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団長と副団長は殿下を見守る
1 副団長と団長は休暇の使い方を知らない
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ユージーンが団員になってすぐ、北側の村周辺で魔物が増えていると殿下の下に報告があった。
殿下とオットーは急ぐ必要があると判断し、かなりの強行軍で北側に出向いた。
入団したばかりのユージーンには過酷な任務だったかもしれないが、それでも泣き言も言わずについてきた様子を見ていると、自分がいかに殿下とオットーに甘えていたのかがわかって苦笑してしまった。
急いだ甲斐もあり、村への被害は何もなく、とりあえずの魔物の掃討ができた。
魔物全てが巣を作るわけでなく、闇から突如として溢れ出たという話も耳にする。生態がわからない以上、目に見える魔物を掃討できたとしても、それは『とりあえず』としか言いようがないんだということも理解した。
けれど、差し迫った危機からは逃れることができたのは事実だ。
人数が増えればできることも増える。
村人との交流や、近くの駐屯兵士との情報伝達、そして帰城の準備。三年前はほぼオットーと二人でこなしていたことを、今は十人で手分けすることができる。
そんなことをふと思い出していると、指示を出していたオットーと目が合った。ふ…っと一瞬笑みが見えたのは、オットーも私と同じことを考えていたからだろう。
全てを片付けて帰城したとき、殿下から珍しく全員に休暇が言い渡された。特にユージーンの疲労が酷く、全員がその休暇を喜んだ。
遠征の荷物を片付け、馬の世話を念入りにする。ルドとリドの世話は私がやった。オットーは報告書作りに殿下と執務室に籠もったから。
「今回もお疲れ様」
兄弟馬は私にもよく懐いてくれている。
今回も怪我はなかった。無茶な走りを毎回強いているのに、ルドもリドもよく頑張ってくれている。首筋を撫でると優しい目を向けてくれた。
二頭の世話も終わり、執務室に向かった。
部屋の中にすでに殿下の姿はなく、他の団員もいない。
「まだ終わりませんか?」
「いや、そろそろ終わる」
団長ではない口調のオットー。
真剣な眼差しで書類を睨みつけているオットーは、書類仕事はそれほど得意ではないし好きでもない。……そういうところも殿下と同じ。
邪魔しないように台所に向かい、置いてある茶葉を手に取った。
炎魔石で湯を沸かし、茶葉を入れたポットに注ぐ。トレイに、ポットとカップを二つ載せ、ソファに戻った。
団の人数が増えてやることが増えれば、団長としてやらなければならない、主に書類仕事も増える。
オットーの近くにカップを置き、自分は隣に腰掛けてお茶に口をつけた。
「殿下は?」
「さっさと逃げた」
苦虫を噛み潰したような顔に思わず笑ってしまう。
「殿下の分の報告書をさっさと書き上げて、今頃は陛下と王太子に報告してるだろ」
「それ、全然逃げてないじゃないですか」
「あの机の上を見てもそういうのか?」
羽根ペンで示された殿下の執務机の上には、それなりの書類の山ができていた。まあ、帰ってきて早々やりたくはないだろうな。
「殿下もやるときはやるんですし」
「やらないときはとことんやらないがな」
文句を言いつつも、オットーの手の動きは止まった。
羽根ペンを戻し、カップに手を伸ばす。
「終わりました?」
「ああ」
ひらりと紙を渡されるので、それに当たり前に目を通した。
私が読んでる間に、オットーはお茶を飲み干してソファにぐったりともたれかかる。
「いいんじゃないですか」
遠征の日程、魔物の種類、数。被害と、団の物品消費と補充に関して。後はこれを王太子殿下に届ければ各所に回る。
「……ザイル」
「はい?」
「明日から三日間だそうだ」
「そうですね」
珍しい休暇。
三日間……と言われても、何をしたらいいのかわからないけれど。
「……何をしたらいいでしょう」
「とりあえず明日は手合わせでもするか」
「そうですね。……ああ、ユージーンの軍服も出来上がりますから届けないとなりませんね」
「後は物品の確認か…。天幕はそろそろ一回りでかいのを用意しないとならないな」
「なんなら、今より小さいものを二張でもいいんじゃないですか?」
「それもいいな。……リオは元気すぎてうるさいから」
適当な紙にそれらを書き付けて、……はたと二人で顔を見合わせた。
「………これ、仕事ですね」
「だな」
二人でなんとなく笑い合う。
私達はどうにも休暇を楽しむことができないらしい。
「とりあえず」
「はい?」
「軽く飲みにでも行こうか。多少遅くなってもいいだろ。明日からは『休暇』だからな」
口元だけで笑うオットーに、私も頷いた。
「ええ。いいですね」
二人で王太子殿下に報告書を届け、兵舎に戻り私服に着替えた。
普段お酒はほとんど飲まないが、飲めないわけじゃない。ジョッキ一杯分くらいなら問題ない。
オットーと知り合って三年。
町に出て初めて二人で飲んだ酒は、とてもたのしく美味しく感じた。
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あ、わかった。内面ですね、性格含め、「ふにゃ」とか、酔った時とか(笑)
あ、ユージーンさん加入、異色の経歴w決勝不戦敗、その理由に吹き出しました。でも、人柄良いのが伝わってきました。そんな所が条件なのかな。もうすぐアキちゃん、登場ですね。婚約編、楽しみです。
入団基準は特に明かされていないのですが、『強いこと』だけはあちこちに広がってます。その入団基準も、クリスとオットーさんで微妙に違ってたり。根本は同じなんですけどね。
ようやく婚約編と絡めます!
駆け抜けますよ(笑)
うー、なんなの、ザイルさん可愛すぎます。なるほど、無意識にオットーさん、これにヤられてるんですね。で、年月を得て、恋情に変わる。う、胸がキュンキュンしちゃいますね❣️
確かにこんな可愛い人が身近にいて、自分の補佐してくれて、視線で意図を汲み取ってくれて、かつ背中を預けられる人だと、他に目は向きませんね、オットーさん(笑)
ゆすは様、体調すぐれない中、素敵な恋物語ありがとうございます(*´▽`*)
お身体、無理ない範囲で頑張ってください。台風近づいてるので、こちらも偏頭痛きてます。お互い、「身体だいじに」でいきましょう。
ザイルさんは『可愛いしっかり者』。容姿が可愛いではなくて、なんでしょう……性格かなぁ。容姿的には女性からも好まれる好青年。でも、気が緩んでたり、気を許してる相手の前だと、ふにゃ、っとなるような、でしょうか。なので、当然すでにオットーさんの前では『ふにゃ』なザイルさんですので、可愛いです(笑)
偏頭痛辛いですね💦
私もずっと頭痛と眠気で思うように書けなくて溜息連続です…。そうですね。お互い『身体大事に!』ですね!
更新ヽ(´ー`)ノありがとうございます😆😆
まだ出逢ったばかりなのに、なんかキュンキュンしなが、胸が締め付けられたりしながら読んでます。
結ばれるのわかってるのに……不思議(自分が)
これからも楽しみにしています!
こちらこそありがとうです^^
私もこの二人はお気に入りなので、楽しんでいただけるととにかく嬉しいです✨
終わりが見えてるのに、肉付けをしたくてしたくて、中々進まなくて申し訳ないです……💦