上 下
9 / 216
蜜月は続くよどこまでも!?

6 異世界でバーベキュー!!

しおりを挟む



「みぅ」
「マシロ」

 必死に俺にしがみついていたのは、小さなマシロだった。
 ぶんぶん振ってるフサフサの尻尾は、見事に二本のまんまだけど。

「みぅ」

 マシロが離れない。
 抱っこしたくても服に爪を立てていて抱っこできない。

「寂しかった?」
「み」
「どこにもいかないよ?」
「…ぅ」

 やっと納得したのか安心したのか、片手で抱き上げて顔と顔を触れ合わせた。
 あー……もふもふがいい。気持ちいい。
 マシロも嬉しそうでずっとすりすりしてたら、にゅっと伸びてきたクリスの手に、マシロを取られた。

「みゃっ」
「クリス」
「いつまでそうしてるつもりだ」

 むっとした顔のクリスに、マシロは容赦ない尻尾アタック二倍をしかけていて、ビシビシと音がした。
 あわわ……ってマシロに手を伸ばしたら、クリスが俺の左肩にマシロを乗せた。

「え」
「うみゃ」
「そこにいろ。早く尻尾を隠さないとお前はアキの傍にいられなくなるなぁ?」
「ぴ」

 ざわっと魔力が動いて、マシロの尻尾が一本に擬態完了したらしい。

「いい子」
「みゅ」

 俺の肩に満足そうにへばりついてるマシロは、その場所を気に入ってるんだな。
 それにしてもクリスが態々俺の肩に乗せてくるとは思わなかった。
 少しは歩み寄ったみたいな感じ…?

「行こう」
「あ、うん」

 改めて手を引かれて廊下を進む。
 全然気づかなかったけど、装飾が綺麗。なんだか流石王族の別荘……みたいな。
 正面の玄関からではなくて、玄関と反対側にあるサロンみたいなところから湖に面した庭に出ることができた。

「殿下」
「アキラさん」

 俺たちに気づいたみんなから声がかかる。簡易的な日除けも作られていて、メリダさんはそこで椅子に座ってた。

「あらあら坊っちゃん。アキラさんも」

 みんなに挨拶をしたあたりで、メリダさんがにこにこと俺たちを呼んだ。

「メリダさん」
「アキラさん、そこに座ってくださいな。御髪を整えましょう」
「あ、はい」
「全く……。お外に出るんですから、坊っちゃんがアキラさんの御髪も気にしないといけませんのに」

 言葉の中身とは裏腹に、メリダさんの声に険はなくて、手元の鞄の中から櫛とかヘアピンとか色々用意し始めた。
 俺の髪を整えること決めてたみたいな用意の仕方。

「すまない」

 クリスもわかっているのか、笑って答えた。
 メリダさんに髪をいじられながらみんなを見渡していたんだけど、リアさんとギルマスがいるあたりに、ドラム缶を半分にしたみたいなでかい道具が置かれていた。
 その形にはかなり見覚えがあって、目が釘付けになってしまう。
 クリスも珍しそうに見てる。
 クリス隊のみんなは、周囲を見たり薪を手に持っていたり、忙しいらしい。

「はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます!」

 終わってすぐ、ソワソワしながらリアさんのところに行った。

「リアさん、これって」
「ふふ」

 俺、リアさんの行動力を、ちょっとなめてたかもしれない。

「薪はここに入れてください。エアハルト様、エルフィード様、炎系の魔法使えます?弱いのでいいので、火起こししてください!」
「「火起こし…」」

 二人とも苦笑しつつも、半分ドラム缶の中に弱い火を放つ。

「エアハルトさん、火属性苦手だったのに」
「あ、アキラ様……!!!!練習に練習を重ね、鍛錬に鍛錬を重ね、なんとか僅かに扱えるようになったのです……!!!」
「凄いね!」
「あ、あ、アキラ様から褒められた……!!!」

 ……昇天しそうな勢いなんだけど、大丈夫かなこの人。まぁ、いつもどおりだけど。

「なるほど。野宿のときにこれは便利だ」

 エルさんはなにかものすごく納得しながら、パチパチと火の粉を上げて燃える薪を眺めてるし。

「火属性って、こんな使い方しないですか?」
「まあ、しないな。火属性の魔法を扱う奴らは、大概が強い魔法しか放たない。魔力制御が難しいんだよ」

 答えてくれたのはギルマスだった。

「あー……、大雑把に燃やすなり火球を当てるほうが楽ちんってことですね」
「……アキラ、お前それ、火を使う魔法師やつらに言うなよ?あいつらが落ち込むから」
「あ、はい」

 ギルマスの苦笑に俺も頷く。危ない。考えなしで発言するところだった。

「はい、お話ししてないで、次はこっちもです!」

 リアさんは薪の様子を見てから、もう一台の方にむかって、また二人に同じような指示を出した。
 エアハルトさんもエルさんも、今度は躊躇いなくすんなりと薪を燃やしていく。

「本当は炭のほうがいいんですけどね」
「だねぇ」
「すみ?」

 傍に来ていたクリスが聞いてきた。

「あ、ないのか。んっと、薪くらいの木を燃やして………え、どうするんだっけ?」
「残念ながら私も詳しくは知らなくて」
「うーん……」
「燃やしたら灰になるだけだろ?」

 って、ギルマスも首を傾げた。

「そうなんだけどそうじゃなくて、普通の薪よりも火持ちがよくて、火力があって……」
「バーベキューの必須アイテムね」
「だね」
「「バーベキュー…?」」

 難しそうな顔をしたクリスとギルマスに、俺とリアさんは顔を見合わせて笑った。

「実践あるのみ」
「だね」
「実は今日は普通のバーベキューだけではないのです」
「え?」
「ふふふ。アキラさん、絶対驚きますよ?」
「気になるんですけど」
「ふふふ」

 こうしてリアさん主導のもと、王族の保養地にある別荘の綺麗な庭で、バーベキューが始まった。
 うん。
 庭の芝生とか……大丈夫、かな?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...