魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
64 / 216
エルフの隠れ里

10

しおりを挟む



「ましろ……って、獣人じゃないの?」

 つぶやいた声は全員に聞かれてた。
 俺、普通に獣人だと思ってたけど、違うの?

「前にも聞かれたな。…その種族は存在してないんだよ、アキ」
「そう……なんだ…、ですか?」
「……」

 言い直した俺に、王子様がちょっとムッとした…。そんな顔されても困る。俺だって困ってるんだからっ。

「あーきーっ」

 王子様に掴まれてたましろが、俺に手を伸ばして来る。あああ、可哀想だから、俺に抱っこさせて!

「ましろ」
「あーきー!」
「……全く」

 溜息をついて、王子様はましろを俺の腕の中に戻してくれた。
 よかったぁ~。ふわふわだよ、ましろ、ふわふわだよ……!

「こんなにふさふさの耳と尻尾……。なのに獣人じゃないなんて……」
「確かに殿下の仰るように、ここには存在しておりませんね。長い歴史の中でそういった種族が失われたという記憶もありません」

 族長さんなお父上がそう断言された。……なら、やっぱりそうなんだ。

「じゃ、ましろって、そもそもこの姿じゃないの…?」
「あきー?」
「……マシロ、戻れ」
「うー!や、ぅりーす、やぁ、の!」
「ほう?」
「ぅー…」

 王子様にキラリと睨まれたましろは、耳を伏せてぷるぷるし始めた。
 こんな小さな子いじめないでよ……って口を開こうとしたとき、腕の中にいたましろが一瞬でとても小さな子猫になっていて、口を開けたまま固まってしまった。

「みゃぁ…」

 大きな赤い瞳に、ふわふわの耳と尻尾。真っ白な体は確かに名前通り。

「え……ましろ?」
「みゃ」

 うりうりと小さな頭を俺のお腹にこすりつけて、ぺたりとしがみついてくる子猫。
 え、嘘。すごい可愛いんだけど……!幼児なましろも可愛かったけど、子猫なましろも可愛い…!!

「ましろ、可愛い……!!」
「みゃ」
「どっちのましろも大好きだよ。当たり前じゃん。もうなんでこんなに可愛いの!」
「みゃぁ」

 ましろも嬉しそうに尻尾を揺らしてた。
 可愛い可愛いと頬ずりしてたら、いきなりましろの体が浮いた。

「みっ」
「え」
「だから、構いすぎだと言っている」

 言われてないよ!?
 機嫌の悪そうな王子様が、ましろの首の後ろをつまみ上げて俺から引き剥がした。

「みっ、みっ」

 じたばたするましろ。
 子猫の首の後ろは、親猫が咥えて運べるように皮が厚くなってるとか痛みはないとか、色々聞いたことはあるけど、それにしたって…!

「ましろ…っ」
「みっ」

 一際大きく尻尾を振り上げたましろが、王子様の手を離れて俺の膝の上に着地した。……幼児の姿で。

「あーきー!ぅーり、いーじ、るー!!」
「いじめてない。アキに甘えすぎるお前が悪い」
「あきー、しゅきー!あー、えるの、いー!」
「駄目だ」
「うーうー!ぅーり、す、わる!!」
「アキは俺の伴侶だと何度言えばわかる」
「うーうーうー!」

 ……俺、ましろがなんて言ってるのか、半分も理解できないのに。なんで王子様とましろ、こんなに通じ合ってるんだろう……。
 首を傾げていたら、後ろで息を詰めたような音が聞こえたから振り向いた。そしたら、明るい茶色の髪の人が、明らかに笑いをこらえて肩を揺らしてた。
 その人は俺と目が合うと、何度か深呼吸をして、困ったように笑いながら、「あまりにもいつもと同じで…すみません、アキラさん」と謝った。
 ……これ、そんなにいつもの光景なんだ?
 まあ、でもその人の笑い声で場が一気に和んだ。言い争いをしてたましろと王子様も黙ったし、俺も改めてお茶を飲む余裕ができた。
 おでこを赤くしたアルフィオさんは呆けたように俺の後ろを見ていたけれど、お父上の怒気は少しは和らいだらしい。
 ……アルフィオさん、何見てるんだろ?

「殿下」
「ああ……すまなかった、リウネス殿。大体のことは理解した。アキの状態が戻るまではこちらへの滞在を許可していただきたいのだが」
「ええ、それはもちろんです、殿下。この屋敷で、精一杯饗させていただきます。もちろん、殿下のお付きの方々にも、おくつろぎいただけるよう手配いたしますので」
「ああ、よろしく」

 お泊り決定ですね~。そうですか。じゃあ、話し合いは終わりですよね?俺、ましろと一緒に部屋に戻っていいですよね?
 ……と、気づかれないうちにさっさと足からおりて退散しようとしたのに、腰を掴まれてまたもや逃亡阻止された。
 しかも。

「アキラ殿には夫婦用の部屋を使っていただいてますので、殿下もそちらをお使いください」

 ……という、呆けから若干戻ったアルフィオさんが言い始めて、俺、真っ白になった。
 ……夫婦用の部屋とか聞いてない。
 確かに、ちょっと部屋が広くて、ちょっとベッドが大きくて、ちょっと浴槽が広くて、一人で過ごすには広すぎる、大きすぎると思ってはいたけど。

「なら、そちらで休ませていただく。……アキの魔力が減っているんだ」
「……なんと」

 ……なんと。
 お父上の真似じゃないけど。
 俺の魔力ってなんのことだ。
 あ、それより、魔力暴走したとか言ってた?魔力って、魔法使うための力的なあれ?俺にあるの?その魔力ってのが?

「暴走した影響だろう。このまま放置したら寝込んでしまうからな」
「それはいけませんね…。アルフィオ、すぐご案内を」
「はい」

 お父上とアルフィオさんが立ち上がり、再び王子様がましろを小脇に抱え(当然ましろは大暴れしてる)、俺を縦抱きにして立ち上がった。

「あ、歩けますから……!」
「駄目だ」

 歩くの駄目ってことはないでしょ!?俺、高校生よ!?立派な十七歳よ!?

「あ、あの…!?」
「大人しくしろ」

 ……と、頬に、ちゅ、と、され。
 大人しく、した。



しおりを挟む
感想 287

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...