魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
20 / 216
新婚旅行は海辺の街へ

1 初めての公務……なんて聞いてません!

しおりを挟む



 いくつかの町や村を経由して、目についた魔物を倒しつつ、別荘を出発してから五日目の昼過ぎ、俺たちは海辺の街『リシャル』に到着した。
 馬車の窓を開けると潮の香りがしてきて、自然と気分が高揚していく。
 海、海だよ。海なんて何年ぶりだろう。インドア派なゲーマーな俺が、友達と海に遊びに行くとか、そんなイベントもなかったし、家族で遊びに行った記憶も………、幼少の頃だったはずでほとんど残ってない。
 海に面した町並みは、王都や今まで見てきた町とも違った。
 建物が白っぽいし、道幅が広い。露店とかもあるけど、道路に溢れかえるって感じではなかった。

「クリス、海!海に行きたい!」
「わかったから。でもまずは領主に会うからな?」
「うんうん!」

 リシャルがあるのはゼバルト伯爵領。領主のゼバルト伯爵は、現当主がドメニコさんってことまでは教えてもらった。ドメニコ・ゼバルト伯爵。結婚式にも夜会にも来てなかった貴族の人。
 馬車の窓から外を眺めていたら、少し開けたところにでかいお屋敷が建っていた。それを囲む塀が延々と続いてる。……ほんとでかい。
 馬車が近づくとすんなり門が開いたようで、止まることなく敷地内に入った。

「アキ、おいで」
「うん」

 窓を閉めてクリスの傍に座り直した。
 新婚旅行だけど、視察もあるわけで、視察は完全なお仕事、だ。

「クリスの仕事だもんね…。邪魔しないようにしなきゃ」

 って居住まいを正していたら、俺の腰に手を回したクリスが笑い始めた。

「なに」
「確かに俺の仕事ではあるんだけどな」
「うん?」
「お前も関係あるんだからな?」
「なんで?」
「お前の立場は?」
「俺の立場、って……」

 クリス隊の魔法要員。現在俺含めて二名、ってことじゃないの?服だって制服なんだけど。

 ……って首を傾げながら言ったら、とってもいい笑顔で、「俺の伴侶だろ?」って言われた。
 くすくす笑うクリスに、妙に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「あと、忘れているようだが、俺の伴侶ということは、お前はもう王族の一員だ。少なくても、俺が臣籍に下るまでは、な」
「は」
「俺はここに王族の一員として、この国の王子として視察に来ている。……ということは、アキ、お前も、団員である前に俺の伴侶として、王族として視察に同行してるってことを忘れるなよ?」
「そ、そんなこと、今急に言われても……!」

 俺、王族としての勉強、何一つやってませんけど!
 あわあわしてたら、落ち着けといわんばかりに、口を塞がれた。腰を引き寄せられて、食べるように唇を動かされて舌を入れられる。
 とろりとした甘い唾液を飲み込む頃には、俺の頭の中はクリスのことだけでいっぱいになった。

「俺の傍を離れるな。それだけでいい。何か気になったことがあったら、二人になったときに聞くから」
「……ん」
「何があっても何が起きても、俺の手を離すな。……わかったな?」
「……うん、わかった…ぁ」

 キスでとろとろにされて、焦りとか全部忘れた。
 クリスの傍にいるだけ。
 それなら、いつもしてることだから。




 到着したのか馬車が止まった。
 外から扉が開いて、クリスが先に降りる。
 それから、手を差し出されたので、その手を取って俺も降りた。
 マシロは絶妙なバランスで、俺の左肩に座ってる。えらい。

 お屋敷の玄関前は壮観だった。
 多分、執事さんとか侍女の人たちとか、勢ぞろいで花道を作ってて、みんな頭を下げている。
 それから、見た目四十代くらいのしゅっとしたおじさんと、おじさんに似た少し若い青年と、ドレスを着た女性が二人、クリスを見てから深々と頭を下げていた。

「殿下、この度は我が領にお越しいただき――――」
「堅苦しい挨拶はいい、ドメニコ・ゼバルト伯爵」

 クリスが遮ると、しゅっとしたおじさん――――ゼバルト伯爵が頭を上げた。

「暫く世話になる。アキ、この領地を治めているドメニコ・ゼバルト伯爵だ」
「アキラです。よろしくお願いします」
「殿下のご伴侶様ですね。ドメニコ・ゼバルトと申します。ご滞在中ご不便がないよう尽くさせていただきますので」

 クリスの左手が常に俺の腰に回ってた。……手を離すな、と言われたけど、手を掴めない。うむ。
 ゼバルト伯爵はそのあと家族を紹介してくれた。
 奥さんのマリエルさん、長男のフランツさんは二十二歳、長女のニノンさん二十歳だそう。
 伯爵は日焼けした健康そうな人だ。
 多分細マッチョな感じではなかろうか。完全な俺の偏見だけど、「海の男!」って感じの人。
 挨拶してる間に馬車は所定位置に移動してた。
 クリス隊のみんなには、兵舎が割り当てられているらしい。
 うん。屋敷内に部屋を用意したリアさんがやっぱり規格外だったんだな。

「お部屋には私がご案内いたします」

 ニノンさんはニコニコと俺たちを案内してくれた。
 ……令嬢、かぁ。
 変な視線とかは感じないけど、この人はどんなタイプの人なんだろう。
 ……クリスのこと、気に入られたら、やだ、な。


しおりを挟む
感想 286

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...