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団長は副団長と友になる
5 副団長は団長と殿下の噂が真実だと知る
しおりを挟む◆side:ザイル
噂は噂でしかない――――というのは、大概言えることだ。人から人へ伝わる間に尾鰭が付いて、真実とは異なるものになるのが噂話だと思う。
だから、殿下とオットー団長が今まで二人だけで遠征に出ているとか、短期間であちこち飛び回っている…というのは、彼らを称賛する上での脚色だと思っていた部分もあった。
日も登りきらないうちから三頭の馬の準備をし、収納魔法がかけられた箱を取り付け、殿下が濃紺のマントを翻しながら城から出てきたときも、まだ私は若干楽観視していたと思う。
「先頭は俺が行く。オットーは殿だ」
「え」
「了解しました」
本来であれば、殿下は中央で守られる立ち位置にならなければならない。けど、その配置では中央が私になってしまう。
オットー団長は了解というが、私には納得できなかった。
「殿下、申し訳ありません。その配置では――――」
「問題なければ変更するが、ザイル、きついと思ったらすぐに声をかけろ。オットー、異変があればすぐに、馬を止めろ」
「え」
「はい」
私は納得できないまま出立となった。
目的地までの距離を考えれば、馬で七日ほど。通常であれば十日ほどはかかる距離を七日で走破する予定というのだから、驚きではある。
北側は戦士の国イルドラとの国境に近いが、今回は国境の関所までは行かない。
最近魔物の動きが目立つと駐屯兵士団からの報告があり、一度視察に出ることになった。
王太子殿下に提出された遠征申請書では、十五日間となっていたから、視察自体は一日ほどしかないが、駐屯兵士団がしっかり機能しているなら、その短い期間でも問題はないのだろう。
王都北町は早朝ということもあり、まだ人の姿は見えなかった。
春月の早朝はまだ少し風が冷たい。オットー団長がマントの前をしっきり止めたほうがいいと教えてくれたから、それほど寒さは感じないはずだ。
門番の兵士は私達の姿が見えると一足早く開門し、止まることなく門を通った。
そこから徐々に殿下が速度を上げていく。
それに遅れることなくリドはしっかりとついていき、これなら問題ないと思った。
確かに通常よりはやや速い。やはり噂は若干誇張されていたか……と思ったとき、私の後ろから笛が鳴った。
それは乗馬中の合図になるものだが、その笛の音と同時に、馬脚が一段階速くなった。慌ててリドの腹を軽く蹴り、自分自身の上体を低くし殿下の後につく。
風を切る音で耳鳴りを感じていたが、速さに慣れた頃にはそれは感じなくなっていた。
この速さでも問題ない。
そう、少し気を緩めたとき、再度、笛が鳴った。
◆side:オットー
「………私が中央に配置された理由がわかりました………」
太陽が中天に差し掛かる頃、一度目の休憩を取った。
ザイルはリドから降りると、草の上に倒れ込むように寝転んでいた。
「理由?」
「……はい。本来中央は殿下が配されるべき場所です。どうして私が…と思っていたのですが、この速さに私がついていけない場合を想定してでのことだったんですね」
「いえ。単に貴方が病み上がりなので」
無理をさせないように、と。
後ろから俺が見ていれば不調もわかると思ったから。
そのことを伝えると、なんとも言えない表情でザイルが俺を見た。
「え……それだけですか?」
「それだけですね。そうですよね?殿下」
「ああ」
干し肉を齧っていた殿下が短く答える。
「まあ、様子見ってことじゃ、間違いではないがな。…そもそも、ザイルがついてこれないとは、俺もオットーも考えていない。この一ヶ月、なんの問題もなかった」
「………」
ザイルは体を起こして俺と殿下を交互に見てから、少し鼻にかかった声で「ありがとうございます」と漏らし、頭を下げた。
……除籍になるとかおかしな方向に考えが向くようだから、はっきり言葉にしたほうがいい。
「神殿長殿からは、無理は禁物と言われている。回復しているのは十分理解しているが、無理だけはするな。きつければそう言って構わない」
「……はい。ありがとうございます」
「もう少し速度を落とそうか?」
「殿下とオットー団長が二人で行動されてたときは今より速かったですか?」
「いや、これくらいだな」
「でしたら、このままでお願いします…!一刻も早く風に体を慣らしたいので!」
不安なことが解消されたザイルは張り切りすぎる。それは殿下の執務補佐で十分わかっている。
「無理をするようなら私が否応なしに止めますからね?」
「……っ、はい、肝に銘じておきます……っ」
釘は、刺しておこう。
短時間で軽い食事を摂り、水を口にしてから、馬の状態に問題がないことを確認し再度出発した。
隊列は変わらず。
夕刻近くまで走り続けたあたりでザイルの上体がふらつき始め、強制的に休憩を取らせた。
森の手前。丁度いいので野営の準備もしてしまう。
無理はするなと言ったのに。
困ったやつだ。
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