上 下
76 / 216
エルフの隠れ里

22 ◆クリストフ

しおりを挟む



 アキの記憶が戻った。
 事細かに確認したわけではないが、おそらくもう問題ないだろう。
 俺に言わなかった仕置として手とペニスを縛り上げてみたが、泣き始めたアキに手の拘束だけは解いた。
 ……そうだな。抱き合うのがいい。
 黒い髪紐がアキの可愛いペニスと共に揺れるのは淫靡で滾る。毎回こうやって拘束しようか…と思うくらいによく似合う。

 最後に髪紐を解いてやると、だらだらと白濁をこぼしつづた。勿体無い…とそこを口に含んでやれば、半分意識を飛ばしていたアキから、細い吐息と喘ぎが上がり始める。
 残滓も全て舐め取った頃には、アキはすっかりと寝息を立てていた。
 洗浄魔導具を起動させ、体も簡易ベッドも綺麗にしてからアキには新しい寝間着を着せる。
 穏やかな寝息に知らず安堵の溜息が漏れ出ていた。

「おかえり……アキ。守れなくてすまなかった」

 額に口付け、目元に唇を移す。
 唇の端にも口付けると、アキの口元がふにゃりと笑みの形になる。その顔を見てると俺の方まで笑みが浮かんでしまう。

「み」
「マシロ?」

 寝ていたと思っていたマシロが籠の中で体を起こした。
 耳を震わせながら俺をじっと見ている。

「み」

 焦れたのか籠から外に出てベッドに上がってきた。
 アキの胸元に擦り寄り、三本に増えた尻尾でアキの腕を絡め取る。
 真紅の瞳が俺を見て、それから天幕の入口を見る。

「――――ああ。わかったよ。アキを見ててくれ」
「みゃ」

 満足げな鳴き声を上げ、マシロがアキの傍らで本格的に寝始めた。……その場所は俺の物だったはずなんだが、今は仕方ないか。
 諦めの悪い溜息を付きながら天幕を出た。

「クリストフ殿下」

 天幕の直ぐ側にアルフィオがいた。
 この時間、エアハルトと見張りの時間なのだろう。

「何の用だ」
「アキラ殿のことで」

 ……ついこの間もこう言われて別の男に誘い出されたな。まあ、あれはわかっていてついていったんだが。
 焚き火の近くにいるエアハルトは大人しく見張り番をしているらしい。

「…向こうで聞く」

 アキが眠る天幕から遠く離れることはなく、けれど、声の届かないところに。
 俺の後ろについて歩いてくるアルフィオの後ろに、いつの間にか普段とは違う黒いマントを羽織ったオットーがついてきていた。
 ……というか、オットー。その出で立ちに押し殺した殺意を纏っていたら完全な暗殺者だな。俺の側近はいつの間に懐に暗器を忍ばせるような立ち位置になったんだろう。

「ここで聞く」

 俺が立ち止まったとき、オットーは音もなく近づき、アルフィオの喉元に剣を向けた。

「……団長殿は暗殺者アサシンなのですかね?」
「ご心配なく。暗器は持ち合わせておりませんし、誰にも知られずに命を断つことは得意じゃありません。なので、貴方の命を断った後は、この場所にエルフの死骸が一つ放置されていくだけです」
「怖いなぁ。……認めてくれたんじゃないんですか?何もしませんよ。俺はただ、アキラ殿のことで殿下にお伝えしておきたいことがあっただけで」

 このエルフは軽い口調で答えながら両手を上に上げた。

「オットー、まずは話を聞きませんか。どうするかはその後に判断しましょう」

 ……ザイルまで。いつの間に追いついていたのか。丁寧に剣まで抜いている。
 やることも振る舞いも微笑み方も、婚姻してますますオットーに似てきたな。

「オットー、ザイル」

 静かに呼べば、二人とも剣を収めた。

「……それで?」
「殿下は男神信仰もしくは黒髪信仰をご存知ですか」
「信者がいることは把握している」

 ほとんどの国で女神信仰が広がっているが、女神以外を祀っている国や地域もある。異教だからといって迫害されることはないが、むしろ、異教徒の方からこちらが排除されることが多い。

「詳しい内容もご存知ですか」
「……いや。そこまでは知らない」

 黒髪信仰…、と聞いただけでざわりとする。

「男神信仰と黒髪信仰は同じものです。男神信仰の教義では、黒髪は至上の存在であり、神に捧げられる物とされています。黒髪を持つ者は神に等しい存在であるがゆえに、その体の全てを神に捧げなければならない、神の花嫁にしなければならないとされています」
「……アキがその異教の者に狙われる可能性があるということか?」
「ええ。この国内にその者たちがいるかはわかりませんが、他国で男神神殿に踏み入った騎士団が、聖壇の上で無惨な姿になっている黒髪の少女を発見した事例もありますから。……まあ、百年ほど前のことですが」

 百年。
 その間に国同士の争いもあったはずだ。その事実を知るのはその国と永い時を生きるエルフだけ、ということか。

「もちろん、俺も殿下の部下の一人になったのですから、アキラ殿のことをお守りすることはお約束いたします。…俺のエアハルト殿もそれを願うでしょうし」

 ……そのうっとりとした表情に、話を聞きながら神妙な表情になっていた二人が、一瞬で険しい表情になった。息が合いすぎだろ。

「城に戻ってからも油断はするなということだな」
「ええ」
「お前がアキに興味を持ったのはそれがあったからか」
「あー……、まあ、それもあるんですけどね。父上から聞いていた聖女とよく似てるなぁと思いましてね」
「聖女…」
「ええ。今の女神の時代が始まる前に異世界から儀式にて召喚された少女だったらしいです。父上は実際にお会いしたとか。……その容貌にあまりにも似ていたので、興味深く…」

 書物に出てくる聖女か。聖属性を持っていたというあれか。……その聖女に直接会った者がまだ生きているなんて。

「………族長は一体何歳なんだ………」
「……さあ?そればかりは俺にもわかりませんね……。エルフの中でも化け物じみた長寿としか……」

 実の息子であるアルフィオは乾いた笑いをする。エルフというのはよくわからない種族だな…。

 とりあえずの殺気は収めたオットーとザイルは、俺たちが戻るときに天幕に入っていった。
 アルフィオは焚き火の前に腰掛け、エアハルトに身振り手振りも交えて話しかける。
 俺も天幕に戻ると、アキからはしっかりと寝息が漏れていた。

「アキ」

 頬に口付ければ、また笑ったアキが俺の背中に腕を回してきた。
 城に閉じ込めれば守ることも容易い。
 けれどそれは望めないし、望まない。
 アキが望むことをさせたい。大丈夫。どんなものからでも、俺が、守るから。











*****
いつか聖女様のお話も書きたいなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...