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俺が魔法師である意味

8 料理長特製ゼリー再び

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「マシロ、これをどうぞ」

 和やかな雰囲気の中、俺とクリスの間に座ったマシロに、ザイルさんがどこかで見た覚えのある箱を渡した。

「料理長からです。これならマシロも食べれるはずだからと」
「う?」

 不思議そうなマシロが箱を開ける。

「はわ!」

 中に入ってたのは……見覚えのあるオレンジ色のゼリー。

「あー……」

 俺は苦笑するしかない。
 そしてマシロにとってこの形状は、

「あんまぃの!!」

 ……だよね?

「マシロ、あのね」
「あむしてぃい?」
「ああ。ほら」

 クリスが笑いながらマシロ用のスプーンを渡した。
 ……ああ。あの顔はわかっててやってる顔だ。

「ぃたきましゅ!」

 マシロは箱を抱えて慎重にスプーンで掬って……キラキラさせた目で一口、口に入れた。

「う!?」

 口に入れたまま固まって、顔がどんどんぺしょりと悲しげなものになっていく。
 それでもゴクンと飲み込むと、スプーンを口から出して、

「……ぁんまくない」

 泣きそうな顔で訴えていた。
 うん。俺もそうだった。完全に甘味だと思ってたから、あのときの衝撃はすごかった。
 隊員さんたちもそのときのことを覚えているのか、「アキラさんと同じ顔してた」「さすが親子」とか、あちこちで笑いが起きる。

「マシロ、美味しくない?」
「……おぃちぃ」
「それね、俺も食べたことあるよ。料理長がマシロのために用意してくれたんだね。体に良いからしっかり食べようね」
「あぃ……」

 それでも二口目に中々手が出ないマシロの耳元で、「全部食べたらお菓子少し食べようか」って囁やけば、目をキラキラさせて何度も頷いてゼリーを食べ始めた。

「……アキと全く同じだ」

 クリスは隣で笑うだけ。
 ……そういえばあのときも、夕食の後にお菓子食べたっけね……。







 夕食の片付けも終わって、俺とマシロは天幕に引っ込んで寝る支度に入った。クリスは明日の打ち合わせでまだ話し合い中だ。
 預かっていたクリスポーチの中から洗浄魔導具を出して少し魔力を流す。
 これを使うとマシロが喜ぶのに、何故かとても静かだった。

「マシロ?」

 ベッドに座って眉をハの字にしてるマシロ。

「どうしたの?」
「あね」
「うん」
「ばぁば、いなぃの」
「そうだね。メリダさんはいないよ。寂しい?」

 隣りに座ってマシロの顔を見ると、困ったように目をキョロキョロさせて、伺うように俺を見上げてくる。

「あね」
「うん」
「ぉよして」
「うん」
「ぉやすぃまれ」
「うん」
「ましろ、あきと、っしょ、ぁの。ぉよまで、ばぁばと、っしょ」
「あー……」

 ようやくわかった。
 お城で夜はメリダさんと一緒だよって話をしてから、マシロはちゃんと守ってきた。ちょっとばかしマシロが突撃してくる時間が早朝すぎるけど、問題はない。
 俺の腕の中で幸せそうな顔してるマシロに気づくと、俺も幸せな気持ちになるから。

「ましろ、どこ?」
「どこにも行かなくていいよ。今夜は俺たちと寝よう」
「あきと?っしょ?」
「そう。クリスも駄目って言わないよ」

 ……多分。
 それに俺も、そんなに魔力が減った感じしないし……。

「ういす、め、しなぃ?」
「う、ん」

 多分ね…?

「ましろ、うれち」

 ニッコニコなマシロが俺に抱き付いてきた。
 まさかクリスも追い出すようなことはしないはず。絶対しない…と言い切れないところが苦しいのだけど。
 一応子猫マシロ用の籠は持ってきてる。でもマシロは子猫姿よりも、幼児姿で俺のそばにいたいと思ってるような……気がするから、それは必要ない。

「なんだ、着替えてないのか」
「クリス」
「ういす」

 クリスが戻ってきた。
 話し合い終わったのかな。

「体は?」
「魔導具使った」
「そうか」

 一言頷いて、俺の額にキスをする。

「着替えないのか?」
「えー…っと」

 着替えようかとは思ったんだけど、マシロの前でクリス服に着替えることに、若干の抵抗があったり、あったり……。

「……ああ、なるほど」

 クリスは何かを納得して、テーブルの上に置きっぱなしの洗浄魔導具を起動させ、クリスポーチの中から着替えが入った袋を取り出した。

「マシロ、隠れておけ」
「う?」
「クリス?」
「アキが恥ずかしがるから」
「う!」

 コクンコクンと頭を振ったマシロが、いそいそとベッドの上においた毛布の下に潜っていく。

「いいと言うまで頭を出すなよ」
「あぃ!」

 くぐもった声。苦しそうではない。

「クリスっ」
「ほら、脱がしてやる」
「ちょ」

 ニヤリと笑ったクリスが、有無を言わさず俺の口を塞いできた。

「んっ」

 舌を吸われて上顎を舐められて、声が出そうになるのを必死にこらえた。じわっと広がっていくクリスの魔力は心地良いし、甘くて気持ちがいい。
 唇が離れない。ずっとずっとキスを繰り返す。クリスの手は器用に俺のシャツのボタンを外していく。

「ク、…っ」

 顔を離そうとしたら、後頭部を抑えられた。
 シャツはサラリと落ちて、ズボンのベルトが引き抜かれる。

「…マシロ」
「ぴっ」

 一瞬顔が離れたかと思ったら、クリスの低い声がマシロを呼んだ。……呼んだというよりも、怒った?そんな声音。
 なに…と振り返ろうとしたけど、クリスの手にそれを阻まれて、また深いキスをされる。
 クリスの手がズボンを落とす。
 それから、恥ずかしい下着の紐も解かれて、下に落ちた。

「クリス…っ」
「抱けないんだ。少しくらい触らせろ」

 耳元の、低くて小さくて甘い声。
 マシロが一緒に寝ることを了承してくれたものだけど、マシロがいるのに触られるのは恥ずかしい。

「声、我慢な」
「んっ」

 首筋を舐められた。
 慌てて手で口を覆う。
 ただひたすら、クリスの舌が俺に与えてくる甘い刺激に声を堪えて身を震わすしかなかった。












*****
毛布からひょこっと顔を出したマシロがクリスに睨まれて再び毛布の中に隠れるとか
クリスはやっぱり我慢できない人だとか
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