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俺が魔法師である意味

10 鉄板、王道と言われても……

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「本来なら絶対ありえないの。本当にありえないの!」
「……ごもっともで……」

 怒ってる。
 リアさんが怒ってる。
 けど、膝の上にマシロを抱いていて、顔はとっても緩んでる。

「ありえないのよ、本当に!はぁっ!!ほんっとうにマシロ可愛すぎる!!!」
「きゃあ」

 ぎゅむぎゅむ抱きしめられて、マシロ、大はしゃぎ……。






 俺達がエーデル伯爵邸に到着すると、全く時間がなかったにも関わらず、完璧な笑顔のリアさんと汗をかいてる伯爵さんと、顔色を変えない使用人の皆様方が出迎えに勢ぞろいしていた。

「伯爵、突然で申し訳ない。数日世話になる」
「いえ、とんでもございません、殿下!来訪心より嬉しく思います!!」

 伯爵さん、カチコチだ。
 全員その場で下馬し、ヴェルはディックさんが手綱を持ってくれた。
 マシロはザイルさんと手を繋いだままだ。
 伯爵さんと挨拶を交わし、それからリアさんに視線を移すと、とてもニコニコと笑ってる。
 リアさんは一つも動じてない感じで、伯爵さんより堂々としてるように見えるのは何故だ。

「お久しぶりでございます、殿下、アキラ様。また皆様をお迎えできたこと、心より嬉しく思います」

 余裕のカーテシー。
 しっかりとした外向けの挨拶。

「ああ、また頼む」
「はい。しっかりおもてなしさせていただきます」

 顔をあげたリアさん。
 その目がマシロに釘付けになる。

「あ、そうだ。マシロ、おいで」
「…マシロ?」
「あーぃ」

 ザイルさんの手を離して、俺達のところに歩いてくるマシロ。

「マシロ、わかるよね。リアさんにご挨拶して」
「あい」

 マシロは一生懸命白いスカートを持ち上げて、ぷるぷると腰を折った。

「ましろでしゅ。ぉえがぃ、しましゅ」
「俺たちの養女だ」

 挨拶を終えたマシロを抱き上げて、クリスが簡潔に説明した。

「数日後にでも知らせがくるだろう」
「それはおめでとうございます、殿下!」

 伯爵さんは普通にお祝いの言葉を言ってくれたけど、リアさんは少しの間固まってた。

「……では、お部屋にご案内いたしますので」

 固まり時間から動き出したリアさんは、ぎこちない笑顔を見せながらも部屋への案内をしてくれた。
 部屋は前と同じ場所。
 俺達が部屋に入ると、リアさんは「お茶の用意をします」と、一旦部屋を出ていった。

「リアさんがリアさんぽくない」
「問題ないだろ。すぐいつもの調子に戻る」

 クリスはマシロをソファに降ろし、クリスポーチを外してテーブルに置いた。

「りー、ましろ、ぃらい?」
「そんなことないよ」

 お城にいる間、マシロはリアさんにも可愛がられていたから、今のリアさんを見て少しショックを受けたのかな。

「らって」
「平気平気」
「んと?」
「ほんと」

 背中をぽんぽん叩けば少し落ち着いたマシロ。
 リアさんの中では子猫のマシロだからなぁ。同じ名前で気づいただろうけど……、嫌がったりはしないはず。リアさんは俺との人だから。

「アキ、少し出てくるから」
「あ、うん」

 クリスが俺の額にキスをする。

「マシロ、アキのことを困らせるなよ」

 それから、マシロの頬にもキスをする。

「うきゃ!」

 キスをするのもされるのも大好きなマシロ。
 当然、クリスの頬にもちゅっとキスをして、ジタバタと全身を使って大喜びだ。

「ましろね、いいこ!」
「ああ」

 最後に頭を撫でて笑うクリス。
 ……お父さん、だな。

 クリスが部屋を出てから、マシロはバッグの中からお菓子の袋を取り出して、一つを摘み上げて俺の口に押し当ててきた。

「あー」
「ん」

 はむっと食べれば喜ぶマシロ。
 俺が食べるのを見てから、自分の口にも運ぶ。
 そうやって二人で過ごしていたら、ドアにノックの音。
 はい、と答えれば、案の定のリアさんがワゴンを押して入ってきた。

「りー」

 マシロはすぐにとことこ歩いてリアさんのところに向かう。

「りー、ましろ」
「………マシロちゃん」
「あい!」

 元気に返事をしたマシロを、リアさんはいきなり抱きしめた。

「うひゃ!」
「なんで、なんで、なんでこんなに可愛い子になってるの!?養女?養女ってなに?マシロちゃん、なんでこんなに可愛い女の子になってるの!?」
「きゃあ」

 あはは。
 やっぱり何も心配しなくてよかった。
 リアさん、激しくほおずりしてるよ……。





 そうして少し復活したリアさんがお茶をいれてくれて、お互いにソファに落ち着いて、冒頭に戻る。

「王族を出迎えるのに、『まもなく到着します』って言われたら、普通はみんな倒れるわよ、てんてこ舞いよ!」

 …てんてこ舞い、久しぶりにきいたわ。

「貴族同士だって先触れも出さないで訪問するだけで失礼になるのに、それが王族…王族っ」
「うん。なんかごめん…。でも、ここに来るって決めたの一昨日で…」
「え?」
「一昨日にそういえば旅行のお土産まだ渡してないって気づいて、じゃあエーデル領に行こうか、ってなって」
「ちょっと待って」
「ん?」

 マシロを膝の上に座り直させたリアさんが、すごく真剣な顔で俺を見てきた。

「一昨日に決めて、どうして今日ここにいるの?」
「ん?」
「こんなに早く到着できるわけないわ」
「ああ」

 リアさんが驚くのは無理ない。
 リアさんにならいいかな……と、旅行中にアルフィオさんに攫われたこととか、マシロが人化した経緯とか、俺がちょっとの間記憶喪失になってたとか、マシロが養女になったこととか、もう全部話した。

「……なんてこと」
「だから、かなりショートカットできて」
「私が近くにいない間にどうしてそんなおいしいことばかりしてるの!?」
「う、え!?」
「オメガバースではないにしろ、それにしたって子育てBLが始まったのでしょう!?しかも記憶喪失!!鉄板!!鉄板でしょ!?記憶をなくしたけど、同じ人に二度恋をした――――なんて、鉄板中の鉄板、王道中の王道でしょ!!!」
「う、うん…?」
「ああ…もう!!なんで私、新婚旅行についていかなかったのかしら……!!」

 いや、ついてくるのは無理でしょ?ね?
 でもリアさんならできてしまいそうだから怖い。










*****
リアさん通常運転(笑)
すごいまったり進んでるので、この章長くなる予感しかないです…。
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