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エルフの隠れ里
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しおりを挟む「ましろ……って、獣人じゃないの?」
つぶやいた声は全員に聞かれてた。
俺、普通に獣人だと思ってたけど、違うの?
「前にも聞かれたな。…その種族は存在してないんだよ、アキ」
「そう……なんだ…、ですか?」
「……」
言い直した俺に、王子様がちょっとムッとした…。そんな顔されても困る。俺だって困ってるんだからっ。
「あーきーっ」
王子様に掴まれてたましろが、俺に手を伸ばして来る。あああ、可哀想だから、俺に抱っこさせて!
「ましろ」
「あーきー!」
「……全く」
溜息をついて、王子様はましろを俺の腕の中に戻してくれた。
よかったぁ~。ふわふわだよ、ましろ、ふわふわだよ……!
「こんなにふさふさの耳と尻尾……。なのに獣人じゃないなんて……」
「確かに殿下の仰るように、ここには存在しておりませんね。長い歴史の中でそういった種族が失われたという記憶もありません」
族長さんなお父上がそう断言された。……なら、やっぱりそうなんだ。
「じゃ、ましろって、そもそもこの姿じゃないの…?」
「あきー?」
「……マシロ、戻れ」
「うー!や、ぅりーす、やぁ、の!」
「ほう?」
「ぅー…」
王子様にキラリと睨まれたましろは、耳を伏せてぷるぷるし始めた。
こんな小さな子いじめないでよ……って口を開こうとしたとき、腕の中にいたましろが一瞬でとても小さな子猫になっていて、口を開けたまま固まってしまった。
「みゃぁ…」
大きな赤い瞳に、ふわふわの耳と尻尾。真っ白な体は確かに名前通り。
「え……ましろ?」
「みゃ」
うりうりと小さな頭を俺のお腹にこすりつけて、ぺたりとしがみついてくる子猫。
え、嘘。すごい可愛いんだけど……!幼児なましろも可愛かったけど、子猫なましろも可愛い…!!
「ましろ、可愛い……!!」
「みゃ」
「どっちのましろも大好きだよ。当たり前じゃん。もうなんでこんなに可愛いの!」
「みゃぁ」
ましろも嬉しそうに尻尾を揺らしてた。
可愛い可愛いと頬ずりしてたら、いきなりましろの体が浮いた。
「みっ」
「え」
「だから、構いすぎだと言っている」
言われてないよ!?
機嫌の悪そうな王子様が、ましろの首の後ろをつまみ上げて俺から引き剥がした。
「みっ、みっ」
じたばたするましろ。
子猫の首の後ろは、親猫が咥えて運べるように皮が厚くなってるとか痛みはないとか、色々聞いたことはあるけど、それにしたって…!
「ましろ…っ」
「みっ」
一際大きく尻尾を振り上げたましろが、王子様の手を離れて俺の膝の上に着地した。……幼児の姿で。
「あーきー!ぅーり、いーじ、るー!!」
「いじめてない。アキに甘えすぎるお前が悪い」
「あきー、しゅきー!あー、えるの、いー!」
「駄目だ」
「うーうー!ぅーり、す、わる!!」
「アキは俺の伴侶だと何度言えばわかる」
「うーうーうー!」
……俺、ましろがなんて言ってるのか、半分も理解できないのに。なんで王子様とましろ、こんなに通じ合ってるんだろう……。
首を傾げていたら、後ろで息を詰めたような音が聞こえたから振り向いた。そしたら、明るい茶色の髪の人が、明らかに笑いをこらえて肩を揺らしてた。
その人は俺と目が合うと、何度か深呼吸をして、困ったように笑いながら、「あまりにもいつもと同じで…すみません、アキラさん」と謝った。
……これ、そんなにいつもの光景なんだ?
まあ、でもその人の笑い声で場が一気に和んだ。言い争いをしてたましろと王子様も黙ったし、俺も改めてお茶を飲む余裕ができた。
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「ああ……すまなかった、リウネス殿。大体のことは理解した。アキの状態が戻るまではこちらへの滞在を許可していただきたいのだが」
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「ああ、よろしく」
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……と、気づかれないうちにさっさと足からおりて退散しようとしたのに、腰を掴まれてまたもや逃亡阻止された。
しかも。
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……という、呆けから若干戻ったアルフィオさんが言い始めて、俺、真っ白になった。
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……なんと。
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「それはいけませんね…。アルフィオ、すぐご案内を」
「はい」
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