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エルフの隠れ里
22 ◆クリストフ
しおりを挟むアキの記憶が戻った。
事細かに確認したわけではないが、おそらくもう問題ないだろう。
俺に言わなかった仕置として手とペニスを縛り上げてみたが、泣き始めたアキに手の拘束だけは解いた。
……そうだな。抱き合うのがいい。
黒い髪紐がアキの可愛いペニスと共に揺れるのは淫靡で滾る。毎回こうやって拘束しようか…と思うくらいによく似合う。
最後に髪紐を解いてやると、だらだらと白濁をこぼしつづた。勿体無い…とそこを口に含んでやれば、半分意識を飛ばしていたアキから、細い吐息と喘ぎが上がり始める。
残滓も全て舐め取った頃には、アキはすっかりと寝息を立てていた。
洗浄魔導具を起動させ、体も簡易ベッドも綺麗にしてからアキには新しい寝間着を着せる。
穏やかな寝息に知らず安堵の溜息が漏れ出ていた。
「おかえり……アキ。守れなくてすまなかった」
額に口付け、目元に唇を移す。
唇の端にも口付けると、アキの口元がふにゃりと笑みの形になる。その顔を見てると俺の方まで笑みが浮かんでしまう。
「み」
「マシロ?」
寝ていたと思っていたマシロが籠の中で体を起こした。
耳を震わせながら俺をじっと見ている。
「み」
焦れたのか籠から外に出てベッドに上がってきた。
アキの胸元に擦り寄り、三本に増えた尻尾でアキの腕を絡め取る。
真紅の瞳が俺を見て、それから天幕の入口を見る。
「――――ああ。わかったよ。アキを見ててくれ」
「みゃ」
満足げな鳴き声を上げ、マシロがアキの傍らで本格的に寝始めた。……その場所は俺の物だったはずなんだが、今は仕方ないか。
諦めの悪い溜息を付きながら天幕を出た。
「クリストフ殿下」
天幕の直ぐ側にアルフィオがいた。
この時間、エアハルトと見張りの時間なのだろう。
「何の用だ」
「アキラ殿のことで」
……ついこの間もこう言われて別の男に誘い出されたな。まあ、あれはわかっていてついていったんだが。
焚き火の近くにいるエアハルトは大人しく見張り番をしているらしい。
「…向こうで聞く」
アキが眠る天幕から遠く離れることはなく、けれど、声の届かないところに。
俺の後ろについて歩いてくるアルフィオの後ろに、いつの間にか普段とは違う黒いマントを羽織ったオットーがついてきていた。
……というか、オットー。その出で立ちに押し殺した殺意を纏っていたら完全な暗殺者だな。俺の側近はいつの間に懐に暗器を忍ばせるような立ち位置になったんだろう。
「ここで聞く」
俺が立ち止まったとき、オットーは音もなく近づき、アルフィオの喉元に剣を向けた。
「……団長殿は暗殺者なのですかね?」
「ご心配なく。暗器は持ち合わせておりませんし、誰にも知られずに命を断つことは得意じゃありません。なので、貴方の命を断った後は、この場所にエルフの死骸が一つ放置されていくだけです」
「怖いなぁ。……認めてくれたんじゃないんですか?何もしませんよ。俺はただ、アキラ殿のことで殿下にお伝えしておきたいことがあっただけで」
このエルフは軽い口調で答えながら両手を上に上げた。
「オットー、まずは話を聞きませんか。どうするかはその後に判断しましょう」
……ザイルまで。いつの間に追いついていたのか。丁寧に剣まで抜いている。
やることも振る舞いも微笑み方も、婚姻してますますオットーに似てきたな。
「オットー、ザイル」
静かに呼べば、二人とも剣を収めた。
「……それで?」
「殿下は男神信仰もしくは黒髪信仰をご存知ですか」
「信者がいることは把握している」
ほとんどの国で女神信仰が広がっているが、女神以外を祀っている国や地域もある。異教だからといって迫害されることはないが、むしろ、異教徒の方からこちらが排除されることが多い。
「詳しい内容もご存知ですか」
「……いや。そこまでは知らない」
黒髪信仰…、と聞いただけでざわりとする。
「男神信仰と黒髪信仰は同じものです。男神信仰の教義では、黒髪は至上の存在であり、神に捧げられる物とされています。黒髪を持つ者は神に等しい存在であるがゆえに、その体の全てを神に捧げなければならない、神の花嫁にしなければならないとされています」
「……アキがその異教の者に狙われる可能性があるということか?」
「ええ。この国内にその者たちがいるかはわかりませんが、他国で男神神殿に踏み入った騎士団が、聖壇の上で無惨な姿になっている黒髪の少女を発見した事例もありますから。……まあ、百年ほど前のことですが」
百年。
その間に国同士の争いもあったはずだ。その事実を知るのはその国と永い時を生きるエルフだけ、ということか。
「もちろん、俺も殿下の部下の一人になったのですから、アキラ殿のことをお守りすることはお約束いたします。…俺のエアハルト殿もそれを願うでしょうし」
……そのうっとりとした表情に、話を聞きながら神妙な表情になっていた二人が、一瞬で険しい表情になった。息が合いすぎだろ。
「城に戻ってからも油断はするなということだな」
「ええ」
「お前がアキに興味を持ったのはそれがあったからか」
「あー……、まあ、それもあるんですけどね。父上から聞いていた聖女とよく似てるなぁと思いましてね」
「聖女…」
「ええ。今の女神の時代が始まる前に異世界から儀式にて召喚された少女だったらしいです。父上は実際にお会いしたとか。……その容貌にあまりにも似ていたので、興味深く…」
書物に出てくる聖女か。聖属性を持っていたというあれか。……その聖女に直接会った者がまだ生きているなんて。
「………族長は一体何歳なんだ………」
「……さあ?そればかりは俺にもわかりませんね……。エルフの中でも化け物じみた長寿としか……」
実の息子であるアルフィオは乾いた笑いをする。エルフというのはよくわからない種族だな…。
とりあえずの殺気は収めたオットーとザイルは、俺たちが戻るときに天幕に入っていった。
アルフィオは焚き火の前に腰掛け、エアハルトに身振り手振りも交えて話しかける。
俺も天幕に戻ると、アキからはしっかりと寝息が漏れていた。
「アキ」
頬に口付ければ、また笑ったアキが俺の背中に腕を回してきた。
城に閉じ込めれば守ることも容易い。
けれどそれは望めないし、望まない。
アキが望むことをさせたい。大丈夫。どんなものからでも、俺が、守るから。
*****
いつか聖女様のお話も書きたいなぁ。
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