92 / 216
マシロが養女(仮)になりました
15
しおりを挟む城に戻る前に、オットーさんとザイルさんも一緒にお昼ごはんを食べた。
城への帰り道は、クリスに縦抱きにされた。マシロはザイルさんが抱っこしてくれてたけど、不機嫌そうに口を尖らせていて、ちらちらと俺の方を見る。暴れたりはしなくて、大人しくはしてたけど。
ごめんねマシロ。俺、クリスのことが凄く好きで、やっぱりクリスが他の人を構う姿は見たくないみたいなんだ。
…今日だけ、今だけ、だから。
城に戻って部屋に入ったら、マシロは俺にくっついて離れなくなった。
「何かありました?」
「あー……、別に特には……」
不思議そうにするメリダさんに曖昧な答えを返す。……構われないから俺が嫉妬して拗ねたなんて、メリダさんに言いたくない……。情けなさ過ぎて。
椅子に座ったらマシロがよじ登ってきて、俺の足に座って腰に両手を回してくる。
「マシロ、買ってきたお菓子食べる?」
「ぃない」
「ミルクは?」
「うぅん」
「クリスに抱っこしてもらう?」
「あきに、っこする」
ん、離れようとしない。
制服に着替えてたクリスは、着替え終わると俺の頭を撫でて額にキスをしてくれた。
「仕事してくる」
「俺も」
「アキは休んでろ」
強い口調ではなくて、苦笑気味な声音。
「でも、マシロのこと」
「団員に伝えるのは今日じゃなくてもいい。疲れただろ?茶の時間には戻るからそれまで寝ていたらいい」
疲れたわけじゃないんだけど。でも、ちらりと俺を見上げてくるマシロは変な顔してるし、俺も疲れた顔してるのかな。
「……わかった」
頷いたら、クリスは頬にもキスをしてくれた。
それから、顎を捉えられて、唇が重なる。
心地いい、甘いキス。
「ん……」
舌が絡むのは気持ちがいい。じわじわとクリスの魔力が体に馴染んでいく。
「連れて行きたくないわけじゃないからな?」
「ん…」
「茶のときに甘い菓子を用意してもらおう」
「うん」
「じゃ……行ってくる」
「いってらっしゃ」
「……ぅぃす、らしゃぃ」
「ああ」
またちらりとクリスを見たマシロが、小さく手をひらひら振った。
クリスはマシロの頭を撫でたあと、もう一度俺の頭にキスをして、何度も頬を撫でてやっと部屋を出ていった。…物凄く後ろ髪引かれてるみたいな顔をして。
「休んでろって言ったのはクリスなのにね」
「う?」
「クリスの方が寂しそうな顔してた」
「う」
「そうですね。アキラさんもマシロちゃんも傍にいないと、坊っちゃんの仕事は進みませんよ。お茶の時間よりもはやく戻ってきそうですね」
「クリス、マシロのこと気に入ってるから」
「う?」
「クリスね、マシロのこと好きだよ?」
「しゅき?」
「うん。そう」
「ましろね、あき、しゅき」
「ん。俺も好き」
ぎゅって抱きしめたら、マシロの不安も少しはなくなるかな…?
少し笑うようになったマシロと、ベッドに潜り込んだ。
ピンク色のドレスを脱いで白いワンピース姿になったマシロを腕の中に抱いて、目を閉じる。
……まさか、俺がマシロに嫉妬するような日が来るなんて思いもしなかった。こんなに可愛いのに。心っていうのはままならないもんだなぁ。
頭をポンポンなでたら、マシロがくふくふ笑い始めた。
…人じゃないけど、でも本当に可愛い。誰が見ても家族に見えるらしいし。見た目、俺たちの娘。陛下たちも養女としてどうのと言っていたし。
どうしたらいいんだろう。
マシロは人じゃなくて、どちらかといえば精霊で、俺の使い魔で。人の子のように接してもいいんだろうか。
悩んでるうちにマシロの体温に引き摺られるように眠りに落ちてた。
俺が意識してなかっただけで、何故か疲れてたんだな。うん。疲れてると陸な考えが浮かばない。こういう時は寝るに限るね。
◆side:クリストフ
思いがけずいいものを見れた。
あからさまに誰かに嫉妬するアキは珍しく、ちらちら俺を見てくる瞳に俺に対する独占欲が見えて、こみ上げてくる笑みを消すのに苦労した。
俺が喜んでいるなんて知られるとへそを曲げるのは目に見えている。これは知られちゃ駄目だな。
西町から戻ってくる間、ずっと俺から離れようとしなかった。
意識してるのか無意識なのか。確かにここのところ、マシロを抱いて移動することが多かったから、アキをこんなふうに抱き上げての移動は久しぶりのような気がする。
アキの甘えぶりは、嫉妬からくるものだけではないだろう。本人はあまり気にしていないが、魔力が消費されている。無限にも思えるアキの魔力だから、それから見れば微々たる量かもしれないが、こうして甘えてくるところを見ると魔力は常に満たしていたほうが良さそうだ。
消費された原因はマシロの人化か。
互いの魔力が繋がり、感情まで流れているのなら、お互いに不調を感じ取っていてもおかしくない。アキはマシロに嫉妬感情を持ったことをかなり気にしている様子だったから。二人で少し眠れば、アキの中の蟠りも少しは解消されるだろう…と、執務には連れて行かずに休ませたが。
「………」
執務を三割ほど終わらせ部屋に戻った。
お互いに幸せそうに微笑みながら寄り添って眠るアキとマシロ。
子猫姿のマシロがアキに纏わりつくのは我慢ならなかったが、幼児姿のマシロは駄目だ。あどけない寝顔はアキそのものだ。
「………」
思わず口元を抑えていた。
アキの容姿だけを好いているわけではないが、アキを幼くしたマシロの容貌にも愛しさを覚えてしまう。
……これほどアキに似たマシロを、俺が排除できるわけもなく。
「マシロちゃんは本当に普通の人の子供にしか見えませんね」
「……そうだな」
柔らかな眼差しを向けるメリダの言葉に頷きながら。
「それにこんなにアキラさんに似て。でも、坊っちゃんの幼い頃にも似てる気がするのは何故でしょうね?」
「………さあな」
アキに似ていて、俺にも似てるマシロ。
「このままお子様にしてしまえばよろしいのに」
他意のないメリダの言葉に、養女に迎えればいいと言われたことが思い起こされた。
「……そうだな」
アキの頬を撫でれば嬉しそうに口元が緩み、マシロの頭を撫でれば同じように口元を動かす。
これは、誰が見ても親子だろう。
無意識に口元に笑みを浮かべながら、幸せそうな二人を暫く眺めていた。
*****
アキの嫉妬に喜ぶクリス。
アキに知られて拗ねられる案件です…(笑)
138
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる