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マシロが養女(仮)になりました
閑話 俺の番は嫉妬心を煽るのが上手い ◆アルフィオ
しおりを挟む「アキラ殿を攫った本人のアルフィオ・ジル・テレジオです」
殿下の部下…仲間?たちの前で、そう自己紹介をして頭を下げた。
途端放たれるのは殺気を孕んだ視線。
幾人かは剣に手をかけている。
「団長」
「なんですか、リオ」
「殺していい?」
「駄目です。彼はエルフの族長からの預かり物です。いずれ返却します」
……物、返却。
この団長殿は容赦ない。
好かれるとは思っていないが、駄目だと言ってる本人の殺気をどうにかしてほしい。
返却とか言ってるのに、俺が何かしようものなら、あの剣は俺の首を確実に刎ねる。精霊魔法を使う俺のほうが圧倒的に有利なはずなのに。
「納得できないところもあるとは思いますが、腕の方は確かです。これを踏み台に各自己の腕を鍛えてください」
……更にこれと言われた。
扱いが酷すぎるよ…団長殿。
「言い方が雑すぎますよオットー。アルフィオは唯一の番であるエアハルトを追って来たんです。言動に難しかありませんが、エルフにとって早々出会える存在ではないらしいですよ?なので、温かく見守ってあげてください」
「………」
副団長殿はとても笑顔で穏やかに説明してくれたというのに、言葉は突き刺さる。……容赦ない。
「ツガイ……というのは、どういうものなんでしょうか」
皆の中で年長に見える青年が問いてきた。
「エルフにとって運命的に一目惚れする相手です。番が死んでしまい肉体が変わっても、一度出会ってしまえば同じ魂を探し求めることができます」
「…それがエアハルトさん…」
「いや、私はっ、そんなこと認めてもいませんから!私の至上はアキラ様のみです…!!」
「……速攻で振られてますけど、大丈夫なんですか?この人」
「口説き落とすようなので問題ありません」
笑った団長殿の言葉に、エアハルト殿以外の全員が「あー…」と納得した。エアハルト殿だけがどこか納得していない。
「それなら殿下も入団を許可するの頷ける」
「ええ。では早速ですが、手合わせを開始します。アルフィオは戦斧でいいですよ」
「はい」
有耶無耶のまま団員たちから殺気は消えた。どうやら俺は受け入れられたらしい。
殿下が鍛えているためか、団長殿までと言わなくとも、団員たちは皆それぞれの強さがあった。
純粋な物理的な力量で言うならば、団長殿、副団長殿以外に、ディック殿、ミルド殿、ブランドン殿に負けた。エアハルト殿とはほぼ互角。
この団の腕っぷしは十分理解できたが、魔法師はエアハルト殿だけという状況。
試しに、魔法戦もしてみたが、エアハルト殿の魔法はどちらかといえば防御向きだった。
伴侶として認めてもらうためにも手は抜けない。けれど、怪我もさせたくないし、そもそも愛しく思う者相手に全力で挑むこともできない。
結果、多少なりとも手加減した魔法戦になってしまった。多分それも気づかれない程度だろう。団長殿は厳しい顔をしていたが。
「手を抜いたでしょう」
兵舎の食堂で夕飯を終え、副団長殿の部屋の風呂を使い割り当てられた部屋に戻ると、先に戻っていたエアハルト殿がベッドに腰掛けながら俺を軽く睨みつけてきた。
「手を抜いたりは…してませんよ?」
手を抜いたわけじゃない。結果として手加減のような形になっただけだ。
割り当てられた兵舎の部屋は、有り難いことにエアハルト殿と同室だが四人部屋だ。個室は役職に就かなければ割り当てられない。
幸い、今はまだ同室の他の二人は部屋に戻ってきていないが、いつ戻ってくるかもわからない状態でエアハルト殿に手を出すわけにもいかなかった。
「…精霊魔法は私達が使う魔法とは異なる体系を持っています。魔法は魔力量に左右されますが、精霊魔法は違う。……長い年月研鑽を積んできた貴方の精霊魔法と私の魔法が互角か、それほど差がないということはありえません」
俺は言葉を無くしてしまった。
エアハルト殿は俺の番になることを拒否しているというのに、俺のことをよく見ている。変に慢心もしていない。
「当然、貴方の精霊魔法よりもアキラ様の魔法のほうが何倍も強いですけどね」
この、アキラ殿のことを語るときの、誇ったような顔。相当傾倒してるんだろうことは想像に難くない。
……だが。
「妬けますよ」
「は?」
番が目の前で他人を褒めちぎるのは、はっきり言って腹が立つ。
その苛立ちと嫉妬心に逆らうことなく、察知した彼から拒絶される前に彼の手を取ってその甲に唇を触れさせた。
「!!」
「駄目ですよ、番の前で他人を褒めたら。……嫉妬でどうにかなりそうだ」
案の定、手はすぐに振り払われた。
「私は番だなんて受け入れてません」
「ええ、知っています」
笑顔で答えると、彼は軽く舌打ちをしてさっさとベッドへ潜り込んでしまった。
俺は軽く息をついて彼が潜り込んだ隣のベッドを眺める。
焦らなくていい。
種族が違えど、番なのだから。いずれ、エアハルト殿は俺を見てくれる。
「おやすみなさい、エアハルト殿」
「………おやすみ」
ほら。
渋々ながらも返事は来るし。怒っているはずなのに無視もしない。
小さなランプの明かりを落とす。
彼が許してくれさえすれば、四人部屋だろうがなんだろうが、この腕の中に抱いて眠るのに。
焦るな。
時間はまだまだあるのだから。
数日後、正式にマシロ殿が殿下とアキラ殿の養女となると通達を受けた。
……いや、まあ、確かにそんなことは言っていたが、マシロ殿は人ではない。よくもまぁそれが受け入れられたものだなと、呆気にとられた。
「血の繋がりも魔力の繋がりも等しいものなのでしょう。…アキラ様にとって、人外だということは関係ないんですよ。魔力で繋がり、人の形を取り、愛情を注げるもの。それは、彼にとって等しく家族という括りになるのでしょう。……まぁ、だから、人族ではないエルフを受け入れることくらい、なんの支障もないんでしょうね。それがたとえ、御自分を攫った者であったとしても」
「ああ……なるほど」
「そんなアキラ様だからこそ、王族の方々も信頼を寄せるのでしょう。……とにかく彼は何よりも誰よりも得難い人物ですから」
アキラ殿のことを、うっとりと語るエアハルト殿。
面白くない。
俺に関しては一向に理解する様子のないエアハルト殿の額に口付けた。……次の瞬間にはがっつりと顔を殴られはしたけれど。
愛しい番に与えられるものなら、痛みすら悦びに変わりそうだと口元に笑みが浮かんだ。
*****
変態さんが………
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