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団長は副団長と友になる
9 団長と副団長の一歩進む夜
しおりを挟む◆side:ザイル
「俺も連れて行ってください!」
一通りのことが片付いてから、ディックからそんな声が上がった。
殿下は考え込む様子もなく、一度だけ頷いて団長を見た。
「どうだ?」
「問題ないかと」
「なら、オットーと手合わせしてくれ」
という短い会話がされたあと、オットー団長とディックの打ち合いが始まった。
場所は駐屯詰め所の敷地内。
周囲にはホグミッド団長を始めとして、兵士たちもいる。
鈍い金属音。
ざりっと土を踏む音。
団長の動きに遅れることなくついていくディック。
彼の希望に対して、殿下も団長も『問題ない』と判断した。それはつまり、彼が殿下の下につくことを示している。
多分、この打ち合いの結果は影響しない。彼が私達の仲間になることは確定しているはず。
一年も二人で各地を回っていた殿下と団長。私が彼らの目に止まったのはほんの一月前。殿下に直接声をかけてもらったけれど、こんなふうに腕試し的な打ち合いはしなかった。
何故だろう。
この手合わせを見ていると胸がざわつく。
仲間が増えることは恐らくいいことのはず。かなりの多忙だったんだ。だから、殿下や団長が認めるくらいの強さを持った人物が増えることは喜ばしいことのはずなのに。
私はうぬぼれていたんだろうか。
殿下に認めてもらって、自分が特別のような気になっていたんだろうか。
団長が打ち合うのは、手合わせするのは、殿下以外には自分しかいないと思い込んでいたんだろうか。
息も切らさずオットー団長と打ち合い続けているディックは、もしかしたら私よりも強いかもしれない。
実戦で磨かれてきた腕前は確かなものだから。
「そこまで」
胸の奥に嫌な痛みを感じたとき、傍らから殿下の声があがって現実に引き戻された。
二人とも特に怪我はしていない様子で、僅かに距離を取り頭を下げた。
「どうだった?」
殿下の問に、オットー団長は特に変わらない表情でうなずいた。
「よく鍛えているようですね。力の乗った重い剣です」
「お前相手にあれだけできるなら問題はないな」
「ええ。素直さもあるので、鍛えがいがあるかと」
評価は概ね良好……といったところだろうか。
「ディック、だったな」
「はい!!」
「その腕であれば十分だ。俺たちと来る覚悟があるなら、明日の早朝ここに来い」
「明日…ですか?」
「村の人達に王都に行くことを説明しないとならないでしょう?貴方にはまだ家族がいるはずです。成人されてるとは思いますが、家族と、村民たちと、しっかり話し合ってきなさい」
殿下の言葉に続けて団長が言葉を重ねる。
ディックはその思いをしっかりと受け止めた様で、神妙な顔つきで頷き返した。
◆side:オットー
ザイルの様子が少しおかしい。どこが、というはっきりしたものではないが、全体的に元気がないように見える。また一人で何か思い悩んでいるんだろうか。
この夜は駐屯地詰め所内で部屋を借りた。殿下は一人部屋、俺たちは四人部屋を二人で使う。
全てが片付いてからの情報のすり合わせにはかなり時間を要した。
目の当たりにしてるはずなのに、魔物が巣を作り数を増やすという説明を中々理解しようとしない。
正直、魔物の相手をしている方が楽だ。
風呂を借りてから部屋に戻ると、ザイルは窓際のベッドに腰掛け、何かを考え込んでいた。
俺が戻ったことにも気づかないようだ。
溜息を噛み殺し、ザイルの近くまで歩み寄り、床に膝をついた。
「ザイル」
「!!」
下から覗き込むように顔を見て声をかけると、飛び跳ねる勢いでザイルは驚き、危うくベッドからずり落ちるところだった。
「び……びっくりした……」
「私が戻ったことにも気づかないくらい何を考え込んでたんですか?」
「……それは」
視線が定まらず、俺を見ようとしない。やはり何かを抱え込んでいるようだ。
「付き合いの短い私には言えませんか」
若干皮肉のようにも聞こえる言葉だったが、ザイルが弾かれたように俺を見たから良しとする。
「違……っ、……あの……っ」
「はい」
「………ディックは、強かったですか」
「ええ、そうですね」
「……っ、私、よりも、ですか」
「ザイル?」
「あ、…っ、え、と」
困ったようにまた動き出す瞳。
何を心配してるのかと思えば。
「馬鹿だな」
「え?」
思わず口をついて出た言葉に、またザイルは俺を見た。
「俺とあの殿下が見つけて、鍛えて、泣き言言わずしっかり食らいついてきて、俺と殿下の手合わせの相手ができて、俺が後ろを任せることができて、俺の動きに合わせることができるザイルが、あの青年より弱いわけがない」
「だん、ちょう…」
貴族の三男ってのは、こんなに自己肯定感が低いものなんだろうか。俺が知ってる貴族なんて、誰も彼も自己中心的で使えないやつばかりだ。そいつらは、皆、当主だったり嫡男や次男だったりするんだろうか。
「あの…」
「オットー、でいいですよ」
「え」
「団長ではなく。オットー、で」
「……オットー……さん」
「オットー、だけで」
「……オットー」
「ええ。貴方は、仲間であり、弟であり、友であると、私は思っているので」
「友………」
「駄目ですか?貴族と平民では友になりえませんか」
卑怯な言い方だとも思うが、本心ではある。ザイルがどう思ったかはわからない。
「…私が、オットー団長の友、だなんて……」
ザイルの瞳はかなり揺れた。
それでもしっかりと意志を持った色で俺を見る。
「嬉しい、です」
少し、困った顔で、ザイルは言った。
*****
友です。友人です。まだ(笑)
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