魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

7 歴史的和解が成された…!

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 マシロが花を食べている間に天幕とかの設営は終わってた。
 橙色が濃くなってきたあたりで、隊員さんたちは調理組と周囲警戒組に分かれて行動し始めた。
 俺たち用の天幕もしっかり整えられていて、一旦中に入った。

「マシロ、お腹痛くない?」
「う?」
「悪くないもの…ってわかったけど、食べ過ぎはだめだよ?」

 マシロは自分のバッグを開けて中身を見て、それから俺に目を合わせる。

「ぉはな、め?」
「食べてもいいけど、食事の前はだめ。お菓子と一緒」
「うにゅ…」

 マシロは渋々頷いた。
 もお…どれだけお菓子とお花が気に入ったんだよ。

「クリス、マシロの服どうしよう」
「そのままでいいんじゃないのか?」
「……このまま……って、見た目は服着てるけど、これ裸と大差ないじゃん」

 魔力でできた…というか、そう見えるように魔力で練り上げられた白いワンピース。マシロが動く度に揺れる裾は、確かに普通の服に見えるけど。

「いいのかな…」
「いいもなにも、俺達じゃそもそも着付けができない」
「あ」
「だから、諦めろ。マシロも特に嫌がってないしな」
「う?」

 バッグを覗き込んで花びらを指でつまみ上げてたマシロ。……言ってるそばから食べようとしてるし。

「マシロ、め」
「ううー…」

 顔をくしゃくしゃにしながら花びらをバッグの中に戻した。
 どんどん口が尖っていくから、ベッドから抱き上げて胸に抱き込んだら、小さな手が背中に回ってきてしがみついてきた。

「また甘えてる」

 少し呆れたクリスの声に、マシロはちらりとクリスを見て、また顔を俺の胸に押し当ててきた。

「あき、め、しなぃれ」
「じゃあ、さっきのこと、ちゃんとお約束しよう?」
「…しゅる」

 このいじけ方、まるっきり普通の子供だよね。大好きなお菓子はどんなときだって食べたいのが子供だもんね。……俺にも覚えがあるし。

「じゃあ、夕食の前に、あと一枚だけだよ?」
「う!」

 満面笑顔になったマシロをベッドに下ろすと、いそいそとバッグを開けてさっき手に持った花びらを出していた。

「んふ」

 いかにも『幸せ』って顔で食べるマシロに、俺もクリスもつい笑ってしまった。
 だから、服がどうのって話は有耶無耶になったんだけどね。なんか俺も『ま、いっか』って気持ちになっちゃったから仕方ない。
 でも流石に足元は裸足だと怪我とかするかもだから、短いソックスと靴を履かせた。
 俺は俺でクリスに上着を脱がされて、クリス色のカーディガンを着せられる。
 春の三の月でもうすぐ夏になるけど、夜は少し肌寒いから。
 マシロにもマシロ用のカーディガンを出して羽織らせた。
 薄いピンク色で、黒の飾りリボンと少し薄い青色の飾りボタンがついたもの。
 大事なバッグをまた肩から下げれば、上機嫌でくるくる回り始めた。
 マシロの物、ピンク系が多いなぁと思うのは、女の子だからということと、印象的な澄んだ赤色の瞳のせいだろう。全体に色が白いのに、瞳だけは鮮やかな赤だから。だからピンク系がよく似合う。

「行くぞ」
「マシロ」
「あい!」

 クリスと二人でマシロに手を伸ばす。
 マシロは嬉しそうに俺たちの手を握って、またきゃあきゃあと、はしゃいでいた。





 夕食の準備は進んでた。
 俺が配膳とかを手伝い始めると、マシロもパンを握りしめて最初にクリスに「ぁい」と渡してた。
 それを隊員さんたちに順番にしていったマシロ。「ありがとう」とか「かわいいな」とか「お手伝い偉い」とか褒めてもらって頭を撫でてもらうのが嬉しかったみたい。
 最後はアルフィオさんのところに行ったのだけど。

「え……と、マシロ殿、そのパンを」
「あー、や。げない!」

 ……そっぽ向いて戻ってきた。手の中にはアルフィオさんの分のパンが……。

「そ、そんなぁ……」

 項垂れるアルフィオさんと、周りから上がる笑い声。

「マシロ、もう許してやれ」
「ういす」

 笑ったクリスがマシロの頭を撫でると、ぴょこんと耳と尻尾が飛び出てきて、ゆらゆら揺れ始めた。
 機嫌良さそうにパタパタと尻尾をゆらして、クリスの手が離れると、手に持ったパンを見てからアルフィオさんのところに歩いていく。尻尾はゆれたままだ。

「マシロ殿」
「あー、も、しなぃ?」
「しません、しませんよ!」
「あき、つれて、ぃかなぃ?」
「連れ去ったりしませんから!!もうあんなことは、絶対!!」
「う」

 マシロはアルフィオさんの言葉を聞きながら、じっと顔を見てた。
 それから納得したのか、うなずいて、パンを差し出す。

「いいこ、する?」
「もちろんです!」
「う。こぇ、あげう」
「ありがとうございます!マシロ殿!」
「う」

 一応の和解……かな?
 ふんふんと鼻を鳴らしながら俺たちのところに戻ってきたマシロ。俺を攫わない言質を取って満足したのかな。

「マシロ、耳と尻尾」
「ぴゃ」

 くすくす笑いながら指摘したら、手で耳を抑えていそいそと消してた。そっか。気づいてなかったんだ。
 あの姿、可愛いんだけどね。でも、尻尾が揺れるたびに食事に被害が出そうでね……ごめんねマシロ。











*****
次回も野営小話です
アルフィオさん、危うく主食抜きに……(笑)
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