魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
79 / 216
マシロが養女(仮)になりました

しおりを挟む



 嫌がるマシロを両手で捕まえてお風呂場に連れて行った。
 そりゃ、マシロだけじゃなくて俺たちも洗浄魔導具を使えばすぐ汚れは落ちるけど、風呂に入るのはまた別。ちゃんと石鹸使って乾かしてあげれば、毛並みもツヤツヤ感も増し増しで可愛さアップだ。

 お風呂場の中ではキスくらいだけにして風呂からあがると、真新しい制服と下着類が脱衣所に用意されていた。ちなみにマシロはもう部屋に逃げ帰ってる。
 クリスの髪にも風魔法を使った。サラサラのいい手触り。俺も自分に使ったら、何度もクリスに髪を撫でられて、少し伸びた毛先にキスを落とされた。やられてることが妙に恥ずかしい。

 メリダさんが用意してくれた紅茶を飲むと、もうやっと帰ってきた…って実感して、ちょっと涙が出てしまった。
 改めてメリダさんからも「おかえりなさいませ」って言われて抱きしめられて、嬉しかった。

 人心地ついて部屋を出た。
 マシロはきりりっと俺の肩に乗ってる。
 廊下ではさっぱりとした護衛コンビ。それだけでいつも通り!って感じがする。
 向かうのは謁見の間。
 オットーさんが先導して、ザイルさんが後ろにつく。
 そして案内されたのは、一年前に俺がクリスの婚約者と認められた、比較的こじんまりとした広間。
 謁見室の前に、長い茶髪を後ろに束ねた糸目の人が待っていた。ニコニコしてて愛想はいいけれど。

「……アルフィオさん?」
「あれ。やっぱりわかりましたか?」

 糸目の青年はあっけらかんと肯定して笑う。精霊魔法の変態……は、語感があれだから擬態魔法とでも呼ぼう……。

「なんでアルフィオさん?」
「当事者だろう。誘拐の」
「あー…」

 当事者っていうか犯人だね。

「……牢屋に入れられたり」
「まあ」
「え、ほんとに投獄されるの?」

 驚いてクリスを見たら、苦笑しながら俺の頭をなでた。

「お前を拐った本人なんだがな。……心配するな。悪いようにはならない」

 クリスがそう言って笑うから、そうなんだな…って納得した。





 謁見室の中に人は多くはなかった。
 壇上には、陛下の右手側にお兄さんが、左手側にはティーナさんのお父さん宰相さんが立っている。
 壇のすぐ下には、左右に貴族の人が数名。結婚式後の夜会で紹介された、○○大臣さんとか、そういう役職付きの人。あとは、お兄さんの側近の人とか、とにかく国の偉い人たちばかり。役職についてない貴族さんがいないだけマシかも。
 俺はクリスの左隣。
 アルフィオさんは、俺たちの後ろで、護衛コンビに挟まれてついてきてる。手首に鎖がかけられてたりとかはしていない。
 所定位置で立ち止まったクリスが礼を取る。俺も隣で膝をついて礼をする。……一年前はこれができなくて散々な言われようだったな。
 クリスと陛下が視察のことでいくつか言葉をかわすと、本題に入った。

「アキラ殿」
「はい」
「無事の帰還、嬉しく思う」

 す…っと目を細めた、一瞬だけ見せてくれる父親としての表情。家族として心配してくれてたんだ…って改めて思う。

「ありがとうございます、陛下」

 陛下の両隣でうんうん頷く二人。
 ほんと、ご心配おかけしました。

「アルフィオ、前へ」

 クリスが後ろを見ながら促した。腕は俺の腰を抱いていて、左側に少し体をずらしてくる。
 護衛コンビは一歩下がり、アルフィオさんはクリスと並んだ。そしたら、おえらいさんたちの間からざわざわと声が上がり始めた。

「エルフと聞いていたが…」
「エルフではないのか?」

 ……と。

「クリストフ、お前の書状にはエルフ族の者がアキラ殿を拐かしたとあったが」
「ええ。間違いありません。彼がエルフ族のアルフィオ・ジル・テレジオです」
「……ふむ」
「エルフ族は普段会うことのない種族です。城内に余計な混乱を産まないために、彼には精霊魔法による擬態を使用する許可を出しました」

 またざわりとする。
 ヒソヒソ声にどういう意図があるのか俺にはわからない。

「その擬態を解くことは容易なことか?」
「ええ。――――アルフィオ」

 アルフィオさんはクリスに頷くと、陛下に改めて向き直り右手を胸に当てて左足をわずかに引きながら腰を折った。
 それが魔法を解く仕草ってわけじゃないだろうけど、その礼と共に、茶髪の青年から金髪の青年へと姿が変わる。
 周囲はまたざわめくけど。

「改めてご挨拶申し上げます。エルフの里『テレジオ』の族長リウネス・ジルド・テレジオが末子、アルフィオ・ジル・テレジオと申します」
「…御前試合に割り込んできた優勝したエルフですね」

 っていうお兄さんの低い声に、陛下が頷いた。

「其方、何故我が国の王子妃を拐かした」

 ……あれ、これ、アルフィオさんが「楽しそうだから」とか正直に答えちゃったらアウトじゃない?俺をさらった理由って、そんなんだったよね??

「私は」

 少しハラハラしていたら、姿勢を戻したアルフィオさんが、右手は胸に当てたまま話し始めた。



しおりを挟む
感想 286

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...