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俺が魔法師である意味

12 マシロとミナちゃん

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「あね、ういす」
「ん?」
「ましろね、みぃとね、ぉともらち」
「ああ、よかったな」

 部屋の中の惨状に苦笑したクリスだけど、それも一瞬だった。
 スケッチの手を止めたリアさんがクリスにお茶を出して、俺もクリスの隣でお茶を飲んでると、マシロがミナちゃんと手を繋いでクリスの前に来て、お友達自慢した。
 クリスが笑顔でマシロの頭を撫でると、マシロは「うひゃ」って喜んでまたラグの真ん中に戻って行った。
 ぬいぐるみを抱きしめて、腕をバタバタさせて遊ぶ。

「ましろ、にゃー」

 ミナちゃんが手にしたのは、ふわふわの白い猫のぬいぐるみ。

「ましろ!」
「ましろ?」

 うん。ましろみたい。
 リアさんを見たら「ふふ」って笑ったから、マシロ似のぬいぐるみを買ったってことかな。

「ましろ、ちがう。にゃー」

 ミナちゃんがふりふりと頭を振ったけど、マシロはきょとんと首を傾げる。それから、ぬいぐるみを指さして、「ましろ」と言ってから、自分のことも指をさす。
 それ、自分に似てるねーって言いたいんだろうけど、ミナちゃんには通じないよね。
 微笑ましいなぁ……って、俺の顔がニヤけてるのは自覚してたけど、まさかな展開になって笑顔が張り付いたような気がする。

「ましろ!」

 主張したマシロが、耳と尻尾を出したんだよね。尻尾が一本なのはマシロなりの配慮なんだろうか。

「ふわ!!」
「おなじ!」
「ちょ…マシロっ」

 おなじ!じゃ、ないよ!!
 ミナちゃん驚いて泣き出すかも……ってあたふたしたら、目をキラキラさせて耳と尻尾を触ってる。

「にゃー!!」
「うにゃ」

 開いた口が塞がらない。……や、もう閉じた。え、どうしよう。ちょっとしたパニックになってるんだけど。

「マシロ」
「はぅ?」

 俺が頭をぐるぐるさせていたら、クリスが硬い声音でマシロを呼んだ。
 マシロもその険を含む声音にびくりと肩を震わせてクリスを見た。

「何故耳と尻尾を出した?」

 クリスが背後に『ずももももも』みたいな音を背負ってる。足を組んで、両手を足の上において、マシロを見下ろす姿は、さしずめ魔王様だ。

「ぴっ」

 怯えたマシロ。耳と尻尾が小刻みに震えていて怯え具合がよくわかる。

「人前では隠す約束だろ?」
「あぃ……」

 ぐすぐす泣き始めたマシロの耳と尻尾が消えると、リアさんから「あああ!!」って声があがった。

「ちょっと、殿下っ」

 ……リアさんの遠慮のなさが顕著になってきた。

「なんでマシロちゃんを怒るんですか!」
「人じゃないと知られて困るのはマシロ自身だ」
「だったら最初から私にも隠し通してくださいよ。知る人が少ないほうが秘密が漏れることはないでしょう。同じ名前だからバレるって言うなら、名前を変えれば済むことです!」
「………」

 リアさんの主張に俺とクリスは思わず顔を見合わせていた。
 名前を変えるっていうのは全く考えてなかった。
 それに、マシロが子猫じゃないってバレた経緯がだからなぁ。

「あー……」
「マシロちゃん可愛いし、可愛いし!!耳や尻尾まで出せるなんて、可愛いしかないのに!!」

 可愛いのは同意する。耳と尻尾の付いた幼児マシロは、絶対に可愛い。

「初めてできたお友達の前ではしゃいじゃうなんてこと、当たり前にあることです!うちのミナは大事なことを人に言いふらしたりしません!マシロちゃんが大好きです!!」

 久しぶりのリアさん節。『好き』な物に対する熱意が激しすぎる。
 なので、俺は剣幕に圧されて、クリスは苦笑しながら、リアさんの主張を聞いていた。

「こんっっなに可愛いのに、スケッチは追いつかなかったし、怒られて耳も尻尾も震わすのも可愛い………もとい、可哀想です。可哀想過ぎます!」

 うん。
 可愛いよね。
 マシロには悪いけど、怒られてしょぼんとしてる耳と尻尾つき幼児は可愛いんだよ……。
 同意するのも否定するのもなんだかなぁ、な状況の中で、ミナちゃんがマシロの腕をギュッと掴んだ。

「ましろ、にゃーなの、すき!」
「はわ」
「だめ?」
「みぃ」

 ぶわりと、ミナちゃんから魔力の揺らぎが起きた。
 リアさんは気づいてないみたいだけど、クリスには感じ取れたようで腰を浮かす。そして、魔力の高まりに気づいたマシロが、不安そうにミナちゃんの手をギュッと握った。

「ミナちゃん」

 暴走の一歩手前、というところかな。引き金はなんだろう。目の前でマシロが怒られたから?大興奮のリアさんの言葉を理解しきれなくて怒られてると感じたから?
 頭をポンポンと撫で、背中をさする。
 目に溜まった涙が引っ込んだマシロが、すがるように俺を見た。

「大丈夫だよ、マシロ」
「あき」
「大丈夫」

 マシロの頭も撫でる。

「クリスもリアさんも、ちょっと黙ってて」

 何かを言いそうになってた二人が頷いてくれた。
 ミナちゃんに改めて向き合って手を握ると、その手がかなり熱くなってる。
 は、は、って、息も少し早い。

「大丈夫だよ。ゆっくり息して」

 その間に首にかかってた鎖を取り出して、黄色みがかった魔水晶をミナちゃんの手に握らせた。



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