魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長と友になる

7 団長と副団長は阿吽の呼吸で行動す

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◆side:ザイル

 体がよく動く。
 オットー団長がどう動くのか、何を考えているのか、よくわかる気がした。
 特にすり合わせをしなくても、望む行動ができる。ほしいところに確実に助けの手が入り、入れることができる。
 あの魔物と戦っていたときのような高揚感を覚えつつも、二度とあんな失敗はしない…と、更に気を引き締める。

「この魔獣は数が多いのか?俺たちの村もこいつに家畜がやられた」

 訓練されている兵士よりも剣の扱いが上手く、私達が到着するまで兵士たちを庇いながら魔獣と対峙していたディックという青年が、顔を歪ませ吐き捨てるように呟いた。
 それを聞いてオットー団長を見れば、口元に指を当て軽く目を伏せた。けれどそれは一瞬のことで、すぐに目の前に迫った爪を剣で払い除け、私を見て頷いた。
 可能性が、ないわけではない。
 オットー団長もそのことに思い至ったのか、今までと動きが変わった。

「村人への被害は?」
「それはなかった」

 不幸中の幸いだ。
 家畜だけで済んでよかったと言えるはず。

 二体いる魔獣のうち、より手負いの方に集中的に攻撃を仕掛ける。出血が多くなればそれだけ動きは鈍くなり、狙いやすくもなる。
 そこから更に数撃いれたとき、詰め所から案内してきた兵士たちが前線に追いついてきた。

「「殿下」」
「間に合ったようだな」

 殿下は周囲を見渡してから、私達に視線を移す。

「オットー、ザイル、もう一体の方の後脚の腱を断て」
「「御意!!」」

 到着した兵士たちが対峙している魔獣の脇をすり抜け、その背後にいるもう一体の魔獣に接敵する。
 無傷ではないが、私達が攻撃を集中させた頃からこちらを警戒したながら状況を見ているように感じた。
 だが、私達が接敵した瞬間、牙の間からちろりと炎が見えた。

「…!!」

 地を蹴った方向は、オットー団長とは逆方向だ。巨体を挟んで言葉は届かなくても視線は通る。
 魔獣は火の粉を撒き散らしながら首を私の方に向けてきたが、その炎が吐かれる前に、オットー団長の剣と私の剣が後脚の腱を斬った。
 呻き声のような咆哮。
 私達が後ろに飛び退ると、辺りに炎を撒き散らしながら脚を引きずりながら森の奥に入っていく。
 前脚だけで移動していくことを想定していたけれど、浅かったのかまだ後脚も動くようだった。

「怪我は?」

 オットー団長は剣を納めながら私の方に歩みよってきた。
 魔獣のことは一瞥しただけ。

「ありません」

 そう笑って答えれば頷いてくれた。

「今すぐ止めを…!」

 ……との叫び声に、数人の兵士がヨタヨタと歩いていく魔獣に向かおうとする。……が、オットー団長は笑顔を張り付かせた顔で彼らの足元を鞘に入れたままの剣で思い切り薙いだ。

「!?」

 まあ、痛いだろうけど。
 声もなくその場で転がる兵士たちに、若干の同情をしてしまうのは、……許してもらおう。

「な、なにを…っ」

 ホグミッド団長が苛々と声を上げる。
 殿下はそれを手だけで制し、下馬してから私達の方に来た。

「あると思うか?」
「恐らく。…実際に見たのは一度だけですが」
「そうだな」

 魔物の繁殖に関しては知られていないことが多いが、獣型を取るような魔獣や、知能が高い魔物は、巣を作り繁殖することがある。
 今回の魔物数の増加がこの近辺に巣を作り繁殖していることなら、その巣を叩かなければ被害は収まらない。
 殿下とオットー団長はそのことを念頭に動いていた。……指示は、なかったけど。本当にこの人たちはこういうことを平気でやるんだから。

「殿下…?」

 ホグミッド団長はなんの話をしているのかわかっていない。
 殿下は軽く息をつき、ホグミッド団長に向き合う。

「巣を作り繁殖している可能性がある」

 そう一言だけ口にする。
 それだけで兵士たちはざわめき、オロオロとしている中、あの青年だけが「なるほどなぁ」とその場の雰囲気を壊すような口調で納得していた。
 そのことだけでも苦笑してしまう。
 訓練された兵士よりも、訓練されていない平民である彼のほうが冷静に事態を把握しているなんて。

「殿下」
「ああ」

 オットー団長が指笛を鳴らした。
 すぐにルドとリドが駆けてくる。うん、いい子達だ。
 私達が手負いの魔獣を追いかけるべく騎乗したとき、ディックという青年が駆け寄ってきた。

「すみません、自分も行かせてください。自分はディックです。剣は多少使えます。馬もいます」
「……いいだろう」

 殿下の思案はほんの僅かな時間だった。
 ディック青年は「ありがとうございます」と頭を下げ、指笛を鳴らした。

「よろしくおねがいします」

 ディック青年の相棒は筋肉がよくついた逞しい馬だった。




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