33 / 216
新婚旅行は海辺の街へ
14
しおりを挟む「魚、更に左から五匹。オットーさんとザイルさん、お願いします!クリス、中央四匹!右側五匹、警備兵さんたちお願いします!」
「ああ」
「いきます」
「フランツさんと護衛の人たちは漁師さんの避難誘導に専念してください!」
「はい!」
水棲の魔物なんて詳しくないんだけど。
一匹や二匹なら、屈強な漁師さんが銛で一突きらしいけど、数がちょっと多かった。
でもそれも、クリス隊のみんなが揃ってなくても、クリスとオットーさんとザイルさんがいれば全然問題なく退治できる数。
「あまり深追いしないで。沖に逃げるようなら、追撃は自分がします」
「了解ですっ」
水の中に入っちゃうと難易度あがるからね。気をつけないと。
接敵が始まった魚型魔物に対して、クリスたちは難なく剣を振るう。
右側をお願いしてる警備兵さんたちは三人。実力は、それなり、かな。時々障壁を張りながら、怪我のないようにサポートも忘れない。
戦う足元が悪いことと、魚型が素早いことを除けば、西町を襲った魔物の方が強いから、俺としてはなんの苦もない。障壁くらいしか魔法使ってないしね。
なので、戦闘は程なくして終了した。
俺たちが港にすぐ近い場所に馬車を止めて降りたとき、それほど強くはないけれどそれなりの数の魔物が接近していることに気づいた。
港とは言っても、大きな船が何艘も停泊しているとか、そういう場所じゃなくて、四、五人くらい乗れそうな大きめの手漕ぎボートが、何箇所かある木製の桟橋に停められていた。
ごくたまに他国からこの港に船が来るらしいけど、船での移動は本当に稀、らしい。
俺が魔物接近をクリスに伝えると、クリスはすぐに動いてくれた。
フランツさんたちは訝しげな顔をしていたけど、それに構わずクリスと俺と、オットーさんとザイルさんは海辺に走って向かった。
魚型らしく移動速度が早くて、桟橋や浜辺で釣り上げた魚の処理や片付けをしていた漁師さんたちに、海中から飛び上がって襲いかかろうとしていた魚型を、なんとかぎりぎり剣と魔法で薙ぎ払って、間に合わせることができたんだ。
「アキ、残りは」
「ん……と」
オットーさんとザイルさんが海の方を警戒してくれてる。
クリスは俺の傍に戻ってくると、腰を抱いて額を重ねてくる。
「とりあえず近くにはいないと思う」
「そうか」
額を重ねている至近距離で、クリスが笑った。
「お疲れ様。よくやったな」
「ちょっと障壁を使ったくらいだよ。むしろ、クリスたちのほうが疲れたでしょ」
「問題ない」
笑ったままのクリスは、そのまま俺にキスをする。
どんなときでも舌を絡ませるのを忘れない、気持ちのいいキス。
とろりと甘い唾液を飲み込めば、すぐにクリスの魔力が、体の中に馴染んでいった。
「助かりました。流石に数が多くてどうしようかと思いましたよ」
「怪我がなくて何よりだ」
クリスの魔力をもらったあと、少し離れた場所にいた漁師さんたちと合流した。
怪我人とかいなくてよかった。
「フランツ殿、魔物の処理だが――――」
クリスがそう言葉にしたとき、漁師さんたちから「任せてください」って返ってきた。
「え。漁師さんが処理するの?」
「まあ、坊っちゃん、見ててくださいよ」
坊っちゃん、て。
奥方様と呼ばれるよりはいいのか?
「お前ら、やるぞ!」
「へーい」
漁師さんたち数人が、浜にまとめた魚型の方に向かった。他に、近くの小屋に向かう人もいるし、浜辺に大きめの石を組み始めてる人もいる。
何するんだろう…ってクリスと一緒についていった。
参戦してた街の警備隊の人たちが魚型の山を見て溜息をついていたけど、漁師さんたちはそれを気にすることなく魚型に手を付けた。
「それにしても今回は数が多いな」
「いつもはこんなにいない?」
「五匹いれば多いほうだな」
っていいながら、腰の後ろに付けた包丁みたいな刃物で、魚型の尻尾近くをザクザク切りつけていった。
それから、バカでかい桶が何個かと、大きめの台が用意されて、大きな水袋から水を流しながら魚型を洗い始めた。
クリスも含めて俺たちも、フランツさんたちも、呆然としてそれを見守っていたんだけど、木の台の上で洗い終わった魚型の頭を落として腹を捌いて……ってところまで見て、ようやく何をしているのかわかった。
「おじさん、氷いる?」
「ええ。今誰かに運んできてもらうので」
「そこの空の桶でいい?」
「その桶でいいですね。坊っちゃんが持ってきてく――――」
話の途中だったけど、俺が魔法で桶に氷をガラガラ入れ始めた途端、あんぐりと口を開けて呆けていた。……他の漁師さんたちも。
「えっと、これで足りる?」
俺の拳大の氷の山ができたとき、
「すげー!!!」
……って。
超大音量で叫ばれた。
はぁ。
びっくりして思わずクリスにしがみついちゃったよ。
今まで、魔物は倒したら素材を取ったりして埋めたりしてきた。
それが普通の処理の仕方だけど、魚型は違うらしい。
漁師さんたちから見ると、魚型魔物は、でかい凶暴な魚って括りになるらしい。
見た目が駄目すぎるので、売り物にはならないけど、漁師仲間で分け合ったりその場で食べるんだって。
……魚魔物。食べるんだって。食べるんだよ。そんな処理の仕方あり?って、ちょっと思った。
「アキだって魔物を食べると言っていただろ?たこやき、だったか?」
「あ、だね。食べるわ」
クリスと二人、目を合わせて笑った。
フランツさんは自分たちが住む街のことなのに、このことを知らなかったみたいで、とにかく驚いてばかり。
「坊っちゃん、生いけますか」
「生……お刺身!?」
「オサシミってのはよくわかりませんけど。塩とその香辛料ちょっとつけて食べてください。プリップリで美味いですよ」
「いただきます!」
お昼ごはん、たらふく食べたことも忘れて、俺は勧められるまま塩ひとつまみとお皿に乗った香辛料を少しつけて口の中に放り込んだ。
「んー……まぃ!!」
「そりゃよかった」
手づかみでね。
俺が出した氷でよく冷えて締まった身は、少しピンクがかっているけど、全く生臭くなくて。
「クリスも!」
って、指で摘んだのをクリスの口元に持っていった。
苦笑したクリスが食べてくれたけど、これ、前にもやったことあるな?まあ、いいか。
「…ああ、店で食べたものも良かったが、これもいけるな」
「だよね。誰もこれが魔物だなんて信じないよね」
「だな」
二人で笑って、尻尾で催促してきたマシロにも味をつけてない小さな切り身を食べさせた。尻尾の動きが激しくなったから、これも気に入ったらしい。
「さ、坊っちゃん、騎士様方、こちらも用意できましたよ!」
って出されたのは、ぶつ切りを塩だけで焼いたもの。
引き締まった身がほんと美味しかったよ!
いつの間にか浜辺には人が集まっていて、お祭り騒ぎになってた。
厄介な魔物ばかりに対峙してきたけど、こういうのもいいかもしれない。
……は。
もしかして、グリズリーさんとかも、うまく捌いたら熊肉食べられた……?……熊肉、食べれるんだっけ……?
126
お気に入りに追加
2,295
あなたにおすすめの小説
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる