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蜜月は続くよどこまでも!?

15 新婚旅行に行きます

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 太陽がかなり中天に迫った頃、漸く朝食になった。
 そのタイミングで部屋に来たリアさんは、ぼーっとしながらクリスの膝の上で餌付けされてる俺を見て、「蜜月って素晴らしい…」って、うっとりしてた。

「……あ、そっか……、リアさんもメリダさんとお城に戻るんだっけ………」

 軽く目をこすったら、クリスにやんわりとその手を外されて、マシロに目元を舐められた。

「マシロちゃんにまで甘やかされている……。アキラさんたちを見送ってから、メリダさんのお手伝いをして戻りますよ?」
「俺たちが、出発?」

 なんのこと…ってクリスを見上げたら、ちょっと考えたクリスが、「ああ」って短く声を出した。

「伝えるのを忘れてた」
「坊っちゃん……」
「殿下、驚かせて喜ばせたいのは理解できますけど……」

 メリダさんは呆れていて、リアさんは苦笑気味。
 一体何。

「アキ」
「ん?」
「今日これから西方にある海辺の街に向けて出立する」
「………へ?……あ、まさか、魔物被害が出た、とか……?」

 霞がかかったように眠気に襲われていた頭の中が一瞬でクリアになった。
 クリスが行かなきゃならない事態になってるってことだよね?

「い、急がなきゃ……っ」
「落ち着け」

 苦笑したクリスが俺の腰をがっしり掴んで、頭にキスを落とした。

「落ち着け、って、早くいかなきゃだめでしょ……?」
「急ぐものじゃない。まあ、道中の魔物は退治しながら行くし、視察も兼ねているがな」
「……?」

 魔物退治しながらの移動は、まあ、今までもしてきたことだ。視察に行く、じゃなくて、視察も兼ねてる、ってどゆこと?

「アキの国では、婚姻式を挙げたら新婚旅行というものに行くんだろ?」
「え」
「以前から海に行きたいと話していたからな。完全な休暇で旅行ではなく視察を兼ねることになるが、新婚旅行で海辺の街に行こうと思う」
「え………」
「完全休暇ではないが…、嫌か?」

 少し困ったように笑って俺の頬を撫でるクリス。

「……嫌なわけ、ないじゃん」

 どうしよう、嬉しい。
 新婚旅行の話題を出したのはエーデル領に行ったときだったはず。確かにあのとき、結婚したら行こう…って話にはなってたけど。

「いいの?」
「うん?」
「クリスの仕事とか…」
「何も問題ない。言っただろ?視察を兼ねている、と。そろそろ行かなきゃならない場所だったんだ」
「そっか……」

 もうなんだか口元がむずむずする。勝手ににまにまして、戻りそうにない。

「マシロ、旅行だって。海に行くんだって!」
「うみゃ」

 きゅって抱きしめて小さな顔に頬ずりしてたら、ふさふさの一本尻尾が、俺の手を撫でた。

「いつ頃出発予定?早く支度しないと」
「ああ…。昼前には出ようと思っていたな」
「………なんですと」

 昼前。
 まだかろうじて昼前、だけど。
 メリダさんもリアさんも苦笑顔。
 そりゃそうだよ。
 俺、寝間着じゃないにしても、出かける格好になってない。

「い、急がなきゃ……っ」
「慌てる必要はないが」
「や、だって、クリス隊のみんなだって、昼前に出発するってことで準備してるよね?」
「だな」
「だったらクリスも急いでぇ…!?」
「いいから。ほら、茶を飲め」
「え、うん」

 あまりにもクリスが普通すぎて、勧められたお茶を飲んだら気分が落ち着いた。
 それでうっかり果物とかを口に入れられたら、俺も通常モードに逆戻りした。
 クリスに甘えるの好き。甘やかしてくれるの好き。

 最後までしっかり食事を終えて、「支度するか」ってクリスの言葉に、慌てていたことを思い出して更に慌てふためいたことは……言うまでもない。





 王都から見て西側にある海辺の街『リシャル』は、エーデル領と同じような貴族領の街らしい。
 旅支度と言っても俺が準備するものなんて殆どなくて、少し遠出用に着替えただけ。
 乗馬かなと思っていたら、今回も馬車だった。馬車はしっかりとクリスの印が入っている王族仕様。室内も座り心地良さげな座椅子にクッションに毛布に…と、いたれりつくせりだった。
 マシロの寝床の籠も馬車内に持ち込んで、玄関前で最終確認。
 今回、王都にお嫁さんがいるケインさんはお休みで既にいない。お嫁さんがそろそろ出産なんだって。めでたい!

「アキラさん、ご無理はだめですからね?ご自身の体を労ってくださいね?」
「はい、気をつけます」
「お土産は昆布で!」
「らじゃ!」

 メリダさんとリアさんの言葉に笑って返して、マシロを抱っこして馬車の中に入った。
 大きめの窓を開けて、そこから身を乗り出す。
 オットーさんとの打ち合わせが終わったらしいクリスが、馬車の方に戻ってきた。

「それじゃメリダ、行ってくる」
「ええ、坊っちゃん。何事もなくご帰還されることお待ちしておりますね」
「ああ。メリダもしっかり体を休めてくれ」
「ええ」
「セシリア嬢、今回の件感謝する。一月近く引き止めて悪かった」
「殿下とアキラさんのお役に立てて、嬉しく思っております」

 クリスは二人に頷くと、「行ってくる」と言葉をかけて馬車の扉を開けた。

「「行ってらっしゃいませ」」

 クリスが乗り込んで俺の隣りに座って、俺の腰に手を回してきたタイミングで、馬車が走り出した。

「行ってきます!」

 カーテシーをした二人に手を振ったら、頭を上げたリアさんも手を振り返してくれた。
 クリスがすぐに窓を閉めて、目隠しの厚めのレースのカーテンをしてしまう。
 それから当然のように、俺を膝の上に持ち上げて、俺もクリスに抱きついた。

「楽しみか?」
「もちろん!」

 クリスの手にマシロの尻尾攻撃が始まるまで、舌を絡めるキスを繰り返した。
 俺は笑いながらマシロを抱っこして。
 最初で最後の新婚旅行に、わくわくした気持ちで一杯になっていた。


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