である意味

14 露天風呂で

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 見上げたら星空が広がってた。
 手を伸ばしたら届きそうなほど近くに見える。

「どうした?」

 俺を後ろから抱え込むように座っていたクリスが、俺の頬をくすぐるように撫でていく。

「熱いか?」
「んーん。星…綺麗だなぁと思って」

 ランタンの明かりはかなり落としているから、夜空の邪魔にはならない。

「…寂しいのかな」
「俺がいるのに?」
「んー、クリスは別。絶対俺の傍にいるんだし」

 夜空に向けてあげていた腕を下ろした。
 パシャンってお湯が鳴る。

 エーデル伯爵家の露天風呂。
 ここは変わらず居心地がよくて気持ちがいい。

「アキ」

 後ろ向きだったのに、向かい合うように体勢を変えられた。

「クリス」

 クリスの裸の胸に手を置いた。上半身はしっとり濡れている。
 お湯に浸かってるのは下半身だけだけど、寒くはない。下が熱くて上が涼しい、これぞ露天風呂!って感じ。
 クリスの手が俺の背中を滑る。
 それを感じながら、俺もクリスの首に腕を回して体を近づける。

「ん」

 緩く頭をもたげてる俺とクリスのそれが触れ合った。僅かに腰を揺らしてしまうのは許してほしい。
 はふ…って息をつきながら、クリスの唇を舐めた。

「ん、ん」

 離したら、舌先を舐められた。
 ピチャピチャって、お互いの舌を舐めあう。
 甘い。
 甘くて、とろとろ。

「ん…、腰、ゆらさないで」
「揺らしてるのはアキだろ」

 くく…ってクリスが意地悪く笑う。
 ううう。
 言い返せない。

「も……っ、だって、きもち、い」
「部屋に戻ってもマシロはいないな」
「…そんな楽しそうに言わないでよ…っ」
「楽しいだろ?…昨夜はお前を抱けなかったんだから」
「……っ、そんな、毎日しなくても……」
「毎日でも足りないくらいだ」

 ……毎日で足りないって、何をしたら足りるんでしょうか。毎日に+αなんてないと思うんだけど。
 でも、うまい反論が口をついてでてこないってことは、俺もそう思ってるってことなんだろうか。全然反感が出てこない。なんか、「そうなのか」って納得してしまいそうになるくらい。

「マシロは親離れするのが丁度いい」
「親離れ……って、さすがにまだはやいでしょ……」

 ちゅ…って、キスをする。
 話をそらしたいとかじゃなくて、したかったから、する。

「…マシロ、良い子でいるかな」
「問題ないだろ」
「ん…」

 マシロはずっとミナちゃんと過ごしていた。
 はじめてできた友達が相当嬉しかったようで、夕食後も二人一緒だった。ミナちゃんは小脇に白い猫のぬいぐるみを抱えていた。
 お風呂入って寝る支度しようね……って言ったところで、マシロが「みぃとぉやすぃしてい?」って聞いてきた。
 慣れてるメリダさんならともかく、周りに注意を向けることもまだわかってないマシロをミナちゃんと二人だけにさせる…っていうのは、かなり不安で即答できなかった。
 けど、すぐにリアさんが、「私も一緒にいるから大丈夫よ」って言ってくれたので、任せることにしちゃったんだ。

「マシロ、すぐに大人になっちゃうのかな」
「大人になればいい。俺がアキを抱きしめる時間が増えるだけだ」
「なにそれ」
「アキが足りない」

 肩口にクリスが顔をうずめて、そこを強く吸ってきた。
 ちりっとした痛みと熱が走る。

「クリス…のぼせる」
「部屋に戻るか」
「ん」

 吸われたところを舐められて、ジン…とした熱が腰にたまっていくのを自覚する。
 逞しい腕が俺を抱いたまま、クリスは立ち上がる。
 薄暗い中でも、足取りに不安はない。
 脱衣所に戻ってからタオルで体を拭かれ、ソファに座らされた。

「…露天風呂はこれだけが面倒だな」
「なに…?」

 ソファに座ってると体を拭くクリスがよく見える。
 直角くらいに勃ちあがったそこを隠すことがないから、俺はつい視線を下にむけた。

「風呂から出てもすぐベッドに行けない」
「っ」
「一々服を着るのは面倒だ」

 露天風呂から俺達の部屋はそれほど離れてはいないけど、それだって廊下に出れば絶対に誰かはいる。それは、護衛の私兵さんだったり、お世話係の侍女さんだったりするけど、裸同然の格好で外に出るのは無理だ。

「部屋のお風呂でもよかったけど…」
「アキは露天風呂を気に入っているだろ?」
「うん」
「それなら露天風呂を選択する」

 なんでも俺を優先してくれるクリス。
 湯上りの熱が少しとれた俺に、ポーチの中からクリス服を取り出してそれだけを着せた。

「行くか」
「え」

 クリスは、ズボンと、シャツを羽織っただけ。
 俺は、クリス服だけ。
 ひょいっと抱き上げられて、思わず裾を伸ばした。こんなときに限って少し短いんですけどっ。
 抱き上げられてる姿だから、クリスのも俺のも、反応見せてることが目立たない。それだけは救いだったけど、あの下着すらつけてないこの状況は、なんとも言えず羞恥心を煽ってくる。
 幸い、廊下にはそれほど人はいなかったけど、それでも恥ずかしもんは恥ずかしい。
 目を閉じて恥ずかしさをやり過ごす。
 他のことを考えよう。
 湯上りの着替え。
 うん。俺も普通なら面倒だと思う。銭湯ならともかく、温泉なら、やっぱり楽な格好がいい。

「あ」

 なるほど。
 浴衣がいい。
 リアさんに提案してみよう。
 うっかり忘れてるかもしれないから。
 きっとリアさんなら、浴衣っぽいもの作ってくれるはず。
 浴衣なら……今より恥ずかしくないかも。
 いいな。
 クリスと二人で浴衣を着て歩いてみたい。

 そんなことを考えていたら、部屋にはあっという間についた。










*****
アキの中でリアさんは何でもできる人になっている
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