上 下
85 / 216
マシロが養女(仮)になりました

しおりを挟む



「あーね、めー、ぅりーすね、め、なーの」
「そうね。本当にしっかりしてもらわなきゃ駄目ですね?さ、マシロちゃん、お顔拭きましょうね」
「まーろ、ぉかお、やぁ」
「ちゃんと綺麗にしないと。タオルを濡らしてお顔を拭けば怖くないでしょう?」
「ぁーい!」

 メリダさんの腕の中でマシロが元気に受け答えしてる。

「めー」
「ばぁば、ですよ?」
「ばぁば?」
「そう」
「ばぁば!」

 メリダさんの顔、本当にばぁちゃんそっくり。孫を可愛がる顔だ。
 ……じじ爆誕の翌日はばぁば爆誕。
 いや、まぁ、メリダさんはある意味爆誕してない。もともと俺が孫みたいな存在だから…。




*****

 話し声とか気配とかで目が覚めた。
 腕の中にはにまにましてる幼児なマシロがいて、尻尾が俺に絡みつくようにふさふさしてる。

「マシロ…おはよ」
「おーよ!」

 二人でぎゅうってする。ふわふわの耳も尻尾も気持ちいい。

「アキ」
「クリス、おはよ」
「……ああ。おはよう」

 歯切れの悪いクリスが俺の額にキスをして、マシロからの尻尾攻撃を受けてる。なんだろう。抵抗もしていない。

「クリス?」
「……すまない」
「なにが?」
「あーね、ぅりーす、ね、め、なーの」
「め?」

 め、ってことは駄目なこと悪いこと、って意味だろうけど……、なんで朝から?
 わからなくて考え込んでいたら、「アキラさん」って呼ばれて振り返った。

「あ、メリダさん、おはようございます」
「はい。おはようございます」

 ニコニコと笑うメリダさんに普通に挨拶してから、俺にひっついてるマシロを見て……固まってしまった。

「め、メリダさん」
「あらあら。アキラさんも坊っちゃんと同じ反応をされるんですね?」

 特に驚いた様子もないメリダさんだけど、クリスは項垂れたまんま。

「すまない……アキ。様子を見てとか言っていたのに、俺が」
「ええと?」
「……マシロが人化してるのに普通にメリダを呼んだんだ」
「あー……」

 習慣とは恐ろしい。
 ここ数日人化したマシロと普通に寝ていたから、俺もマシロが幼児姿でいることをなんの疑問にも思わなかった。

「えっと……メリダさん」
「坊っちゃんはいつまで新婚気分でいるつもりでしょうか?随分と気を抜いていらっしゃるようですね?」
「………すまない」

 多分、俺が起きるまでも似たようなやり取りしてたんだろうけど。

「あの……メリダさん、心臓とか腰とか……大丈夫……?」
「ええ。なんともありませんよ?多少疲れやすくはなってきてますけどね」

 っていう、いつもと同じ笑顔。
 疲れやすくはなってるんだ……。早めに休んでもらったりしなきゃ………って、今はそうじゃなくて。

「何かありました?」
「や……。マシロが子供姿になってて……しかも、耳も尻尾もでてるし……、驚きすぎて体に影響出てないかな……て」
「そりゃあ驚きましたけどね。坊っちゃんからしっかりと説明いただきましたし、こんなにアキラさんにそっくりな子が無関係とも思いませんから」
「……よかった」

 俺の心配、杞憂に終わってよかった。




 メリダさんに認めてもらって、抱っこされて、きゃあって喜んで、タオルで顔を拭くときには一生懸命我慢してる顔のマシロ。
 お世話されてるマシロを見ながら、俺はクリスにお世話された。自分でできるって言ってるのに、着替えを全部手伝われてしまう。
 でも、文句も言えない。クリスの眉尻が下がっていて、落ち込んでるのがよくわかったから。

「……もう気を抜かないと誓ったのに……」

 タイを結び終えたクリスが、俺の肩口に額を押し当ててきた。
 そこまで落ち込むことないんじゃない…とは思いつつ、背中をポンポン叩く。

「俺だってゆるゆるだったし。今日このあとから気をつければいいんじゃない?」
「………アキ」
「だって、ほら。やっぱり帰ってきてホッとしてるし、誰だって自分の家の中じゃ気を抜くものでしょ?」
「……家、か」
「うん。俺にとってはクリスの部屋が『家』って感じだから。お城は……大きすぎるしあくまでも『お城』なんだけど。でも、クリスの部屋は俺にとって特別だし。クリスにとってもそうなんだと思うよ?……あとは、メリダさんにはついつい甘えちゃうから」

 俺もクリスも。
 甘えすぎてる自覚しかない。

「……そうだな」

 って呟いたってことは、少しは浮上したかな。
 よしよし…ってクリスの頭もなでた。クリスの頭を撫でるなんて、俺だけだよね。俺だけの特権。
 そんなささやかなことに幸せを感じていたら、上着の裾を引っ張られた。

「あーき、っこー」
「マシロ?」

 手を伸ばしたマシロ。
 えーと。抱っこ、かな?
 むっとした顔を隠そうともせず、クリスが俺から離れてマシロを抱き上げた。

「ぅりーす、やぁ!」
「メリダ、朝食に」
「はい。ご用意いたしますね。マシロちゃんには何をお持ちしましょうか」
「まーろね、くーもぅ、しゅき!」
「…果物でいい。あと、ミルクをグラスで。他に食べられるものがあれば追加していく」
「はい。かしこまりました」

 右腕にマシロを抱き上げたクリス。
 最初は抵抗したマシロだけど、ちょこんと大人しく収まってる。そんな姿を見ると親子に見えてしまうから不思議だな。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。 僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。 僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。 えへへ。 はやくニールと結婚したいなぁ。 17歳同士のお互いに好きすぎるお話。 事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。 ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。 _______________ *ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。 *短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。 *不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。 *甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】ぼくは伴侶たちから溺愛されてます。とても大好きなので、子供を産むことを決めました。

ゆずは
BL
 ぼくの、大好きな二人。  だから、望まれたとおりに子供を宿した。  長男のエリアスは、紫と緑のオッドアイに綺麗な金髪。  次男のイサークは、瞳は空色、髪は輝く銀髪だった。  兄弟なのに全然色が違って、でも、すごく可愛らしい。  ぼくは相変わらずの生活だけれど、どんなことも許せてしまう大好きな二人と、可愛い息子たちに囲まれて、とてもとても幸せな時を過ごしたんだ。  これは、そんなぼくが、幸せな時を過ごすまでの物語。  物語の終わりは、「めでたし、めでたし」。  ハッピーエンドに辿り着くまでの、ぼくの物語。 *R18表現は予告なく入ります。 *7/9完結しました。今後、番外編を更新するかもです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...