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エルフの隠れ里

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「で?どこまで覚えてる?」
「……どこ……と、言われましても……」

 スカートの短いメイドなエルフさんに案内されるままに、とりあえずの自室に戻ってきた。
 メイドなエルフさんはお茶を淹れて、ちらっとクリスを見て頬を染めながら退室していった。ムカつく。そしてムカつく俺が意味不明。
 それで、とにかく気分を落ち着かそうとお茶を一口飲んだら、王子様に抱えられて、対面な状態で足の上に載せられた。……対面ですよ。向き合ってますよ。ちょっと視線を上げたらあのお顔がこっち向いてますよ。
 内心の「ひー!」って叫びが終わりません。
 ましろはむすっとしたまま、お茶と一緒に用意されてた果物食べてます。……助けて、ましろ。
 もうやだ。
 この王子様の距離感どうなってるのっ。
 いっそ顔をあげずにやり過ごそうと思っていたのに、顎を指でくいってされた。顎クイか。これが顎をクイか…!リアルでされると思ってなかったんですけど…!
 そして、じっと顔を見られたまま、冒頭の質問だ。
 正直、どこまで覚えてるかと問われても返答に困る。
 どこ…って、どこだよ。

「えっと……?」
「違うな。この世界に来たときのことは?」
「……起きたらましろがいました」
「あー……なるほどな。この世界に来た事自体覚えてないんだな」
「え…と?」
「日本で事故に遭ったことは?」
「え!?」
「十七歳の誕生日は?」
「この間終わりました……」
「アキは今何歳だ?」
「……十七歳の高校生……」
「……はぁ」

 でかい溜息をつかれた。
 いや、まて。溜息を付きたいのは俺の方だ。

「アキは今十八歳。ついこの間成人を迎えて、俺と婚姻式をあげた。今は新婚旅行中だ」
「し…………」

 新婚旅行!?
 いや、いやいや、まてまて。
 俺が覚えてる時から一年も経ってるし、婚姻式……って結婚式だよね?それをこの間終わらせた。この王子様と。

「嘘?」
「嘘を付く理由がない」
「……俺、日本人」
「知ってる」
「異世界から」
「知ってる」
「男で、子供は産めなくて」
「それも知っている。子はいらないと言っているが……、ああ、そうだな」

 王子様の顔が、ニヤリと笑った。
 この笑みは駄目なやつだと、本能が叫ぶ。

「近々、隣国のリーデンベルグの魔法研究所で、魔法薬の実験があってな?それが成功したらその魔法薬を貰い受ける手筈になっている。喜べ。俺たちの子ができるぞ?」
「え」
「アキが生んでくれるなら、何人いてもいい。……ここにいくらでも子種を注いでやる」
「え゛」

 王子様の手が、俺の下腹部をなでてきた。
 たったそれだけなのに、何故か体がゾクリとあわだって、触られた下腹部の奥がぎゅって何かを欲しているように切なくなってくる。

「……楽しみだな?」

 心臓がバクバクしてるのに、子種とか、子供とか。しかも、俺の知らない体の反応まで引き出されて、極めつけは唇を親指で撫でられたあとの、とても柔らかくて温かい感触だった。

 キスされた……って認識した瞬間、俺の意識は遠のいていた。






◆side:クリストフ

 アキが無事だったことは素直に喜べた。だが、こちらの世界に来るあたりからのことを全て忘れてしまっているというのは、当然喜べることではない。
 エントランスホールで数日ぶりに目にしたアキは、俺に他人のような接し方をしてくる。……それにどれほど傷ついたことか。もちろん、アキの責任ではないことは承知しているが、どうにも沸々とこみ上げる怒りは収まらない。
 俺を他人のように呼ぶアキ。隙きあらば離れていこうとするアキ。抱き寄せれば真っ赤になって狼狽えるアキ。口付ければそれ以上に赤くなり、心臓の音まで聞こえてくる。
 ……そんなアキの様子に溜飲が下がるまで、それほど時間はかからなかった。
 記憶として忘れていても、心も体も覚えている証拠だ。俺の胸によりかかりながら、どこかほっとしたような顔を見せることも、その証拠だ。……本人が気づいていなくとも、だな。

 それでもからかいたくなるのは許してもらいたい。
 願望のような魔法薬の話を持ち出せば、再び真っ赤になりながら否定はしてこない。
 下腹部を撫でてやれば、尻に力が入り、熱い吐息が漏れ出る。
 ……煽られるだろ。
 記憶がないからどうだと言うんだ。アキが俺の伴侶であり、唯一である事実は変わらない。その上、記憶をなくしてもアキは俺を意識しているのだから、全く何も問題はない。
 どれだけの感情を抑え込んで探していたと思う。お前になにかあれば、この地を灰にしているところだ。焦がれ焦がれ、ようやく取り戻した最愛。
 想いのままに口付けた。
 唇は以前と変わらない。
 舌を忍ばせても返ってはこないが、溜まった唾液は抵抗もなく飲み込んでいく。
 完全に力の抜けた体。
 抱き直し、唇を離すと、アキは気を失っていた。

「……アキ」

 苦笑が漏れてしまう。
 相変わらず華奢な体を抱き上げ寝台に運ぶと、幼児化したマシロが辿々しく後をついてきて、アキの隣に寝転ぶ。

「……アキを守ったんだな?」
「う」
「そうか。よくやった」
「う!」

 頭を撫でてやれば、マシロは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 仲が悪いとか、アキを取り合っているとか言われているが、アキを守るため…という点で言えば、俺とマシロは協力者同士、理解し合えるし認め合うこともできる。
 ……もちろん、アキに甘えすぎるマシロに対しては厳しくあたるが。

 マシロの反対側に寝転び、アキの左手を取った。
 どうしてこれだけ身につけたのか。
 俺とアキの色にの指輪に口付ける。

「……愛してるよ、アキ」

 早く、全て思い出せ、アキ。



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