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新婚旅行は海辺の街へ
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しおりを挟む「魚、更に左から五匹。オットーさんとザイルさん、お願いします!クリス、中央四匹!右側五匹、警備兵さんたちお願いします!」
「ああ」
「いきます」
「フランツさんと護衛の人たちは漁師さんの避難誘導に専念してください!」
「はい!」
水棲の魔物なんて詳しくないんだけど。
一匹や二匹なら、屈強な漁師さんが銛で一突きらしいけど、数がちょっと多かった。
でもそれも、クリス隊のみんなが揃ってなくても、クリスとオットーさんとザイルさんがいれば全然問題なく退治できる数。
「あまり深追いしないで。沖に逃げるようなら、追撃は自分がします」
「了解ですっ」
水の中に入っちゃうと難易度あがるからね。気をつけないと。
接敵が始まった魚型魔物に対して、クリスたちは難なく剣を振るう。
右側をお願いしてる警備兵さんたちは三人。実力は、それなり、かな。時々障壁を張りながら、怪我のないようにサポートも忘れない。
戦う足元が悪いことと、魚型が素早いことを除けば、西町を襲った魔物の方が強いから、俺としてはなんの苦もない。障壁くらいしか魔法使ってないしね。
なので、戦闘は程なくして終了した。
俺たちが港にすぐ近い場所に馬車を止めて降りたとき、それほど強くはないけれどそれなりの数の魔物が接近していることに気づいた。
港とは言っても、大きな船が何艘も停泊しているとか、そういう場所じゃなくて、四、五人くらい乗れそうな大きめの手漕ぎボートが、何箇所かある木製の桟橋に停められていた。
ごくたまに他国からこの港に船が来るらしいけど、船での移動は本当に稀、らしい。
俺が魔物接近をクリスに伝えると、クリスはすぐに動いてくれた。
フランツさんたちは訝しげな顔をしていたけど、それに構わずクリスと俺と、オットーさんとザイルさんは海辺に走って向かった。
魚型らしく移動速度が早くて、桟橋や浜辺で釣り上げた魚の処理や片付けをしていた漁師さんたちに、海中から飛び上がって襲いかかろうとしていた魚型を、なんとかぎりぎり剣と魔法で薙ぎ払って、間に合わせることができたんだ。
「アキ、残りは」
「ん……と」
オットーさんとザイルさんが海の方を警戒してくれてる。
クリスは俺の傍に戻ってくると、腰を抱いて額を重ねてくる。
「とりあえず近くにはいないと思う」
「そうか」
額を重ねている至近距離で、クリスが笑った。
「お疲れ様。よくやったな」
「ちょっと障壁を使ったくらいだよ。むしろ、クリスたちのほうが疲れたでしょ」
「問題ない」
笑ったままのクリスは、そのまま俺にキスをする。
どんなときでも舌を絡ませるのを忘れない、気持ちのいいキス。
とろりと甘い唾液を飲み込めば、すぐにクリスの魔力が、体の中に馴染んでいった。
「助かりました。流石に数が多くてどうしようかと思いましたよ」
「怪我がなくて何よりだ」
クリスの魔力をもらったあと、少し離れた場所にいた漁師さんたちと合流した。
怪我人とかいなくてよかった。
「フランツ殿、魔物の処理だが――――」
クリスがそう言葉にしたとき、漁師さんたちから「任せてください」って返ってきた。
「え。漁師さんが処理するの?」
「まあ、坊っちゃん、見ててくださいよ」
坊っちゃん、て。
奥方様と呼ばれるよりはいいのか?
「お前ら、やるぞ!」
「へーい」
漁師さんたち数人が、浜にまとめた魚型の方に向かった。他に、近くの小屋に向かう人もいるし、浜辺に大きめの石を組み始めてる人もいる。
何するんだろう…ってクリスと一緒についていった。
参戦してた街の警備隊の人たちが魚型の山を見て溜息をついていたけど、漁師さんたちはそれを気にすることなく魚型に手を付けた。
「それにしても今回は数が多いな」
「いつもはこんなにいない?」
「五匹いれば多いほうだな」
っていいながら、腰の後ろに付けた包丁みたいな刃物で、魚型の尻尾近くをザクザク切りつけていった。
それから、バカでかい桶が何個かと、大きめの台が用意されて、大きな水袋から水を流しながら魚型を洗い始めた。
クリスも含めて俺たちも、フランツさんたちも、呆然としてそれを見守っていたんだけど、木の台の上で洗い終わった魚型の頭を落として腹を捌いて……ってところまで見て、ようやく何をしているのかわかった。
「おじさん、氷いる?」
「ええ。今誰かに運んできてもらうので」
「そこの空の桶でいい?」
「その桶でいいですね。坊っちゃんが持ってきてく――――」
話の途中だったけど、俺が魔法で桶に氷をガラガラ入れ始めた途端、あんぐりと口を開けて呆けていた。……他の漁師さんたちも。
「えっと、これで足りる?」
俺の拳大の氷の山ができたとき、
「すげー!!!」
……って。
超大音量で叫ばれた。
はぁ。
びっくりして思わずクリスにしがみついちゃったよ。
今まで、魔物は倒したら素材を取ったりして埋めたりしてきた。
それが普通の処理の仕方だけど、魚型は違うらしい。
漁師さんたちから見ると、魚型魔物は、でかい凶暴な魚って括りになるらしい。
見た目が駄目すぎるので、売り物にはならないけど、漁師仲間で分け合ったりその場で食べるんだって。
……魚魔物。食べるんだって。食べるんだよ。そんな処理の仕方あり?って、ちょっと思った。
「アキだって魔物を食べると言っていただろ?たこやき、だったか?」
「あ、だね。食べるわ」
クリスと二人、目を合わせて笑った。
フランツさんは自分たちが住む街のことなのに、このことを知らなかったみたいで、とにかく驚いてばかり。
「坊っちゃん、生いけますか」
「生……お刺身!?」
「オサシミってのはよくわかりませんけど。塩とその香辛料ちょっとつけて食べてください。プリップリで美味いですよ」
「いただきます!」
お昼ごはん、たらふく食べたことも忘れて、俺は勧められるまま塩ひとつまみとお皿に乗った香辛料を少しつけて口の中に放り込んだ。
「んー……まぃ!!」
「そりゃよかった」
手づかみでね。
俺が出した氷でよく冷えて締まった身は、少しピンクがかっているけど、全く生臭くなくて。
「クリスも!」
って、指で摘んだのをクリスの口元に持っていった。
苦笑したクリスが食べてくれたけど、これ、前にもやったことあるな?まあ、いいか。
「…ああ、店で食べたものも良かったが、これもいけるな」
「だよね。誰もこれが魔物だなんて信じないよね」
「だな」
二人で笑って、尻尾で催促してきたマシロにも味をつけてない小さな切り身を食べさせた。尻尾の動きが激しくなったから、これも気に入ったらしい。
「さ、坊っちゃん、騎士様方、こちらも用意できましたよ!」
って出されたのは、ぶつ切りを塩だけで焼いたもの。
引き締まった身がほんと美味しかったよ!
いつの間にか浜辺には人が集まっていて、お祭り騒ぎになってた。
厄介な魔物ばかりに対峙してきたけど、こういうのもいいかもしれない。
……は。
もしかして、グリズリーさんとかも、うまく捌いたら熊肉食べられた……?……熊肉、食べれるんだっけ……?
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