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エルフの隠れ里
14 ◆クリストフ
しおりを挟む気を失った…というよりも、魔力の急速な補充に体が耐えられなかったのだろう。
暴走はある程度は防げたのだろうが、やはり魔力は相当消費していたようだ。
「……可愛いな」
記憶が戻っていないのに、俺を求めてくるアキ。
流石にこの状態で抱くのはどうかと、断腸の思いで注ぐだけに留めたが、先端が入り込んだ状態でもかなり心地いい。
…アキが攫われ、三日だ。…たった三日。だが、酷く長く感じた。アキを失った半年に比べれば、それこそあっという間だったというのに。アキの安否がわからないまま、焦燥をひたすら抑え込む三日間。もし、アキに何かあれば、俺は本当にこの里を滅ぼしていただろう。
「アキ……」
眠ってしまったアキの体を強く抱きしめる。
先端だけを潜り込ませていたペニスがやや先に進んでしまったが……、まあ、いい、か。
「うー…、あーき!」
アキが眠ってしまったことが気に入らないのか、ましろがぺちぺちと小さな手でアキの頬を叩いている。
「マシロ、起こすな」
「ぅー、りす、めー、ぎゅー、めー!」
「魔力の補充中」
「うーっ」
「お前だってアキの魔力を食べているんだろ。補充が必要なのは理解してるはずだよな?」
「うーっ!」
「俺にしかできないことだからな。悔しいだろ?」
「うー!うー!」
地団太を踏みそうな勢いで、ぼすんっと両手でベッドを叩くマシロ。
それから諦めたのか、眠るアキにピタリと寄り添う。
「あーき」
アキの腕を持ち上げ、いそいそとその腕の中に納まろうとする。
…まあ、それくらいなら許してやるか。
しばらくの間、アキの体温と熱く纏わりつく内腔を堪能していた。
アキの魔力がいつもと同じ流れをし始めたのを感じ、半ばほどまで挿れてしまっていたペニスをゆっくりと引き抜く。
「ん…っ」
「あーき?」
僅かに呻いたアキだが、目を覚ました様子はない。
そのことに気づいたマシロは、頬を膨らませながら、アキの胸元に頭をこすり付けていた。
俺はベッド横のテーブルからポーチを手繰り寄せ、さっさと洗浄魔導具を起動させる。魔力の流れにマシロの耳がぴくぴく動いていた。
濡れていたアキの体が綺麗になったのを確認してから、身支度を整えた。
魔導具で綺麗にはしたが、風呂にも入れてやりたい。
そろそろ夕食になる時間だが、その前がいいのか後がいいのか。アキに確認しようにも、ぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。そんなアキを態々起こしてまで確認するようなことではないし。
今後についても打ち合わせる必要がある。
オットーはすでにこの屋敷の内部は把握しただろう。扉前にいるのはザイルか。……エアハルトはどうしたのか。
「…マシロ」
「う?」
「風呂に入る。…お前も入るか」
「みっ」
震えだしたマシロに、つい笑みが漏れる。
アキと風呂に入るのはそれなりに慣れてきたマシロだが、リシャルで波にさらわれそうになってから、随分と水を怖がるようになった。
「じゃあ、大人しく待っていられるな?」
「ぁーい!」
アキから顔をあげて、その場で座り、真剣な顔で手を上にあげる。聞き分けのいいマシロは後が怖いが…まあいいか。
ポーチを持ち、アキを抱き上げた。
「……りす」
「ん」
「…ふへ」
変な笑い方だ。
魔力が補充されて、目が覚めたときに記憶も戻っている…なんて都合のいいこと起きないだろうか。
記憶がなくてもアキはアキで、可愛らしく愛おしいが、恥じらいながら俺を見上げ名を呼んでくれるアキがいい。今のアキは抵抗があるからか、中々俺の名を呼んではくれないから。
眠ったままのアキを風呂に入れることは慣れている。今まで何度もしてきたことだ。
エルフの里の風呂事情はよくわからない。
脱衣所のソファに一旦アキ横にさせ浴室の中を見たが、特に勝手が違うということはなさそうだ。
ポーチの中からアキの寝間着を取り出し、ソファに置いた。
自分の服を脱いでからアキの服を脱がせ、全身怪我がないか確認もした。万が一怪我があったとして、あれで治りきらない怪我があるのならそれはかなりの問題になるが、幸いにもそんなものはどこにも見当たらなかった。
浴室に入り、髪も体も洗い、湯舟に浸かる。
腕の中で身じろいだアキが、静かに瞳を開けていく。
「アキ」
「ん……王子様……?」
……都合のいいことは起きなかったようだ。
アキはまだ寝ぼけているようで、ただじっと俺のことを見上げている。
「……王子様……」
嬉しそうな、安心したような、そんな笑顔を俺に見せてくる。
「クリス、だ」
「王子様……」
「クリスと呼べと言っただろ?」
「………くり、す」
「そうだ」
「……クリス」
「ああ」
また、ふへ…と笑ったアキは、俺の胸元に額を押し付けてきた。
……本当に。どんなアキでも可愛いことに変わりはない。
「あつい……あったかい……?」
「風呂だからな」
「お風呂……」
まだぼうっとしていたアキは、きょろきょろと回りを見てから、改めて俺を見て――――一気に顔を赤く染め上げた。
「お風呂!?」
「暴れるな」
「え、や、ちょ、え、なんでぇ…!?」
と叫びながら、両手で顔を隠してしまう。
顔を赤くしていたが、もう耳も首筋も、すべてが赤い。
「信じらんない……風呂……お風呂……、王子様とお風呂……っ」
狼狽えぶりが新鮮で。
面白いからしばらくはこのまま様子を見ていようか。
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