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エルフの隠れ里
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しおりを挟む「アキ……!!」
「え……」
目が合った瞬間、その人は俺に一直線に近づいてきて、俺が何かを言う前にぎゅむ…って抱きしめてきた。
「ちょ」
「よかった……心配したんだ」
耳元の声に背中がゾクリとする。
「アキ……っ」
「ちょ………ちょっと待って……!!」
ぐいって両腕に力を入れて胸を押し返した。
至近距離で見るイケメンの破壊力よ。
銀髪の彼はそれはそれは王子様!って感じの雰囲気で、ほんとに俺のことを心配してるのか、顰められた眉や、細められた目元に、俺の心臓がドクドクなり始める。
「どうした?………アキ?」
指が、俺の右の耳をいじる。
確かめるように、何度もふにふにと触ってくるから、俺はうひーってなって、目をぎゅっと瞑ってしまった。
「耳飾りはどうした?」
「え……えと……っ」
「指輪はしてるのか。他の物はどうした。聖鳥の羽根は?珊瑚の髪飾りは?何故ブレスレットをしていない?……誰に外された?」
「あ、あの」
は、ハズシてくれたのは、多分、多分、俺のことをお世話してくれた人!多分、あのスカートの短い多分メイドさんみたいなあのエルフの女の人!
多分が多すぎるけど!
「アキ」
「ひっ」
顔、顔が近いから!両手で頬を包まれて、心臓やばいから!!死にそうだからその手離してっ。
王子様みたいな王子様な人が、俺をじっと見てくる。
ど、どうしよう。ほんとにどうしようっ。心臓壊れて死ぬ……!
「めー!ぅ!りしゅ!!め!!」
ひーって内心叫び続けていたら、俺の足元でましろがズボンを引っ張り始めた。
足元の方に視線を落としてましろを見たら、頬を真っ赤にして怒った顔で、三本の尻尾が一生懸命王子様の足を叩いてる。
「めぇ!!」
「ま」
「お前、マシロか」
ましろのこと知ってた!
王子様は俺から手を離すと、俺の足にしがみついていたましろを引き剥がして、視線の高さまで抱えあげる。
「……何が起きた?」
俺と、ましろを交互に見て。
ついっとばたばたするましろを小脇に抱えてまた俺の頬に手を伸ばしてきて。
「私からご説明させていただきます。クリストフ殿下」
って、お父上がとても優雅にお辞儀をしていた。
……もうちょっと早く声をかけてほしかった。
客間に移動した。
移動………した。
お父上が「こちらに」って促してくれたとき、助かった……!と思った俺は浅はかだった。王子様は小脇にましろを抱えて、あっさりと片手で俺を縦抱きに抱き上げてしまったんだ。
いきなり視線が高くなって王子様の頭に抱きついたら、「ふふ」って笑われるし、恥ずかしすぎるし逃げたかったのにびくともしない腕だったし、高校生がこんな抱えられ方ー!!って思う反面、なんか妙にしっくり来てしまって、そのことに気づいて余計に項垂れてしまったし…。
そして見事に客間まで運ばれた。口から魂でてたかも。
そして到着した客間では、促されたソファに降ろされて、ピタリとくっついてくる王子様、そして、王子様の左腕はがっちりと俺の腰に回された。……逃げられない。
ましろは王子様の腕の中から逃げ出して、俺の足の上に座ってぎゅむって抱きついてる。唯一の心の癒やし……。
王子様と一緒に来ていた人たちは、ソファの後ろに立っていた。特に何も声をかけられたりはしてないけど、明るい茶髪の人が、すごく心配そうに俺を見てた。
テーブルを挟んだ向こう側のソファには、お父上と、体を縮こませたアルフィオさんが座っていた。
特に指示を出すことなく、例の短いスカートのエルフさんの女の人が、みんなにお茶を用意していく。
……途中、ちらりと王子様を見て頬を赤らめていた。……なんか、ムカつくんですけど。何故ですか。
自分の謎の苛立ちとか、腰に回った腕への羞恥心だとか、とにかく自分の気持ちを落ち着かせるために、お茶を一口飲んだ。……ああ、美味しい。
それにしても、ここまでぴったりと寄り添われても、俺、嫌じゃない。ただ恥ずかしいだけで。どうしよう。俺、明らかにこのイケメン王子様のこと、嫌ってない。
じゃあやっぱり俺が結婚したっていう相手はこの王子様なのかなぁ。さっきお父上が『クリストフ殿下』って呼んでたから、『くりす』と合致するし、指輪の『C』にも当てはまる。
それに、このイケメン王子様の俺に対する態度。これってもう、決まりなんじゃ……。
「私はこの集落『テレジオ』の族長、リウネス・ジルド・テレジオであります。エルスター第二王子殿下。此度は私の愚息が貴殿の伴侶殿を拐かしたこと、深くお詫び申し上げます」
お父上の言葉。直後に、ドゴン!って盛大な音を立てて、お父上がアルフィオさんの頭をテーブルに押さえつけていた。痛い…。
そして、ん、これ確定した。
この王子様、ほんとに俺の旦那様だった。
*****
「……マシロ、なんで幼児の姿に?」
「殿下、相変わらず嫌われてますね…」
「な、なんで尻尾が三本なんですか!?」
お付きの三人の心の声。
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