上 下
80 / 216
マシロが養女(仮)になりました

しおりを挟む



「私はまだ二百歳の若輩者ではありますが、精霊魔法の使い手としてそれなりの修練も経験も積んできました。今では族長の父に次ぐ使い手だと自負しております」

 ……二百歳で若輩者。
 陛下の苦笑顔とおえらいさんたちの呆気にとられた顔。アルフィオさんの見た目はクリスと同じくらいだもんね。
 というか、エルフが長寿な種族ってこと、みんな知らないのかな。

「私にとって精霊魔法が全てでした。女神の時代になり魔法が廃れ始めたこの世界では、すべての頂点に立つのは精霊魔法だと。精霊魔法こそが世界の理なのだと」

 聞きようによってはとても傲慢な考え。精霊魔法が使えない人を見下しているとも思える発言だけど、陛下から咎める言葉はない。
 おえらいさんたちも黙っちゃったよ。下手に刺激してお城破壊されたらどーしようとか考えてるかも。

「私はさらに精霊との絆を深めるために、旅に出ました。様々な国をめぐり、一度こちらに戻ったときに、私はアキラ殿を目にしました。純然たる魔力の塊のような存在に、正直私は打ちのめされたのです。興味を引かれないわけがありません。その色も、魔力量もそうですが、一人の魔法師が聖獣の血を持った半精霊を使役し、使い魔としていた。精霊語を介さないはずの、魔法師が。そのような存在に興味を持つなという方が難しい」

 いやぁ、熱弁だねぇ……なんて話半分で聞いていたのだけど、隣のクリスから明らかな舌打ちが聞こえてきた。

「……半精霊?」
「使役とは……」
「使い魔とはなんのことだ?」

 という会話が聞こえてきて、俺、ようやくクリスの舌打ちの理由を知った。

「ア……アルフィオさん……っ」
「マシロ殿は生まれて間もないというのに、魔法師としての力も、精霊魔法師としての力も併せ持っています。これがどれほど素晴らしく――――」
「アルフィオさん!」
「アルフィオ」

 わたわたと止めた俺と、こめかみに指を当ててため息とともに名を呼んだクリス。
 アルフィオさんはようやく止まって、俺たちを見る。
 大丈夫。わかってる。悪気がないことは十分わかってる。

「クリストフ」
「……はい、陛下」
「私達には聞かされていないことが多々あるようだな?」

 困ったような呆れたような顔。こめかみを指で抑える仕草は、流石親子。よく似てる。
 陛下の斜め後ろで、お兄さんはニコニコ笑ってるけど、笑顔が怖い。

「申し訳ありません、陛下。アルフィオが私の伴侶を拐かした――――いえ、ことで、今回の騒動となってしまいました。私の伴侶はエルフの里で丁重に饗され、本来人が入れない里であるにも関わらず、私達は里へ入ることができました。今回の騒動は人とエルフの認識の齟齬による結果だと、私は考えております」
「ならば処罰は望まぬということか」
「はい。私の伴侶も処罰は望んでおりません。……また、族長殿から私の兵団でアルフィオ殿を鍛えてほしいとの依頼も頂いております。エルフについてよく知る機会でもありますので、私は彼を受け入れようと考えております」
「そういうことであれば、クリストフに委ねよう」
「ありがとうございます」

 改めてクリスが礼をした。
 すらすらとそんな言葉が出てくるなんてすごいね。
 でも流石に番がどう…って話はしないんだな。

「異論のある者はいるか」

 陛下に問われておえらいさんたちは何も言わない。クリスが提案して陛下が認めたことだし、自分たちの未知のものにはあまり関わりたくないってことでもあるよね。

「では、エルフ殿への処罰は特になし。この謁見に関して箝口令を敷くこととします。よろしいですか?陛下」
「構わない」

 これまで黙って流れを見ていたお父さん宰相さんがそう締めくくった。
 箝口令か。
 マシロのことも含めて、だね。

「大臣たちは退出を。……クリストフ殿下方はお残りください」

 微笑んだ顔はどことなくティーナさんに似てる宰相さん。
 居残り宣言出されました。




 おえらいさんたちが引けたあと、俺たちも宰相さんに促されて部屋を移動した。
 大きなテーブルのある部屋。
 護衛コンビは部屋の中、扉近くで待機。部屋の外には近衛騎士さんが立っている。
 テーブルにつくと、侍女さんたちがお茶を用意してくれた。宰相さんは準備が終わると侍女さんたちを下がらせる。
 部屋の中には、俺とクリスの他に、お兄さん、陛下、宰相さんと、茶髪に糸目に擬態したアルフィオさん。
 ……ああ、うん。なんで別室に呼ばれたのかなんとなく理解した。

「クリストフ」
「はい」
「説明を」

 陛下の声音はごくごく普通。
 クリスがマシロを見るから、相変わらず俺の肩に置物のごとく座っていたマシロをテーブルの上におろした。

「マシロ」
「み」
「尻尾出していいよ」
「…み」

 少し不安そうなマシロは、俺を見てからクリスを見る。約束主はクリスだと思ってるからだろうな。

「マシロ、いいんだよ。みんなに見せてあげて。でも、今だけだよ?」
「み」

 頭をなでて首の下もなでてあげる。
 安心したようにすり寄ってくるマシロからふわりと魔力が溢れ、ふさふさの尻尾は三本のもとの姿になっていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。 僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。 僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。 えへへ。 はやくニールと結婚したいなぁ。 17歳同士のお互いに好きすぎるお話。 事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。 ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。 _______________ *ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。 *短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。 *不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。 *甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。

重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。 少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である! 番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。 そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。 離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。 翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。

処理中です...