上 下
31 / 216
新婚旅行は海辺の街へ

12

しおりを挟む



 朝食は部屋に用意してもらった。
 俺の食事の量は少なめに!ってところはしっかり反映されてて、俺に丁度いい、クリスの半分くらいの量になっていたから完食できた。
 ご馳走様でした。

 食べ終わって侍女さんを呼んで、片付けてもらってから出かける支度に入った。
 いつ頃から街をに出るとか、そういう話はしなかったけど、いつでも出られる準備は大事。
 着るのは制服。今日は視察だから。
 左手首、腕時計確認。
 右手首、ブレスレット確認。
 ベルト、羽根飾り確認。
 右耳、耳飾り確認。
 左肩、マシロ確認………って、そんな今から完璧スタンバイしなくても、ちゃんと連れて行くのに。マシロ可愛いな。

「マシロ?まだ力抜いてていいよ?」
「うみゃ」

 …拒否された。
 機嫌は悪くないらしいけど。背中の左側で尻尾が揺れてるのがわかるし。
 メリダさんが持たせてくれた荷物の中から、ヘアピンを取り出して髪の両サイドを留めた。
 日本に戻ってたときも自分でこれくらいはやってたから、慣れてるし。

「……耳を出すのか?」
「うん。微妙に長いし、ぼさぼさに見えるし」
「……」

 クリスは無言で俺の耳に触れて髪に触れて、溜息をついた。

「可愛い……」

 って、ぼそ、っと。

「左側は髪を下ろしておけ。耳を見せるな」
「え。だって髪、顔にかかるし、マシロの邪魔になるし」

 そう抗議したら、もう一度溜息をついたクリスは、俺の左耳を揉んでから手を離した。

「左にも石をつけていいか?」
「石……クリス色の?」
「ああ」
「いいよ」

 考えるまでもない。
 クリス色のものなら、ちゃんとつけるよ、俺。

「クリスにもつけて?」
「もちろん」

 お互い笑って唇を触れ合わせた。





 フランツさんが迎えに来たのは十時を過ぎた頃だった。
 移動は伯爵家の馬車。護衛の人は基本馬で、オットーさんとザイルさんもそれぞれに愛馬に乗っている。
 視察はこれでいいのか。
 馬車には大きめの窓もついているから、外の様子も見やすい。
 そしてゆっくり移動。

「道路は石畳なんだね」
「どうろ?」
「あー……街道?凸凹が少ないから馬車でもあまり揺れないし」
「ああ。リシャルは港町の中でも賑わってる街だからな。商人も多い分、街の整備にも力を入れているんだろう」
「ええ。道幅は広く取り、この馬車がすれ違っても余裕があるようにしています」

 確かに広い。
 ここがメイン通りって感じなんだろうな。
 昨日も見たように、露店はひしめき合ってるってよりは、店舗と店舗の間がそれなりに距離もあるし、道の両端にきちんと並べられてる感じ。
 俺が街並みを観察してる間に、クリスはフランツさんに街の警備状況とか、他の地域から入ってくる商人さんの話を聞いたりしてた。
 市民さんたちが何人も見える。
 その中に胸当てとかの装備をしてる人もいて、冒険者なんだろうなぁなんて、呑気に見てた。
 ちょっと腰の曲がったお年寄りとか、小さな子供の手を引いたお母さんとか、呼び込みしてるお兄さんとか。
 これだけ道幅が広いと、歩道がなくても自然と歩行者は端を歩くし、比較的安全なのかも。

「……魚」
「ん?」
「魚って、どうやって保存してるんだろ」

 露店で買い物してる人の手には、時々魚と思しきものがある。ビニール袋とかはないから、布袋らしきものに入れられてるけど、尻尾とか頭が出てるように見える。

「主に氷ですね。冬の間に作ったものを氷室で保存しているので。それと、あとは塩漬けにしています」

 フランツさんの答えになるほどなぁと思いつつ、お城の食事にはほとんど出てこなかったのを思い出す。

「輸送は?」
「氷にしても塩漬けにしても、それほど日持ちはしないため、中々難しいですね」
「確かに……」

 収納魔法使えばなんとかなることだけど、ひょいひょいするわけにもいかないし。
 そもそも氷を作るのも大変だし。

「うーん……」

 食べたいんだよね……お刺身。醤油ないけど。もう、マリネとかでもいいんだけど。
 持ち帰ってリアさんに捌いてもらうのはありだよね。お刺身って言っても、きっと料理長わからないたろうし…。
 魔法を使える人がたくさんいれば、氷問題もきっと簡単に解決できるんだけど。

「奥方様は魚は苦手ではありませんか?」
「え?いや、全然」
「そうですか。昼食に新鮮な魚を扱っている店を予約してますので、お口に合えばいいのですが」
「ありがとうございます!」

 魚、魚料理だ!
 …って内心浮かれてたら、苦笑したクリスに腰を抱かれた。はい、すみません。自重します。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。 僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。 僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。 えへへ。 はやくニールと結婚したいなぁ。 17歳同士のお互いに好きすぎるお話。 事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。 ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。 _______________ *ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。 *短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。 *不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。 *甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。

重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。 少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である! 番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。 そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。 離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。 翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。

処理中です...