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俺が魔法師である意味

9 エーデル領に到着……はやっ

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 エーデル伯爵家にお茶の時間までに到着できるように、クリスたちは綿密な計画を立てたらしい。
 二、三日かかる行程を一日かけずに行こうと言うんだから、アルフィオさん使いが荒いよね…と思ってしまうのは仕方ない。
 エーデル領に入ってしまえばそれほど時間はかからない。

 マシロは出発前、笑顔で花を摘んではバッグの中に入れていた。そんなにたくさん入れてどうするの…って言いたくなるくらい入れてた。
 天幕も回収して片付けをして、出発前、全員が石碑の前で祈りの姿勢を取った。
 最後にクリスがこの地を浄化する。

『――――奇跡の花がこの地を覆い続けるよう願います』

 さわさわと、風が抜ける。
 浄化の光は花の上に舞い落ちる。

「きらきら!」

 舞う光の中で、マシロもくるくる回り始める。
 マシロの動きに合わせるように、また光が舞った。

「…女神様の加護の力ってさ」
「ん?」
「マシロにも何か影響するのかな」

 俺の傍に戻ってきたクリスは、マシロの様子を眺めながら「そうかもな」って小さく呟いた。

「聖獣は女神の眷属だと言われている」
「眷属?」
「女神がこの大地に降り立ったときに付き従った獣だな」
「魔物とは対極だね」
「ああ。……真偽の程はわからないが、少なくとも経典の中にはそう書かれているんだ」

 経典…一度読んでみたい。
 それとも、女神様に直接聞いたらいいんだろうか。

「アルフィオの話が真実であれば、マシロは精霊と聖獣の子なのだろう。…女神の御力に共鳴することも納得できる」
「……それって」

 うちの子、魔法だけじゃなくて、精霊魔法も神聖魔法も使えるハイブリッドな子ってことになりませんか。

「……すごく今更なんだけどさ、クリス」
「どうした?」
「……マシロが俺達のところに来てくれてよかった……ね?」
「ん?」
「だって、もうちょっとマシロが成長していたら、陛下にむけられていた攻撃を俺達は防げなかったかもしれない」
「……確かに」

 幼くて、弱っていて、自分が何かもわかっていなかったと思う小さな小さな子猫だったマシロ。
 俺が普通の子猫だって思うくらい、魔力の欠片も感じなかったマシロ。
 でも今は、しっかり魔力を感じる。

「あき!ういす!」

 満面の笑顔で俺達にむかってかけてきて抱き着いてくる。

「ましろ、ね、きらきらした!」
「そうだね」

 抱き上げたら嬉しそうに顔をよせてくる。
 こんなに可愛い子が、復讐の道具にならなくて本当によかった。

「マシロ、大好きだよ」
「ましろもしゅき!」

 幼児なマシロの頬はとてもぷにぷにしてる。あの弱弱しかったマシロはもういない。

「マシロ、そろそろ出発だ」
「あぃ!」

 マシロがいそいそとクリスに自分のバッグを手渡した。
 俺から降りると、その場に座り込んで靴下と靴を「うんしょ」と言いながら脱ぎ始める。
 ……可愛すぎるんだけど。子供ってこんなに可愛いものだったっけ?

「こえも」
「ああ」

 やっと脱いだそれをまたクリスに渡して、マシロは俺に抱き着いた。
 そのマシロを改めて抱き上げたら、腕からすっと重みが消えて、胸元に真っ白な子猫がしがみついている。
 子猫に戻ったマシロごとマントにくるまると、胸元の合わせからひょこっと頭をだしてきた。

 俺は先にヴェルに乗る。
 クリスは俺を見届けてから後ろに乗る。
 すぐにお腹に回される腕にほっとしつつ、最初から背中を預けてしまった。
 オットーさんは最終確認をし、全員が騎乗完了したのを見届けてから、クリスに「準備完了です」と伝えてきた。

「アルフィオ」
「はい」

 昨日と同じように。
 頑張れアルフィオさん。






 ほぼ予定通りの場所に転移が完了した。
 疲れ切った顔をしてるアルフィオさんのために小休憩をとったけど、そのときに幼児化したマシロが、クリスポーチの中から自分のバッグを取り出して、アルフィオさんの口に例の花びらを無理やり押し込んで戻ってきたときには、みんなで笑ったよね…。マシロ流の心遣いらしい。ついでに自分も花びらを食べたあたり、ちゃっかりもしてるけどね。
 花びらに効果があったかどうかはわからないけれど、動けるくらいに回復したアルフィオさんを再び殿よりも一つ前に配置して、隊が動き出した。
 途中、いつものように魔物を討伐しながら向かう。それほどのタイムロスにはならない。隊の足が止まらないから。
 お昼休憩を取った後、エーデル領に入った。
 今回は村を大きく迂回して、外側を見て進む。
 速度も落とさないし、見回りにもなるからこれでいいらしい。
 そうして走り続け大体三時ころ、エーデル領中央街の門が見えてきた。
 クリスは隊を一度そこで止めた。

「ブランドン、先触れに」
「了解です」

 …ん。なんの連絡もなく来ちゃったし、なんなら早馬よりも早く到着したし、せめてこのタイミングでも「来るよ」って伝えるのは大事なことだ…。

「マシロ」

 俺のマントの中からマシロを抱き上げたクリスは、マシロのバッグをクリスポーチの中から出した。
 それを見て、マシロはすぐに幼児姿になる。

「ういす?」
「ザイル、マシロを乗せられるか」
「ええ。問題ありません」

 バッグを肩からかけたマシロを、ザイルさんが抱き上げる。

「いる?」
「屋敷につくまでザイルといるんだ」
「いる、っしょ?」
「ええ。流石に三人は乗れませんからね。少し我慢できますか」
「らいじょぅ」
「いい子ですね」
「うきゃ」

 微笑んだザイルさんに頭を撫でられて、嬉しそうに笑うマシロ。機嫌がいいなら、いっか。
 この小休憩は主にマシロのことだったらしく、改めてみんなが騎乗すると、すぐに出発になった。
 …なんかちょっと胸元がすぅすぅする。

「どうした?」

 クリスが俺の頭にキスを落とす。

「マシロがいなくて寂しくなったか?」
「……ん」

 その通りなんだよね。
 ここにあった温もりが足りないな…みたいな。
 少し視線を巡らせば、ザイルさんと一緒にいるマシロがすぐに見えるのに。

「……なんか、マシロがいるのが普通になってるんだなあ…って思ってさ」
「そうだな」
「クリスも?」
「アキ似のマシロを遠ざけるのは無理だ」
「なにそれ」

 その言い方に思わず笑っちゃったよ。









*****
「あきとね」
「ええ」
「ういすね」
「はい」
「ましろね」
「ええ」
「しゅきなの」
「そうですね」
「えへ」
「…(可愛いです)」

なんて会話が馬上でこっそりと
ほわほわしてる二人を見て、オットーさんまで和むの図
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