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団長は副団長と友になる
6 副団長の言葉に団長は喜ぶ
しおりを挟む◆side:オットー
件の報告を寄越した駐屯兵士団の詰め所に到着したのは、王都を出てから六日後のことだった。
北部駐屯兵士団は何箇所かあるが、そのうちの第三兵士団に当たる。
ここの団長は男爵家の長男だったか。
がっしりした体格の男が殿下と握手している姿を見ながら思い出していた。
「――――ホグミッド男爵の嫡男です。彼自身は領地より兵団のほうが性に合ってるとかで、男爵家は弟が継ぐことが決まってます」
「ああ」
「裏表のない豪快な人物だったはずです」
……と、ザイルが、ごく小さく俺に伝えてきた。一瞬だけ視線が俺に向いたが、すぐに殿下を見る。
「あとは……私が知る貴族の姿は見ませんでした。……それにしても、団長殿はどこまで体を鍛えるつもりなんでしょう……。なんだか羨ましいです」
確かに兵士団の団長は筋骨隆々……という言葉が、よく似合う体格をしていた。隣に立つとあの殿下が小さく見えるほどだ。
……羨ましい、か。
ザイルはああいう筋肉質な体格を好ましいと思うのか。
それはなんだか、酷く苛つく。
「……筋肉はあればいいというものではないですよ」
「オットー団長?」
殿下に視線を合わせていたザイルが、俺の思わず漏らした呟きを聞き取り、再び俺を見た。
……俺は何を言ってるんだ。こんな、張り合うようなこと、言いたかったわけじゃないのに。
ザイルは少し考え、また視線を殿下に移すと、口を開いた。
「私は――――」
「ご面談中、失礼いたします!北西の森に魔獣数種が出現し、戦闘中です……!!」
突如入った報告により、ザイルの言葉はかき消えた。
ザイルは俺を見ると頷き、誰よりも早く面談室を出る。
「オットー、出るぞ」
「御意」
「殿下……殿下自ら……っ」
「私が出なければ来た意味がないと思わないか?ホグミッド団長」
「しかし、殿下は長旅でお疲れに――――」
「全く問題ない」
一蹴した殿下の後ろに付き詰め所を出ると、ザイルが既に馬の準備を終わらせていた。
交わした視線の意味は、違わずに伝わっている。
俺たちが騎乗を終わらせたとき、案内役の兵士とホグミッド団長他数名の兵士が詰め所から現れ、出発の準備を始めた。
殿下は無言で気分を害している。案内役だけつけてくれれば、むしろ、森の場所だけを知らせてもらえれば、既に現地に向けてでることができたのに。
それでも最短と思われる時間で騎乗まで整えたホグミッド団長は、その体格もあり騎乗する姿は妙に様になっていた。
案内役を先頭に、殿下とホグミッド団長が並び、その後ろに俺とザイルがつく。
「……ザイル、さっき」
言いかけていた何かが気になる。
そう問えば、ザイルは「ああ」と思い出し、はにかむように笑った。
「筋肉がつきにくいので、あの体格は羨ましくはありますが、私はしなやかな筋肉で整った体のオットー団長の方がいいですね。剣を扱うのに無駄のない体をしてるので。………あ、すみません。こんな言い方だと変態ぽいですか?」
と、笑うザイル。
予想していなかった褒め言葉に、俺は口元の笑みが抑えられなかった。
駐屯詰め所からさらに北西には、それなりの深さの森があった。
近づくと魔獣の唸り声と思われるものと、金属がぶつかる音が響いてくる。
ここまでくればもう案内はいらない。
軽く殿下が右手を上げたのを合図として、私とザイルは隊列を離れ一気に前に出た。
ルドとリドは競い合うように森に向かって駆ける。
悪路など関係ない。避けきれないものは見事に跳躍し、速度を下げずに駆け抜けた。
森の中では駐屯兵士団の制服を着た兵士に紛れ、平民と思われる青年が剣を振るっていた。
牙をむき出しにする魔獣は二体。あの筋肉質なホグミッド団長よりも大きな魔獣だった。
当初、平民の青年が魔獣に襲われているのを、兵士が助けたのかと思ったが、俺の思い違いに少し口元が緩む。
ザイルに目配せをし、頷いたのを見てから二手に分かれる。
木々の間を縫うように移動し、お互い魔獣の側面から斬り付けた。
「!あんたたちは……」
青年の声を聞きながら、馬から飛び降りそのまままた斬り付ける。
ザイルも同じようにもう一体の魔獣に斬りかかっていた。
「第二王子殿下直属の兵士だ。助太刀感謝する」
「いや」
剣を構えながらも震えて使い物にならなかったのは兵士の方だった。彼がいなければ今頃生きていなかっただろう。
「名は?」
「ディック。ここより少し北にある村から来た」
「私はオットーだ。同じ平民だから、遠慮はいらない」
「……へぇ。平民が王子様の直属の兵士になれるんだな…!」
鋭い爪を押し戻しながら、ディックと名乗った青年は剣を翻し魔獣の皮膚を斬り裂いていく。
……一年前までの、自分を見ているようだ。
あまり良くはない剣をできるだけ大事に扱いながら、生きるための剣を独学で身につけていく。
彼の村には問題はないのだろう。腕もいい、気迫も感じられるが、この青年には悲壮感がなかった。
「オットー団長!」
魔物を押し返して、僅かに出来た時間で、ザイルが俺のもとに来た。
二人で背を合わせながら、ちらりと視線を合わせ、同時に口元に笑みが浮かんだ。
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