65 / 216
エルフの隠れ里
11
しおりを挟む「で?どこまで覚えてる?」
「……どこ……と、言われましても……」
スカートの短いメイドなエルフさんに案内されるままに、とりあえずの自室に戻ってきた。
メイドなエルフさんはお茶を淹れて、ちらっとクリスを見て頬を染めながら退室していった。ムカつく。そしてムカつく俺が意味不明。
それで、とにかく気分を落ち着かそうとお茶を一口飲んだら、王子様に抱えられて、対面な状態で足の上に載せられた。……対面ですよ。向き合ってますよ。ちょっと視線を上げたらあのお顔がこっち向いてますよ。
内心の「ひー!」って叫びが終わりません。
ましろはむすっとしたまま、お茶と一緒に用意されてた果物食べてます。……助けて、ましろ。
もうやだ。
この王子様の距離感どうなってるのっ。
いっそ顔をあげずにやり過ごそうと思っていたのに、顎を指でくいってされた。顎クイか。これが顎をクイか…!リアルでされると思ってなかったんですけど…!
そして、じっと顔を見られたまま、冒頭の質問だ。
正直、どこまで覚えてるかと問われても返答に困る。
どこ…って、どこだよ。
「えっと……?」
「違うな。この世界に来たときのことは?」
「……起きたらましろがいました」
「あー……なるほどな。この世界に来た事自体覚えてないんだな」
「え…と?」
「日本で事故に遭ったことは?」
「え!?」
「十七歳の誕生日は?」
「この間終わりました……」
「アキは今何歳だ?」
「……十七歳の高校生……」
「……はぁ」
でかい溜息をつかれた。
いや、まて。溜息を付きたいのは俺の方だ。
「アキは今十八歳。ついこの間成人を迎えて、俺と婚姻式をあげた。今は新婚旅行中だ」
「し…………」
新婚旅行!?
いや、いやいや、まてまて。
俺が覚えてる時から一年も経ってるし、婚姻式……って結婚式だよね?それをこの間終わらせた。この王子様と。
「嘘?」
「嘘を付く理由がない」
「……俺、日本人」
「知ってる」
「異世界から」
「知ってる」
「男で、子供は産めなくて」
「それも知っている。子はいらないと言っているが……、ああ、そうだな」
王子様の顔が、ニヤリと笑った。
この笑みは駄目なやつだと、本能が叫ぶ。
「近々、隣国のリーデンベルグの魔法研究所で、魔法薬の実験があってな?それが成功したらその魔法薬を貰い受ける手筈になっている。喜べ。俺たちの子ができるぞ?」
「え」
「アキが生んでくれるなら、何人いてもいい。……ここにいくらでも子種を注いでやる」
「え゛」
王子様の手が、俺の下腹部をなでてきた。
たったそれだけなのに、何故か体がゾクリとあわだって、触られた下腹部の奥がぎゅって何かを欲しているように切なくなってくる。
「……楽しみだな?」
心臓がバクバクしてるのに、子種とか、子供とか。しかも、俺の知らない体の反応まで引き出されて、極めつけは唇を親指で撫でられたあとの、とても柔らかくて温かい感触だった。
キスされた……って認識した瞬間、俺の意識は遠のいていた。
◆side:クリストフ
アキが無事だったことは素直に喜べた。だが、こちらの世界に来るあたりからのことを全て忘れてしまっているというのは、当然喜べることではない。
エントランスホールで数日ぶりに目にしたアキは、俺に他人のような接し方をしてくる。……それにどれほど傷ついたことか。もちろん、アキの責任ではないことは承知しているが、どうにも沸々とこみ上げる怒りは収まらない。
俺を他人のように呼ぶアキ。隙きあらば離れていこうとするアキ。抱き寄せれば真っ赤になって狼狽えるアキ。口付ければそれ以上に赤くなり、心臓の音まで聞こえてくる。
……そんなアキの様子に溜飲が下がるまで、それほど時間はかからなかった。
記憶として忘れていても、心も体も覚えている証拠だ。俺の胸によりかかりながら、どこかほっとしたような顔を見せることも、その証拠だ。……本人が気づいていなくとも、だな。
それでもからかいたくなるのは許してもらいたい。
願望のような魔法薬の話を持ち出せば、再び真っ赤になりながら否定はしてこない。
下腹部を撫でてやれば、尻に力が入り、熱い吐息が漏れ出る。
……煽られるだろ。
記憶がないからどうだと言うんだ。アキが俺の伴侶であり、唯一である事実は変わらない。その上、記憶をなくしてもアキは俺を意識しているのだから、全く何も問題はない。
どれだけの感情を抑え込んで探していたと思う。お前になにかあれば、この地を灰にしているところだ。焦がれ焦がれ、ようやく取り戻した最愛。
想いのままに口付けた。
唇は以前と変わらない。
舌を忍ばせても返ってはこないが、溜まった唾液は抵抗もなく飲み込んでいく。
完全に力の抜けた体。
抱き直し、唇を離すと、アキは気を失っていた。
「……アキ」
苦笑が漏れてしまう。
相変わらず華奢な体を抱き上げ寝台に運ぶと、幼児化したマシロが辿々しく後をついてきて、アキの隣に寝転ぶ。
「……アキを守ったんだな?」
「う」
「そうか。よくやった」
「う!」
頭を撫でてやれば、マシロは嬉しそうに顔を綻ばせた。
仲が悪いとか、アキを取り合っているとか言われているが、アキを守るため…という点で言えば、俺とマシロは協力者同士、理解し合えるし認め合うこともできる。
……もちろん、アキに甘えすぎるマシロに対しては厳しくあたるが。
マシロの反対側に寝転び、アキの左手を取った。
どうしてこれだけ身につけたのか。
俺とアキの色にの指輪に口付ける。
「……愛してるよ、アキ」
早く、全て思い出せ、アキ。
97
お気に入りに追加
2,283
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!
ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。
僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。
僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。
えへへ。
はやくニールと結婚したいなぁ。
17歳同士のお互いに好きすぎるお話。
事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。
ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。
_______________
*ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。
*短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。
*不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。
*甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる