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新婚旅行は海辺の街へ
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しおりを挟む露店とかが出てた通りまで戻った。
すれ違う人が俺の頭を見てぎょっとしたり、笑ったり、まあ忙しい。マシロ、そろそろ肩に戻らないかな。
海藻の宝石っていうのがどうしても気になって出向いたら、ちゃんとお店が開いてて安心した。
でも宝石店は露店ではなくてちゃんとした店舗だ。俺の頭にへばりついていると言っても動物の連れ込みは許可されるかな…。
「マシロ、とりあえずこっちにおいで」
「み」
頭の上からマシロを引き剥がして腕の中に抱えた。ちょっと乱れた髪は、クリスが手で直してくれる。
「爪たてないの」
「み」
「わかったから。海はいかないから。それなら大丈夫でしょ?」
「み…」
大きな赤い瞳がうるうるしながら俺を見上げてきた。
……くっ。可愛いな……!
俺が海にいかないと言ったのでちょっと安心したらしいマシロは、俺の服から前足を離して胸元に頭をこすりつけてきた。ん。甘えてる時の仕草。
「甘えすぎ」
って、リラックスしたマシロを、クリスがつまみ上げて宝石店の中に向かってしまう。
「クリスっ」
「みっ」
尻尾で抗議してるマシロに、クリスは動じてない。……いつものことだしなぁ。
あわあわとクリスの手からマシロを奪還すると、またぐりぐりと頭をこすりつけてきたけど、すぐに頭を離して俺の腕の中で大人しくなった。
宝石店の扉を開けると、「いらっしゃいませ」って男性の声がした。クリスが子猫を中に入れてもいいか尋ねると、俺の腕の中で大人しくしてるマシロを男性がまじまじと見て、それから、クリスと俺をまじまじと見て、にこりと笑った。
……あ、これ、品定めされた感じ。
「構いませんよ。大人しい子のようですし」
こう……手揉みとかしてそうな感じ。
こういう人苦手なんだよね…と思いつつ、クリスの傍にピタリとついてお店の中に入った。
クリスは俺を見て微笑んで、腰に手を回してくる。
ざっと店内を見回した。
照明も明るいし、窓も大きいから、とにかく店内が明るい。
テーブルや陳列棚をよく見ると、恐らく珊瑚とか真珠みたいなもので作られたアクセサリーが並べられてた。
「あー…、そか。珊瑚か……」
海藻……とは違うけど、昆布とかの海藻が認識されてないなら、海の中にあるものってことで一纏めにされてるってことか。
「坊ちゃまは珊瑚をご存知なので?」
……坊っちゃんの次は坊ちゃまになりました。
「知ってる程度……ですかね」
「それはそれは」
なんだか手揉み感(実際手揉みはしてないけど)が強くなったぞ。
「色が多いんだな」
「うん。綺麗。俺が見たことあるのは赤味の強い桃色だったけど」
黄色とか緑とかもあるんだ。カラフルだ。
他にも普通の宝石と思しきものも取り扱っているらしいけど、俺には宝石の価値はわかんないから、興味を持てない。
むしろ、珊瑚ってほんと色んなのがあるなぁ…って、感心しながら棚を見て歩いた。
「あ」
そして見つけた俺の大好きな色。
髪留めらしいけど、大きくはなくて華美じゃない。ちょこんと小さめの真珠もつけられていた。
海の中にもクリス色があったんだ。
俺がそれに目を奪われていると、クリスはくすっと笑って腰に回していた手に力を込めた。
「気に入った?」
「えー……と」
だって、クリス色なんだよ?気に入らないはずないじゃん。
クリスは右手でそれを持ち上げて、俺の右耳の上に当てた。
そしたら、目元がやたら優しくなる。
「いいな」
その笑顔に見惚れてしまう。
思わずほけっとその顔を見ていたら、更に笑ったクリスが俺の額にキスを落とした。
「店主、これを」
「はい。ありがとうございます。坊ちゃまにとてもお似合いですよ。今お付けしますか?」
「ああ」
店主さんらしい男性は、クリスの手からそれを一度受け取ると、値札を外して改めてクリスに渡してた。
「アキ」
クリスが俺の右の耳を撫でた。…ぞわっと背筋がざわめいたのは、ばれてはいない……はず。
付けていたピンを外されて、器用な手付きでクリスがそれを俺の髪につける。
クリス色の珊瑚の髪飾りをつけた俺を、クリスは満足そうに見ていた。
「ありがと」
クリス色のものが増えるのは純粋に嬉しい。嬉しすぎてクリスの左腕に右腕でぎゅっと抱きついた。
その後も店内を見て回った。
メリダさんとティーナさんへのお土産をどうしようかなって考えながら。メリダさんへのお土産は何気にブローチが多いような気がするし、ティーナさんにアクセサリー系は、赤ちゃんが生まれたあと抱っことかするときに邪魔になるかもしれない。…でも、折角海に来てるんだから、海らしいお土産を用意したい。
うーんうーんと悩んでたら、クリスが、店はここだけじゃないから、って耳もとで囁いてくれて、俺は頷いた。
そうだよね。何もここだけで全部用意しなきゃならないわけじゃないんだから。
やったらニコニコな店主さんに見送られながら、宝石店をあとにする。もしかして、この髪飾り、結構高かったのでは……?それで上客と思われてる……とか?
値段見てなかったなぁ…と反省してたんだけど、クリスが俺を見るたびに満足そうに笑うから、なんか、深く考えなくてもいいような気がしてきた。
リシャルは意外と広くて、色々な店があった。馬車から見てたときには気づかなかったけど、染め物とか焼き物なんかもあった。
お昼は昨日とは違う所に適当に入った。
王都と違って、クリスはそれほど顔ばれしていないようで(漁師のおじさんたちも騎士だと思ってたみたいだし)、不躾な視線も声もかけられていない。まあ、お貴族様扱い、ってところかな。
そんなお貴族様に見られてるぽいクリスの隣りにいる俺は、どんなふうに見られているんだろう。
時々、綺麗なお姉さん方が、クリスを見て声をあげてるのを聞いたし、見た。
声をかけてくる人は今のところいないけど。
「アキ」
肩を並べて食事をして、デザートに選んだケーキをフォークに乗せて、俺の口元に運ぶクリス。
ちょっとギラギラしたお姉さん方の視線を感じながら、俺は口を開けてそれを食べる。
「ん、美味しい。クリスも。はい」
お返しに同じようにクリスにも。
ずっと笑顔のままのクリスは、目を細めて俺が向けたケーキを食べてくれた。
「美味いな」
って、俺の唇の端っこを親指で拭って、それも口にしてしまう。
途端、周囲から溜息が聞こえてきたけど、大丈夫。
この人は俺の旦那様だからね!……って内心叫びながら、次の一口をクリスの口元に運んだ。
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やっと新婚旅行ぽくなりました……^_^;
応援ありがとうございます!
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