魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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エルフの隠れ里

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「あーきー?」
「………ん」

 ふわふわの何かが触れる。
 …ふわふわ、気持ちがいい。

「ねーね?」
「………んー…?」

 まだ寝ていたい。
 でも一生懸命俺を起こそうとしているふわふわがいるらしくて、おもわずそのふわふわを両腕の中に閉じ込めた。

「あーきー」
「ん」

 小さな手が俺の頬を叩く。
 どうしても俺を起こしたいその仕草に、眠たい目をなんとか開けた。

「あーき」

 目の前に、にぱっと笑う幼い子がいた。
 ふわふわの白い髪。真っ赤な瞳。それから、頭の上に。

「……耳?」

 猫っぽい大きなふさふさの耳が生えていた。
 あー……、これは夢だ。夢に違いない……と、目をギュッと閉じて寝直そう…と思ったけれど、耳が生えた白い幼子が、何度も俺の頬をペチペチ叩いてくるから寝れもしない。
 諦めてまた目を開けると、やっぱり嬉しそうに笑ってる。
 そして、俺の体をふぁっさふぁっさと叩いてるのは、これまた立派な真っ白いふわっふわな三本の尻尾だった。
 ……あー……、ふわふわの何か気持ちいいものの正体これだったのか……。

「……えと、獣人……?……や、そんなわけ、ない、よね?」

 ゲームでもあるまいに。
 やっぱり夢だよ。夢じゃなきゃなんだって言うんだろう。

「あーき?」
「ええと……」

 さて、どうしたものか。
 意外と自分が冷静だな…なんて思いながら周りを見る。
 薄い緑色のレースのカーテンのかかったベッドの上にいるらしいけど、これつまり、天蓋付きのベッドってことだよね。初めて見たわ。こんな豪華なベッド。

「……こんなん、ますます夢じゃん……」

 現実だなんてありえない。よくできた夢。そう思おう。

「あーき」

 そして何故か俺にとても懐いてるように見える獣人。猫……か?でもなんで尻尾多いの。

「えっと、名前、ある?」

 ふは。
 謎の片言になった。
 真っ白な猫?獣人は、きょとんとしたつぶらな瞳を折れに向けて、こてんと首を傾げた。
 ううう。可愛いな。その仕草、めちゃ可愛いな!!

「まーえ?」
「な・ま・え。俺は瑛。あー……、君は俺の名前は知ってるんだ。うん。あき、って呼んでるもんな」

 多少間延びしてるけど。

「まーろ」
「まろ?」
「むう」

 ……なんか、ほっぺた膨らませた。この幼児…幼獣…、ほんと可愛いな…!!

「ま、ろ!」
「まろ」
「むむむぅ!」

 ……『まろ』としか聞こえないのに、違うらしい。多分。怒ってるから。

「まぁ、ぃろ!」
「まいろ」
「むむむむむ!!!」

 ……店の掛け声みたくなったけど、それも違うらしい。

「ま」
「ま」
「いぃ!」
「い?」
「むうううう!!!」

 ……『い』が違うらしい。幼児には発音しにくい音なのかな……。

「いー」
「いー」
「すぃー」
「スぃー?………し?」
「すぃ!!」
「んーと、ましろ?」
「にゃ!!!」

 にゃ、って。
 尻尾全力で振ってて、可愛すぎて悶え死にそう。

「そっか。ましろね。ましろ。うん、似合ってるよ、名前」

 見たまんま。
 けどそれが可愛い。

「……リアルな夢……」

 ましろの頭をなでてる感触とか、ましろが俺に乗っかってくる重みとか。
 なんか、もう、寝るって感じじゃないから、ましろを抱っこしながら起き上がった。
 サラサラの肌掛けが落ちていくと、俺が着ているものも目に映る。

「……うわっ」

 ホテルとかのシャツワンピみたいなものを着ていた。
 随分と裾は長くて、肌掛けと同じようにさらさら生地だけど、バチバチな静電気は起きてない。
 けど、長い袖口や、襟元は、何故かたくさんのレースなフリル……。これ、高校生男子な俺が着てるのは、痛いだけなのでは。
 天蓋付きのベッドといい、こんなふりふりな寝間着といい、ほんと、ここ、どこ。

「よいしょっと」

 ましろを床に立たせてみると、ましろはふわふわな生地の白いワンピースだった。うん。ましろは可愛い。
 尻尾はワンピースの裾から出てるけど。

「ましろ、ここどこ?」
「えーふ」

 うむ。
 相変わらずわからない。
 ましろを抱き上げると、きゅっと首に抱きついてきた。

 ……あれ。

 なんだろう。
 変な既視感がある。
 はて…なんだろうな、なんて考えながら、部屋のドアに手をかけてみた。
 鍵でもかかってるのかな…と思ったけど、それもないらしく、ドアは普通に開いた。
 どうやら監禁されてるわけではないらしい。

 足元が裸足だから、ペタペタ音がする。
 ……ん。どう考えても夢の感触じゃない。
 もう現実として受け入れればいいんじゃないのかな。

 受け入れるのはそれでそれでいいけど、じゃあここはなんなんだ…って答えは全然得られない。
 ましろはどう見ても獣人の子供だから、獣人がいる世界……異世界に紛れ込んだ、ってことだろうか。
 ラノベで最近よく見る設定だよなぁとか呑気に考えながら、適当な部屋のドアを開けてみた。

「「あ」」

 そしたら、人がいた。
 部屋の中にいた人も俺を見て驚いたようで、カップを口元に運んだ状態で固まってた。

「あ、えと、はい、すみませんでした」

 言葉が通じるのかわからないけれど、とりあえず見なかったことにしよう…とドアを閉めて、はっと気づいてドアにまた手を伸ばしたとき、ドアがいきなり開いて額に激突するところだった。

「あっぶな……っ」
「よかった。目覚めたんですね」
「……へ?」

 部屋の中で固まってた人が、ホッと息をついた。
 うん。
 俺の見間違いじゃなかった。
 耳が尖ってる。
 この人、多分、エルフな人だ――――。



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