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新婚旅行は海辺の街へ
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しおりを挟むなんか、クリスと出かけると何かを食べてることが多い気がする。
「ごちそうさまでした!美味しかった!」
「そりゃよかったです。俺たちも感謝ですよ。これがこんな使い方できるなんて、今まで気づきもしなかったんですからね」
「俺も欲しかったもの手に入ったから」
俺も感謝だよ。
リアさんよりも先に使っちゃったけど。
「乾燥させておけば長持ちするよな?」
「そうだね?」
クリスは俺を膝の上に載せたまま、何やら考え始めた。
「アキ、これは海の中にあるものなのか」
「うん。打ち上げられてるんだから、多分、このあたりにもあると思うよ」
「…海に潜ることは可能か?」
とは、漁師さんたちに。
漁師さんたちは少し考え込んでいた。
「可能と言えば可能ですね。ですが、海の中だと目を開けられないので」
「ああ……そうか」
ゴーグル、ないもんねぇ。
「どうしたのさ、クリス」
「いや、安定供給ができるなら、城で買い取るのもありだと思ったんだ。乾燥させるものなら、運送中に傷むこともないだろうからな」
「あー……、そっか。そしたらいつでも使えるもんね」
「……しろ?」
「うん。お城。今俺がもらった分は友人へのお土産なんだけど、料理長さんにも届けたら、きっとしっかり使ってくれると思うし、多分陛下やティーナさんの体にもいいと思うんだよなぁ」
……と、そこまでぶつぶつ言ってたら、おじさん、見事に固まった。
「あ、あの、坊っちゃんと騎士様は、お城に仕える方で?」
「え?あー、うん。クリスは第二王子だよ。俺は………、えっと」
「俺の伴侶だろ?」
「……ぁい、そうです」
自分から主張するのは気恥ずかしくて言い淀んでいたら、クリスが俺の頬にキスをしながら言ってきた。
人前は恥ずかしいから駄目だって。
あうあうしてたら、あちこちでみんなが手に持ってた器を落とした。
「?」
「あ、あの、も、申し訳あり…、ございません!!」
って、一斉に頭を下げてきた。
え、なんで?
「王子殿下とその伴侶様と知らず……、その……っ」
…フランツさん、その辺の説明してなかったのか。
別にいいのに。
俺のことなんて坊っちゃん、で。
「いい。気にするな。アキも気にしないだろう」
「え?うん。全然。今まで通りで全然いい。むしろ、俺のほうが年上の大人のおじさんたちにタメ口で馴れ馴れしかったかも。ごめんなさい」
「いやいやいやいや!?坊っちゃん……伴侶様がそのようなことを……っ」
「いや、だから、坊っちゃん、でいいので」
「駄目ですよ!」
「いいの!」
「駄目です!!」
「いいんだってば!!」
お互いに一歩も譲らず。
でも、すぐに吹き出して、大笑い。
「もう坊っちゃんでいいですね」
「うんうん」
「殿下と坊っちゃんに期待されてるのなら頑張らなきゃですね」
「え。無理はなしだよ?」
「ええ。本業もしっかりやらないと生活にも困りますからね。海の中でも目を開けていられれば……」
「目の周りを覆うような道具とか……。もし、場所がわかれば、なんか長い棒の先端に引っ掛ける道具つけたりしたら、船の上からでもとれないかな?ひっかけて、引っ張る、みたいな」
「なるほど」
「引っ張り上げたら砂浜とかで干せばいいよね。少しくらい砂がついてても、洗って使えばいいし」
思いつくだけのことを口にしただけなのに、漁師さんたちはそれでも真剣に聞いてくれた。
これはもしかして、リシャル産乾燥昆布の爆誕の瞬間なのでは。
「生産できるようになったら、王都の城に俺を訪ねてくればいい。万が一俺が不在のときは、料理長に話を通しておく」
「あ、ありがとうございます……!」
「期待してるね、おじさん!」
「ええ、頑張りますよ、坊っちゃん!」
他の漁師さんも『おー!』とか『やった!』とか叫び始めて、頭の上のマシロがビクリと震えてた。
「アキ、そろそろ行こうか」
「あ、うん。それじゃ!お魚と昆布ありがとうございました!」
「いつでも来てくださいよ」
「はい!」
おじさん筆頭に漁師さんたちからも手を振られたから、俺も振り返した。
クリスは至極当然…って顔で革袋と俺を抱えてる。
「料理長さんに昆布のこと伝えないとね」
「そうだな」
浜から離れて人影がなくなったあたりで、クリスポーチの中に革袋を入れた。…しかしこのポーチ、よくよく考えると中身がかなりカオス。
「クリス、これ使いにくくない?」
「なぜだ?」
「やぁ……、なんか、ほんとに色々突っ込んでるから、出すときに困ったりしないのかなって」
「そのあたりは問題なさそうだな。欲しい物が手に触れるから」
「そういう感じなんだ……」
改めて感心してると、クリスが笑って俺の頬をなでた。
「お前が作ったものなんだがな?」
「あー、うん。そうなんだけど、俺自分では使ったことがないというか」
中覗き込んだらどうなってるんだろう。
「クリスが使いやすいなら、それでいっかな…」
首を傾げてたら、クリスは笑ったまま俺の耳元に顔を寄せてきた。
「まあ、今ではこれがないと不便だな。…お前に使うものも入れてあるからな?」
「ふぁ……っ、耳、耳、やめて…っ」
やめてって言ってるのに、くすって笑ってべろって舐めてくるし!
「う~~~っ」
「万が一どこで汚しても、すぐに綺麗にできるしな?」
「も~~~!!」
顔が、あっついんですけど!
ぐいぐいクリスの胸を押して離れようとしても、また縦抱きにされて離れることはできなかった。
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